「安かろう悪かろう」の印象は昔のハナシ? 韓国戦車の最新モデルが欧州デビュー 輸出が好調のワケ

フランスで開催された兵器見本市「ユーロサトリ2024」に韓国戦車K2の最新モデルが展示されていました。ただ、メーカーいわく改良型ではないとのこと。どういうことなのでしょうか。
2024年6月にフランスのパリで開催された防衛見本市「ユーロサトリ2024」に、韓国戦車K2「ブラックパンサー」の改良型モデル、「K2EX」が展示されました。
K2「ブラックパンサー」は、防衛企業ヒュンダイ・ロテムが開発した韓国でもっとも新しい戦車で、日本の10式戦車やアメリカのM1A2「エイブラムス」戦車などと同レベルの性能を持つといわれます。今回、展示されたK2EXは、そのK2戦車の改良型で、主に海外への輸出仕様になるそうです。
K2EXの特徴は、砲塔上部に搭載した遠隔操作式の銃塔「RCWS」や、ドローン対策で設置された電子妨害装置などでしょう。ほかにも、戦車に向かってくるミサイルやロケット弾などを迎撃するソフトキル式のアクティブ防護システム(APS)として、砲塔側面の張り出し部分に備えた迎撃用ランチャーも、原型のK2にはない装備です。
加えて、車体各部には監視用のカメラが複数設置されていますが、これらで捉えた映像を統合化することで、全周の状況をリアルタイムで教えてくれる戦場状況認識システムも追加されているとのこと。これにより、乗員は車内に居ながら目視よりも効率良く周辺の状況を把握できるといいます。
「安かろう悪かろう」の印象は昔のハナシ? 韓国戦車の最新モデ…の画像はこちら >>「ユーロサトリ2024」のヒュンダイ・ロテム社ブースに展示されたK2EX戦車主砲の左右にある多角形の板は、飛来する弾頭やミサイルを探知するレーダーアンテナ(布留川 司撮影)。
このような感じで、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)はK2EXの改良点に関する説明をヒュンダイ・ロテムの担当者から受けました。ただ、筆者が「K2戦車のアップグレードですね」と感想を述べると、彼は「アップグレード(改良)ではなくてエンハンスメント(強化)です」と、あえて控えめな表現に言い換えていました。
なぜ、担当者は「そうですね」といわず、筆者の表現を訂正したのか。ともすると、そのまま流してしまいそうな発言ですが、じつはK2戦車の現状を言い表したものだといえそうです。
K2戦車の配備が韓国で始まったのは2014年ですが、その後は輸出のための国外PRを積極的に行っており、中東のオマーンには砂漠仕様のモデルを開発して現地試験を行ったほか、2017年にはノルウェーに改良モデルK2NOを提案し、試験を受けています。そして、2022年7月にはポーランドが約1000両もの大量導入を決めています。
ポーランドの大量導入は2つの段階に分けられており、まず標準のK2戦車から最小限の改良を施したK2GF(ギャップフィラー)型を180両導入し、残りの820両は改良型「K2PL」としてポーランドでライセンス生産する予定です。
なお、K2GFについては既に20両程度がポーランドに引き渡され、K2PLの生産も2026年頃から始まる予定となっています。
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演習で高速道路を走る韓国陸軍のK2戦車(画像:韓国国防部)。
ポーランド向けのK2PLは実質的にはK2EXとほぼ同じです。つまり、今回の「ユーロサトリ」で展示されたK2EXは、今後数年で生産と配備が始まる最新鋭戦車だと言えるでしょう。
そもそも「ユーロサトリ」のような防衛見本市では、自社の技術をアピールするために、実用化されていない開発中の技術まで盛り込んだコンセプトモデルを展示します。しかし、K2EXは生産が間近まで迫っており、そこで使われている技術や機器は、実用化されたか、その目処が立っているものに限定されていることから、10~20年先を見据えたコンセプトモデルと比較すると保守的な構成となります。
ヒュンダイ・ロテムのスタッフがK2EXを「強化型」と表現したのも、こうした事情があったからだと筆者は考えます。
最後に筆者は、ヒュンダイ・ロテムのスタッフにK2戦車が輸出で成功した理由を聞いたところ、その答えはK2EXを「強化型」と言ったくらいに控えめなものでした。
そのスタッフは個人的な意見としつつも、その理由を「価格が安くて、なおかつ新品を直ちに納入できるから」と述べていました。
価格が安いことは、兵器に限らずどんな商取引においても購入対象者(ユーザー)にとっては大きなメリットです。また納入の早さについても、昨今のウクライナ戦争による各国の兵器生産能力の逼迫具合を鑑みると、すぐに兵器を導入して防衛能力の更新・拡充を行いたい国にとっては、その兵器の性能と同等に重要な要素と言えるでしょう。
もちろん、価格だけでなく、K2戦車の場合はその性能が認められ、さらに各国の要求に合わせた改良型モデルを開発し、ライセンス生産といった購入国に有利なオプションが提供できるという利点があります。
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2023年8月15日に行われたポーランド軍事パレードで行進する同国陸軍のK2戦車(布留川 司撮影)。
近年、韓国の防衛産業は輸出が非常に好調です。K2戦車のポーランドに対する大量輸出だけでなく、ハンファ・エアロスペース社のK9自走砲や、KAI社のT-50「ゴールデンイーグル」練習機など複数の国へ輸出・ライセンス生産された装備が数多くあります。
その実績に対して、いまだ日本では「韓国製」という部分に立脚した懐疑的な意見も見受けられるものの、すでに無視できないものであることは間違いありません。しかも、成約に至った理由は、兵器の値段や性能だけでなく、こうしたユーザーニーズに立脚した部分も多分に含まれるのではないでしょうか。
日本では、韓国兵器を「安かろう悪かろう」という色眼鏡で見る向きが依然としてありますが、そのような見方は欧米を含め他国ではほとんどありません。
事実、K2戦車についてはルーマニアやエジプトが導入を検討していることから、今後さらに採用国が増え、その実績をもとに更に売れる可能性も高いといえそうです。