後期高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者(一定の障がいがある場合は65歳以上)を対象とした医療保険制度です。この制度は2008年に創設され、高齢者の医療を社会全体で支える仕組みとして機能しています。
制度の特徴として、運営主体が都道府県単位の後期高齢者医療広域連合であること、原則として75歳になると自動的に加入することなどが挙げられます。保険料の決定方法は、以下の要素を考慮して2年ごとに見直されます。
1. 医療給付費の見込み2. 後期高齢者負担率3. 被保険者数の推移4. 所得水準の変化
保険料は「均等割」と「所得割」の合計で構成されています。均等割は被保険者全員が等しく負担する定額部分で、所得割は前年の所得に応じて計算される部分です。
2024年度の全国平均の保険料率は以下の通りです。
均等割額(年額):50,389円所得割率:10.21%
これらの数値を基に、個人の保険料が算出されます。例えば、年金収入が200万円の場合、おおよその計算式は次のようになります。
年間保険料 = 均等割額 + (年金収入 – 基礎控除) × 所得割率= 50,389円 + (2,000,000円 – 430,000円) × 10.21% 210,389円(月額約17,532円)
この計算例からも分かるように、年金生活者にとって保険料の負担は決して軽くありません。次の項目では、2024年度の制度改定による変更点と保険料の推移について詳しく見ていきましょう。
2024年度の後期高齢者医療制度改定では、保険料の負担割合に大きな変更がありました。主な変更点は以下の通りです。
2024年度から、後期高齢者負担率が11.72%から12.67%に引き上げられました。これは、高齢者と現役世代の負担のバランスを調整するための措置です。
全国平均で見ると、均等割額が年額47,777円から50,389円に、所得割率が9.34%から10.21%に増加しています。
2024年度は73万円、2025年度は80万円に引き上げられます。
これらの変更により、被保険者一人当たりの平均保険料額は以下のように推移する見込みです。
この推移を見ると、2024年度に大きく保険料が上昇し、その後も緩やかな増加傾向が続くことが分かります。特に2024年度の7.7%という増加率は、年金生活者にとって大きな負担増となる可能性があります。
しかし、この保険料の増加には理由があります。高齢化の進展に伴う医療費の増加や、現役世代の減少による支え手の減少などが主な要因です。次の項目では、年金収入別に見た保険料負担の実態について詳しく解説します。
後期高齢者医療保険料の負担は、年金収入によって大きく異なります。ここでは、いくつかの年金収入パターンに基づいて、2024年度の保険料負担(全国平均)の実態を見ていきましょう。
この層の方々は、均等割額の軽減措置(7割軽減)が適用されるため、比較的低い保険料となっています。
この層は、均等割額の軽減措置(5割軽減)が適用されますが、所得割も課されるため、基礎年金受給者より高い保険料となります。
軽減措置の適用がなく、所得割も高くなるため、保険料負担が大きくなります。
これらの例から、年金収入が増えるほど保険料負担も増加することが分かります。特に、厚生年金受給者の標準的な年金額(195万円)を超える収入がある場合、保険料負担が急激に上昇する傾向があります。
また、2024年度の制度改定では、一定以上の所得がある方(年金収入211万円相当以上)の負担が増加する一方で、低所得者(年金収入153万円相当以下)への配慮措置も設けられています。
具体的には、年金収入153万円以下の方は、制度改正に伴う負担増が生じないよう調整されています。また、年金収入153万円から211万円の方についても、2024年度は制度改正による負担増が生じないよう対応されています。
このように、後期高齢者医療保険料は収入に応じて設定されていますが、多くの高齢者にとって決して軽い負担ではありません。次の章では、なぜ保険料が高くなるのか、その要因と今後の見通しについて詳しく解説していきます。
後期高齢者医療保険料が高くなる主な要因として、日本社会の高齢化の進展と、それに伴う医療費の増加が挙げられます。この影響について、具体的なデータを基に解説していきましょう。
1. 高齢化の進展日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は年々上昇しており、2023年には29.1%に達しています。特に、後期高齢者(75歳以上)の割合も急速に増加しており、2023年には16.1%となっています。
この高齢化の進展により、後期高齢者医療制度の加入者数が増加し、制度全体の医療費が膨らんでいます。
