現在、介護業界では人材確保の有効な手法として、「ワークシェアリング」という就労方法に注目が集まっています。
ワークシェアリングとは、本来一人の就労者のみが充てられていた仕事を、複数の就労者で分け合うことです。就労者はワークシェアのサービス事業者に登録し、自分が空いている時間で働ける仕事があれば就労するというスタイルです。近年ではスマホのアプリで簡単に登録、仕事の検索を行えます。
こうした就労形態は雇用する側にとってメリットが大きいです。フルタイム就労による雇用の場合、もしその就労者が休んだり、離職したりすると、業務の遂行に大きな支障が発生します。一方、ワークシェアリングの場合、1人あたりに任せる仕事の量は少なく、たとえ担当の就労者が急に働けなくなっても、その時間に空いている他の人材をすぐに割り当てることが可能です。業務プロセスに大きな穴が空くことがありません。
このワークシェアリングの雇用形態が介護業界で積極的に導入されるようになり、注目度が高まりつつあるのです。
介護分野でのワークシェアリングでは、従来は介護施設・事業所で1人の介護職員に任されていた業務を、仕事単位ごとに切り分け、それを複数人で担当するという手法が一般的です。
例えばデイサービスの場合、送迎、食事の準備、レクリエーション、ケア業務など、本来は1人の正職員が行って業務を、それぞれ仕事内容ごとに分割。業務ごとにワークシェアリングのサービス事業者に登録している介護職が担当します。働く側にとっては就労時間、給与額は少ないですが、空いた時間を活かして働くという就労スタイルが可能です。
そしてこの働き方は、人材不足が続く介護業界全体にとって利点が大きいと言えます。「フルタイムでは働けないけど、短時間だけなら働ける」という介護職の雇用をすくい上げることができるからです。ワークシェアリングは、介護業界の人手不足を解消する手法の1つとしても位置付けられます。
厚生労働省によると、介護人材の必要数は2019年時点では約211万人でしたが、2025年には約243万人、2040年には約280万人と高齢化の進展により年々増加。2040年までには2019年よりも約69万人も介護人材を増やさなければなりません。そうした状況の中、ワークシェアリングという就労形態は、必要人材数の確保への一助になり得ます。
介護職に正職員として勤務する場合、従来の働き方だとフルタイムが基本です。老人ホームの場合、夜勤など不規則な勤務形態が発生することもあります。
一方、ワークシェアリングの場合、働きたい時間を決めた上で勤務できるので、働きたくない時間に無理に就労する必要がありません。そのため、育児や介護などを理由に正職員介護職を離職した人も、ワークシェアリングという方法で空いた時間を使って短時間のみ働けます。
要介護者が増える2025年問題が迫る中、「介護離職」の増加が社会問題として注目を集めつつあります。こうした事態が増えるのは、介護職でも同じこと。しかしワークシェアリングであれば、正職員では無くなるものの、介護の仕事と親の介護の両立がしやすくなります。
また、完全に介護の仕事から離れずに済むという点も大きなメリットです。育児・介護をしながら勤務できるので、仕事にブランクが生じません。将来、育児・介護の負担が無くなったときに、再びフルタイムで働くべく介護施設・事業所に再就職の活動をする際にも、ブランクがないことは有利になるでしょう。
介護職が担当する業務には、対応を誤ると利用者の生命にも関わるため、専門的な知識・スキル・経験が求められます。
しかし、本来介護職が1人で担っていた多数の業務を切り分けるワークシェアリングの働き方だと、すべての業務において高度な専門性は求められません。また、任されたスポット業務のみ集中して行えるので、仕事内容を早く覚えることができ、習熟の時間も早くなります。つまりワークシェアリングという働き方は、未経験者でも就労しやすいわけです。
この特徴は、現在の介護分野における新規人材の獲得状況に適しています。公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査」によると、現在働いている介護職に「前職の勤務先の仕事内容」を尋ねたところ、63.1%が「介護・福祉・医療関係以外の仕事」でした。「介護関係の仕事」は3割程度であり、約6割が介護職未経験から新規参入しているのです。
ワークシェアリングであれば、いきなり介護業務すべてを担当する必要がありません。未経験者でも働きやすく、資格を取得しながら少しずつ業務の幅を広げていけます。新人職員が入所早々に多量の仕事を任されて、過労状況に陥って離職するといった状況もないわけです。
特に要介護者を利用対象とする入所施設の場合、看護師の配置も重要となってきます。しかし、看護師自体、全国的に不足度が高まりつつあり、介護施設でも人材確保が大変になりつつあるのが実情です。
厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会中間とりまとめ案(概要)」によると、看護職への2025年時点の人材需要の推計は180万人~200万人。一方、人材供給の推計は174万人~182万人。全国の合計値で数万人~10万人以上の看護師不足が生じると予測されています。
介護現場での人材不足というと、介護職員・訪問介護員に目が行きがちです。しかし要介護者を受け入れる介護施設などでは、看護職員の確保も必須事項。待遇が比較的良好な医療機関でも不足しがちな看護職員を、介護施設が確保しようとするのはより困難な作業ともいえます。
しかし、就労者にとって働きやすく、かつ雇用する側も人材確保がしやすいワークシェアリングであれば、この問題への対処法の1つになり得ます。介護職員だけでなく、看護職員もワークシェアリングによる雇用が普及していけば、人材不足を補える可能性が高まるでしょう。
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ワークシェアリングのデメリットとしては、働き方が短期的で限られた業務のみの担当となるため、サービス利用者にとっては頻繁に職員が変わることになります。利用者と一緒にいる時間が減ってしまうので、正職員に比べて、顔なじみの関係が作りにくいです。
この点は同僚のスタッフに対しても当てはまり、ワークシェアリングだとスタッフ同士で人間関係を構築していく時間が少なく、「職場環境になじみにくい」という状況が生じる恐れがあります。例えば正職員とワークシェアリング勤務者との間に心理的な距離感が生じ、関係性が悪化してしまうというリスクも考えられるでしょう。
介護現場のリーダー・施設管理者には、正職員、ワークシェアリング勤務者ともに働きやすい環境づくり・対策が求められます。
今回は介護業界で注目を集めつつあるワークシェアリングの働き方について考えてきました。人材不足が深刻化する中、ワークシェアリングが今後さらに介護業界でさらに普及していくかどうか、引き続き見守っていきたいです。