[社説]最低賃金50円増 底上げと継続の環境を

厚生労働省の審議会は、2024年度の最低賃金の目安を、50円引き上げて全国平均で時給1054円とすると決めた。引き上げ幅は過去最大。時給も過去最高額だ。
物価高騰や春闘で大幅な賃上げが相次いだことを重視したという。
最低賃金は、パートやアルバイトなど非正規雇用者も含め全ての労働者に適用される時給の下限額だ。引き上げは、働く人々の暮らしを守り、賃金の底上げを図るためにも欠かせない。
04年度に全国平均で665円だった最低賃金は右肩上がりで伸び、23年度に初めて千円の大台を突破した。
賃金は上昇傾向にあるものの、しかし生活苦を訴える声が高まっているのはなぜなのか。
物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金で見れば、前年比マイナスが2年以上も続いている。
今春闘で主に大企業の労働組合が加盟する連合の平均賃上げ率が5・10%だったのに対し、中小零細企業は2・3%にとどまった。
今後、目安通りに改定されたとしても、千円を下回る県が全体の約3分の2に上る。
時給千円以下ではフルタイムで働いても年収は200万円に届かず、最低賃金法が目的とする「労働者の生活の安定」を図ることは難しい。
岸田政権は、最低賃金の全国平均を30年代半ばまでに1500円に上げる目標を掲げる。
日本の最低賃金は海外に比べてなお低水準。さらなる引き上げが求められる。
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最低賃金の最終的な額は、この目安を参考に都道府県の地方審議会が決め、10月以降順次適用される。目安通りに改定されれば沖縄県は946円となる。
900円を超えるとはいえ、岩手県の943円に次いで全国で2番目に低い。1163円と最も高い東京都とは217円もの開きがある。
特に沖縄は非正規で働く人の割合が高く、最低賃金水準が及ぼす影響は大きいといえる。
賃金の高い大都市などへの人材流出は以前から懸念されている。それと同時にここへ来て新たな課題も浮上している。
開業予定の大型スーパーやテーマパークが、県内の最低賃金を大きく上回る1500円、1200円といった時給で人材確保に乗り出してきたのだ。
人材確保競争が激化すれば、他事業者の人手不足が深刻化しかねない。
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賃上げの必要性は感じつつも、経営基盤が弱い中小零細企業にとって、引き上げのハードルは高い。
物価高騰でコストが膨らむ中、価格転嫁もままならず、原資の確保に悩んでいるのだ。
価格転嫁しやすい環境を整えるなど、政府が中小企業を支える政策を強力に推進しなければ賃上げは期待通りに進まない。
さらに賃上げを継続させるには、生産性の向上など企業自身が力をつけていく政策が重要となる。