2. 医療費の増加高齢者の増加に伴い、後期高齢者の医療費も年々増加しています。この医療費の増加は、高齢者特有の疾患の増加、医療技術の進歩による医療費の増加、長期入院の増加が挙げられます。
これらの要因により、後期高齢者医療制度全体の医療費が増加し、結果として被保険者一人当たりの保険料も上昇することになります。
3. 保険料への影響高齢化の進展と医療費の増加は、直接的に保険料に反映されます。2024年度の制度改定では、先述の通り被保険者一人当たりの平均保険料額が月額7,082円となり、2022年度・2023年度の6,575円から7.7%も増加しています。
この増加率は、一般的な年金の増加率を大きく上回っており、多くの高齢者にとって家計の負担となっています。
しかし、単に医療費の増加だけが保険料上昇の要因ではありません。次の項目では、後期高齢者負担率の見直しについて解説し、保険料への影響をさらに詳しく見ていきます。
後期高齢者医療制度の財源は、公費(約5割)、現役世代からの支援金(約4割)、そして後期高齢者の保険料(約1割)で構成されています。この後期高齢者が負担する割合を「後期高齢者負担率」と呼び、2年ごとに見直されています。
1. 後期高齢者負担率の推移後期高齢者負担率は、制度創設時の2008年には10%でしたが、徐々に引き上げられてきました。直近の推移は以下の通りです。
2020年度・2021年度:11.41%2022年度・2023年度:11.72%2024年度・2025年度:12.67%
2. 負担率見直しの背景負担率が引き上げられる主な理由は、現役世代の減少と高齢者人口の増加のバランスを取るためです。現役世代の負担が過度に増加しないよう、高齢者にも応分の負担を求める形となっています。
3. 負担率見直しの方法2024年度からは、負担率の設定方法が変更されました。新しい方法では、「後期高齢者1人当たりの保険料」と「現役世代1人当たりの後期高齢者支援金」の伸び率が同じになるよう調整されます。
4. 保険料への反映負担率の引き上げは、直接的に保険料の増加につながります。例えば、2024年度の負担率12.67%は、2022年度・2023年度の11.72%から約0.95ポイント上昇しています。
この負担率の見直しは、制度の持続可能性を高めるために必要な措置でもあります。現役世代の負担を抑えつつ、高齢者医療を維持していくためには、こうした調整が不可欠なのです。
現役世代の負担を抑えながら高齢者医療を維持している必要がある
次の項目では、これらの要因を踏まえた上で、今後の保険料動向と制度の課題について、データを基に詳しく見ていきます。
後期高齢者医療保険料の負担を軽減するため、所得に応じたいくつかの軽減措置や減免制度が用意されています。ここでは、主な制度の詳細と申請方法について解説します。
1. 均等割額の軽減措置均等割額(被保険者全員が等しく負担する定額部分)には、世帯の所得水準に応じた軽減措置があります。2024年度の軽減基準は、世帯全員の総所得金額等に応じて以下の通りです。
7割軽減:43万円+10万円×給与所得者等の数5割軽減:43万円+(29.5万円×世帯の被保険者数)+10万円×(給与所得者等の数-1)2割軽減:3万円+(54.5万円×世帯の被保険者数)+10万円×(給与所得者等の数-1)
2. 所得割額の軽減措置所得割額(前年の所得に応じて計算される部分)にも、一定の所得以下の方を対象とした軽減措置があり、賦課のもととなる所得金額が58万円以下の場合は所得割額が2割軽減となります。
3. 被用者保険の被扶養者だった方への軽減措置後期高齢者医療制度に加入する前日まで被用者保険の被扶養者だった方は、均等割額が5割軽減されます(所得割額はかかりません)。
4. 災害等による減免制度災害で住宅や家財に著しい損害を受けた場合や、事業の休廃止、失業等で所得が著しく減少した場合には、申請により保険料が減免される制度があります。
5. 申請方法これらの軽減措置や減免制度の多くは、市区町村が保有する所得情報等に基づいて自動的に適用されます。ただし、一部の制度(災害等による減免など)は申請が必要です。
申請が必要な場合の一般的な手順は以下の通りです。
居住地の市区町村の後期高齢者医療担当窓口に相談する。必要書類(申請書、り災証明書、所得の減少を証明する書類など)を準備する。書類を窓口に提出し、審査を受ける。
なお、申請期限や必要書類は自治体によって異なる場合があるため、詳細は各自治体の窓口に確認することをお勧めします。
これらの軽減措置や減免制度を適切に利用することで、保険料負担を軽減できる可能性があります。しかし、制度による軽減には限界があるため、次の項目では保険料を安くするための生活設計と健康管理のポイントについて解説します。
