たばこ農家の一年の集大成、葉たばこ買い付けの現場に迫る

葉たばこは、ナス科の植物「たばこ」の葉から作られる加工品だ。収穫された葉たばこは鑑定員(リーフマネージャー)によって格付けされ、その年の農家の収入が決定する。言わば一年の集大成といえる格付けの現場を、岩手県盛岡市にあるJTの東日本原料本部からレポートしたい。

○■農作物としての葉たばこの売買はどのように行われるか?

葉たばこの耕作はほかの一般的な作物とは異なり、その栽培管理や出荷に農業協同組合(JA)は関わっていない。JTと売買契約を締結したうえで栽培された葉たばこは、JTが全量を買い上げることがたばこ事業法に規定されており、日本の葉たばこ農家はJTと売買契約を結んで、耕作をしている。契約した農家は、JTから種子を無償で配布されているという。

農家によって生産された葉たばこは、原料として使用できないものを除き、すべてJTが買い取りを行う。出荷された葉たばこは、鑑定員(リーフマネージャー)によって異物混入・異臭・水分などの出荷規格を確認の上、葉分・品質に基づいて格付けされ、これによって売買価格が決定する仕組み。葉たばこを栽培する農家の一年は、種まき、移植、心止め、収穫、乾燥、出荷という約10カ月のサイクルで回っているが、JTによる葉たばこの買い付けによって、その一年の成果が決まるわけだ。

葉たばこの買い付けが行われる場は、日本に4箇所存在する。岩手県盛岡市にあるJTの東日本原料本部もそのひとつ。緊張感の漂う買い付けの現場で、鑑定員と農家の方にお話を伺ってみたい。

○■葉たばこの買い付けを一手に担う鑑定員

大学では農学部に在籍し、葉たばこを使った遺伝子系の研究を行っていたという鑑定員の杵渕さん。JTに入社し7年目、その仕事には非常にやりがいを感じているそうだ。

原料本部の業務は、その名の通りたばこの原料を調達すること。農家一軒一軒と契約し、耕作された葉たばこを調達している。さらに、葉たばこ栽培のための耕作支援、農薬管理なども担当しており、農家と二人三脚で進めている。鑑定員と名乗りながらも、葉たばこ全般の深い見識がなければできない仕事だ。現在、東日本には約10名の鑑定員が在籍している。

出荷後の買い付けでは、一転して葉たばこの格付けをする立場になる。その買い付けが農家の収入を決定づけるため、プレッシャーは並々ならぬものがあるという。

「鑑定員は一日で数千万円くらいのお金を動かすんですよ。普通の仕事なら、それだけのお金が動くときは上司の決裁を取るじゃないですか。でも鑑定員は取らないというか、取れないんです。会社には鑑定員の技術に責任を持ってもらっているし、農家さんはそれで1年の収入が決まるわけですから、ひりつく現場ですよね」(杵渕さん)。
○■葉たばこ農家に聞く、今年一年の出来

今回、杵渕さんが格付けを担当したのは、秋田県仙北市角館町で農業を営む雲雀さん。もともとは雲雀さんの父親が葉たばこの栽培を始め、農業高校を卒業した雲雀さんがその跡を継いだ形だ。

「母の実家が葉たばこを栽培しておりまして、父との結婚の条件が『出稼ぎに行かないこと』だったため、収益が見込める葉たばこを始めたと聞いています。父は、農業を苦しんでやるそぶりは決して見せませんでした。うすうすと実家が裕福でないことは感じており、父と一緒に農家として働きたいと思ったんです」(雲雀さん)。

葉たばこ栽培に向いているのはあまり気温が高くならない中山間地であり、主な葉たばこ農家はそういった地域に集中している。だが角館町は平地が多く、あまり葉たばこの栽培に向いた土地柄ではないが、そのぶん機械化は進めやすいという。

「2022年は雨が非常に多く、天候に苦しめられた年でした。最近は降れば降りっぱなし、晴れれば晴れっぱなしで、日本の気候自体が極端に変化してきていると感じます。ですが、天気のせいにはしたくないんです。なぜなら、私たち農家は農産物を生産することを『仕事』としているからです。だから、植物生理だったり土つくりをしっかり理解することが大切だと考えています。今年の作は決して満足できるものではありませんが、それでも自分やたばこ農家同士で勉強してきたことが、確実に結果に繋がりつつあると感じています」(雲雀さん)。

○■葉たばこの評価基準とは?

農家の試行錯誤の結果が試される、葉たばこの買い付け。格付けでは「葉分」と「タイプ」を判断することになる。葉分については、葉の付き方である「着位」から4つの葉分に、タイプについては見た目の「品位」から4つのタイプに判断するという。これを、一包(約25kg)あたり、早い時は3~5秒で次々に評価していかなければならない。格付けが良ければキロ当たりだいたい1,900円ほどの買い付けになり、一包では約5万円弱の計算だ。

「評価は大きく3つの要素があります。ひとつ目は味に連動する『熟度』。熟成度が見た目に反映されます。ふたつ目は製造工程に連動する『組織』。硬さややわらかさから葉の良し悪しを判断します。三つ目は葉たばこの生育状況を示す『作柄』。葉の形や作り、葉脈の太さなどを見ます」(杵渕さん)。

一包一包の品位を迅速かつ確実に格付けしていく杵渕さん。この日は大きなトラブルもなく、レーンを順調に葉たばこが流れていった。

なお、公正な格付けを期すために、鑑定員と農家の間には第三者としてたばこ耕作組合の代表者も立ち会う。JTが一方的に評価するわけではなく、ときには格付けに対して物言いが入ることもあるそうだ。とはいえ、「JTさんは天気なども考慮して格付けしてくれるので、それほど揉めることはないですね」と雲雀さん。

「葉たばこはナス科なので、連作障害がひどいんです。でも、葉たばこは生産者の横のつながりが強くて、周りの農家の悩みも一緒。難しさをともに克服していけるのは面白さだと思います」(雲雀さん)。

○■地域の生活を支えている葉たばこという農作物

葉たばこの栽培を行っている農家と、それを調達するJTはまさに持ちつ持たれつの関係だ。日本においては、たばこの需要は年々減少し続けている。しかも、健康に影響を与えるリスクのある嗜好品だ。一方で、異物混入や農薬の使い方などは、ほかの作物に比べても厳しい基準で葉たばこは耕作されている。そんなたばこ生産者として、鑑定員と農家は互いにどのような思いを抱いているのだろうか。

「たばこ農家にとって、JTやたばこ耕作組合は頼れる存在です。かしこまった気持ちはなく、『気持ちよく買ってください』と思っています。たばこ産業は成熟期にあり、新しい取り組みは難しいのかもしれません。しかし若返りも目に見えて進んでいますし、若い人たちは何かやってやろうと考えています。我々農家も気持ちや金銭的な安心がないと仕事に身が入りませんので、これからもJTさんには農家に寄り添っていただきたいと思います。たばこで生計を立てている人たちや、生活が支えられている地域もあるんです」(雲雀さん)。

「葉たばこという農業があるということを、もっとみなさんに知ってもらいたいと思っています。僕らの仕事にとって、農家さんの存在は必要不可欠です。買い付けはあくまで規定に則って、適正・公平に行わなければなりませんが、我々と話し合って作られた農作物が集大成として出てくるので、どうしても情が出てきそうになります。しかし、それで安易にランクを上げても、農家さんの将来につながりません。農家さんとはWin-Winの関係にならないといけない。農家さんはビジネスパートナーなんです」(杵渕さん)。