世界文化遺産登録に向け世界遺産委員会での審議を直前に控えた「佐渡島の金山」の現状についてお伝えします。朝鮮半島出身者が働いていた戦時中の歴史認識をめぐる問題。韓国との協議が登録へのカギを握ります。
約400年の長きにわたり多くの鉱山労働者により採掘が続けられ、国の財政を支えた佐渡金山。
かつて、その鉱山関係者の住宅や商店などが軒を連ねた佐渡市相川地区の京町通りを進んでいくと、今は寂れた様子のコンクリートむき出しの土台のみが残る空地が目に入ります。
【小杉邦男さん】
「戦時中に韓国から1500人来たといわれる、トータルすると。そういう人が連れてこられた。その人たちの給食の賄い場所」
こう話すのは、この地域に住む小杉邦男さん。
案内板などはなく、地元に住む人でもどのような場所だったか知る人は多くないというここは、戦時中佐渡金山で働く朝鮮半島出身の労働者のための食事を作った共同炊事場の跡地。
近くに4か所あった朝鮮半島出身の労働者が暮らす寮まで、ここから食事が運ばれたといいます。
【小杉邦男さん】
「これだけの遺構があって、4つも寮がある。観光客も含めて佐渡の人もそうだが、誰も知らない。歴史教育をしないからだと私は思っている」
世界遺産登録へ向け、現在、開催中の世界遺産委員会で登録の可否が審議される佐渡金山は大きなチャンスを迎えている一方で、その歴史をめぐり火種も抱えています。
隣の国・韓国が戦時中の朝鮮半島出身の労働者について「強制労働させられていた」として世界遺産登録を目指す動きに反発。
【花角知事】
「(歴史認識の問題は)世界遺産の価値の議論とは別の話」
県などは世界遺産としての推薦範囲を江戸時代までに絞っているとして、「戦時中の歴史と遺産の価値については別問題である」との姿勢でPR活動にも力を入れてきましたが…
【韓国 ユンドクミン駐日大使】
「全体の歴史と追悼する空間ができれば」
今年4月、花角知事のもとを訪れた韓国のユンドクミン駐日大使は、朝鮮半島出身者が働いていた時期を含め、全体の歴史を表示するよう求めました。
現在、史跡佐渡金山では、その歴史を振り返る年表で朝鮮半島出身者が働いていたことに短く触れているものの、それ以上の詳細な記述はありません。
こうした中、6月、ユネスコの諮問機関・イコモスは「情報照会」とした勧告の中で、配慮を求める「追加的勧告」として、江戸時代のあとも含む全体の歴史を説明・展示することを盛り込みました。
7月24日、この追加的勧告への対応状況を問われた花角知事は…
【花角知事】
「配慮を要請されているもの、これについては引き続き検討中。ただ、これは直接登録の…情報照会の直接のものではない」
一方、佐渡金山の登録可否を審議する世界遺産委員会の委員国には現在、韓国も含まれていて、登録の実現に向けカギを握るのが、この歴史問題への対応と韓国との協議です。
韓国は2015年に世界遺産登録された明治日本の産業遺産をめぐっても強制労働があったと主張し、その後、日本は歴史を説明する施設を設置した経緯があります。
アジア人初のユネスコ事務局長を務めた松浦晃一郎さんは次のように指摘します。
【世界遺産アカデミー 松浦晃一郎 会長】
Q.追加的勧告も受け入れる姿勢が必要?
「当然必要。明治日本の産業遺産の時に受け入れているわけで、先例に互い対応する必要がある。すべて受け入れるのであれば、全会一致で採択されるのは間違いない」
7月、佐渡市に対し、イコモスの勧告に従い全体の歴史の説明・展示を国などに働きかけるよう求めた小杉さん。
世界遺産登録を願う一人として、韓国と互いに理解しあえるよう向き合う努力をしてほしいと話します。
【小杉邦男さん】
「歴史の事実を覆い隠す必要はない。最大限、指摘されていることをクリアして、世界遺産に結び付けていく。そういう気持ちで堂々と世界遺産として誇るべき」
果たして世界遺産登録の結論は…世界遺産委員会での佐渡島の金山の審議は7月27日に行われる見通しとなりました。