後期高齢者医療保険料を安くするためには、制度による軽減措置を利用するだけでなく、個人レベルでの対策も重要です。ここでは、生活設計と健康管理の両面から、保険料を抑えるためのポイントを解説します。
1. 所得管理による保険料抑制後期高齢者医療保険料は前年の所得に基づいて計算されるため、所得を適切に管理することで保険料を抑制できる可能性があります。
収入の平準化複数年にわたって受け取る予定の退職金や譲渡所得を、可能な範囲で分割して受け取ることで、単年度の所得を抑え、保険料の急激な上昇を避けられる場合があります。
所得控除の活用医療費控除や寄附金控除など、各種の所得控除を適切に利用することで、課税所得を減らし、結果として保険料を抑制できる可能性があります。
資産運用の工夫利子や配当よりも譲渡益に重点を置いた資産運用を行うことで、所得税法上の所得を抑制し、保険料の計算基礎となる所得を低く抑えられる場合があります。
2. 健康管理による医療費抑制健康的な生活を送り、医療費を抑制することは、長期的に見て保険料の上昇を抑える効果があります。
定期的な健康診断の受診早期発見・早期治療により、重症化を防ぎ、結果として医療費を抑制できます。多くの自治体が後期高齢者向けの健康診査を無料または低額で実施しているので、積極的に利用しましょう。
生活習慣病の予防適度な運動、バランスの取れた食事、禁煙など、健康的な生活習慣を心がけることで、生活習慣病のリスクを低減し、医療費の抑制につながります。
かかりつけ医の活用日頃からかかりつけ医を持ち、健康相談や早期受診を心がけることで、重症化を防ぎ、不要な受診や検査を減らすことができます。
3. 医療費の適正化必要な医療は受けつつも、医療費を適正に管理することで、長期的には保険料の抑制につながります。例えば、可能な場合はジェネリック医薬品の利用を選択することで、医療費を抑制できます。
また、重複受診・重複投薬の回避も意識しましょう。同じような症状で複数の医療機関を受診したり、同じ薬を重複して処方されたりすることを避け、医療費の無駄を省きます。
これらの取り組みは、個人の健康増進と医療費の適正化につながり、結果として保険料の上昇を抑制する効果が期待できます。しかし、必要な医療を控えることは健康上のリスクを高める可能性があるため、適切な判断が重要です。
必要な医療まで控える必要はない
後期高齢者医療保険料に関する疑問や不安は、個人の状況によってさまざまです。ここでは、相談窓口の効果的な活用方法と、個別のケースに応じた保険料負担の軽減策について解説します。
1. 相談窓口の種類と活用方法
最も身近な相談窓口です。保険料の計算方法、軽減制度の詳細、申請手続きなど、幅広い相談に対応しています。
都道府県単位で設置されており、より専門的な相談に対応しています。
個人の状況に応じた、より専門的なアドバイスを得られます。
2. 個別ケースに応じた保険料負担の軽減策
– 均等割額の7割・5割・2割軽減を確認する。- 所得割額の2割軽減(賦課のもととなる所得金額が58万円以下の場合)を確認する。- 社会福祉協議会等による生活支援サービスの利用を検討する。
– 所得の平準化(複数年にわたる分割受取など)を検討する。- 各種所得控除(医療費控除、寄附金控除など)の活用を検討する。
– 均等割額の5割軽減措置の適用を確認する。- 所得割額が賦課されないことを確認する。
– 災害等による減免制度の申請を検討する。- 一時的な収入減少の場合、翌年度以降の保険料が高くなる可能性があるため、中長期的な家計管理を行う。
– 医療費控除の特例(障害者控除)の適用を確認する。- 介護保険サービスの利用による医療費抑制の可能性を検討する。
– 高額療養費制度の活用を検討する。- かかりつけ医を中心とした医療機関の整理を行い、重複受診や重複投薬を避ける。
保険料負担の軽減は、個人の状況によって最適な方法が異なります。また、短期的な負担軽減だけでなく、中長期的な視点での健康管理や生活設計も重要です。相談窓口を積極的に活用し、専門家のアドバイスを得ながら、自身の状況に最適な対策を講じることが大切です。
結論として、後期高齢者医療保険料は確かに高額に感じられる場合がありますが、さまざまな軽減措置や個人での対策を組み合わせることで、ある程度の負担軽減が可能です。制度の理解を深め、適切な対策を講じることで、安心して医療サービスを受けられる環境を整えることが重要です。
後期高齢者医療制度は、高齢者の健康と生活を社会全体で支える重要な仕組みです。制度の持続可能性を高めつつ、個人の負担を適切な水準に保つことが、今後の超高齢社会における大きな課題となっています。一人ひとりが制度への理解を深め、適切に活用していくことが、より良い高齢者医療の実現につながるのです。