「会計を学校側が握り」…PTAが学校の“第二のサイフ”の実態 直撃した市教育長「新たなルール検討する」

運動場で使うテントなどに「PTA寄贈」の文字を目にするなど、学校のためにPTAで物品を購入することは以前からあった。しかし、PTAが負担しているのはテントだけはない。取材やアンケートで見えてきたのは、PTAが学校の「第二のサイフ」となっている実態だった。
名古屋市名東区の市立本郷小学校の理科室。窓際には小型のエアコンが4台設置されているが、実はこのエアコン、市が設置したものではない。フィルターをめくると、「令和3年度本郷小PTA」というシールが貼られていた。
夏は耐えられないほど暑くなるというこの理科室。2021年に、学校は教育委員会にエアコン設置を求めたが認められなかった。代わりに頼ったのが、PTAのお金だ。教頭からPTA会長に相談し、会費およそ43万円を支出して4台のエアコンを「PTAが寄付」するという形となった。
教頭は取材に、「本来公費で設置するべきものと思うが、市教委に柔軟な対応をしてもらえず、PTAに頼る形になってしまった」と話す。憲法で「義務教育は無償」とされ、法律では公立小中学校の運営の経費は市町村が負担すると定められている。
しかし、学校で必要なものにPTAがお金を出すという状況が続いていることが見えてきた。

ニュースONEは、名古屋市立の371の小中学校PTAにアンケートを送り、学校への寄付の有無について尋ねた(約4割が回答)。ある中学校のPTAは、コロナ対策で必要になった消毒液など57万円分を。別の中学では、教室内のロッカーの設置と、体育館などに使う大型扇風機に30万円以上を支出していた。中には、給食調理器具を寄付したという小学校のPTAもあった。
情報が寄せられただけで、3年間で100件、金額で1000万円を大きく上回る寄付が行われていることがわかった。PTAが学校の「第二のサイフ」といわれる実態だ。
<アンケートの回答>「会計を学校側が握っており、事実上学校の経費になっている」「教頭先生から会費が余ったので備品を買っていいか相談されました」教頭が会計を務め、保護者側では寄付の有無や詳細がわからないとするPTAも少なくなかったため、実際にはさらに多くの寄付があるとみられる。
PTA会費からの寄付に疑問の声があるのは、名古屋市だけではない。愛知県愛西市の小学校では、さまざまな備品のほか、教室で使うストーブの灯油代までPTAが負担していたことが判明した。愛西市の吉川三津子市議(市議会での質問・2023年3月8日):「ある学校から、PTA会費から灯油代をまかなっているという情報が届きました。暖房ですよ。本当は(寄付として)受け取れないものだと私は思います」
愛西市教育委員会の平尾理教育長:「最低限のものについては、確実に公費で負担すべきことであります」

愛西市教育委員会は、学校からの相談があれば灯油代に税金を支出することもできたとしている。
PTAはいま、大きな変化の波のなかにある。3月3日には、国会で岸田総理が「PTAの入退会については保護者の自由と考えている」と発言するほど、そのあり方は社会問題になっている。入退会自由であることが広く知られるようになり、PTAに入らない人も増えてきている。「任意のボランティア団体」が、お金の面で学校を支えている状態にどんな問題があるのか。教育行政学が専門の千葉工業大学・福嶋尚子(ふくしま・しょうこ)准教授に聞いた。千葉工業大学の福嶋尚子准教授:「私が一番深刻だと思っているのは、お金を支払えるPTAのある学校だけが学ぶ環境が整っていって、そうではないところが置いてきぼりになっていきますよね」
福嶋准教授は、同じ市の中でも地域による経済力の違いや、PTAの加入率などで、子供の学ぶ環境に格差が生まれる恐れがあると指摘。学校として、最低限必要なものを寄付に頼る現状に警鐘を鳴らす。福嶋准教授:「本当に厳しい言い方をすると、この(アンケートの寄付の)リストは、学校教職員にとっては本当に恥ずかしいものだと思ったほうがいいと思うんですよ。PTA自身もお金を出さなきゃいけないのかどうか、出してはいけないんじゃないかということも含めて、改めて『当たり前に出すものだよね』というところを考え直してほしいなと思います」

取材で明らかになった「第二のサイフ」=PTAからの寄付。私たちは、名古屋市の教育委員会に取材を申し込んだ。
坪田知広教育長:「今回のエアコンの話などについては、やはり公費で本当はしっかり見るべき話。ちゃんとルールに基づいて相談報告がほしかった。調整が必要だったと思います」
坪田教育長は、一部の学校が独断でPTAからの寄付を受け入れたケースがあったとし、手続き上の問題があったと説明した。坪田教育長:「あまりにも自由になりすぎると、学校が必要以上に求めてしまう部分も発生するかもしれませんし、タガが外れてはいけないので、我々はルールを設けている」名古屋市には学校への寄付の申し出があった場合受け入れてよいものか、教育委員会と調整して判断するというルールがある。
しかし市教委によると、この手続きを踏んだ寄付は、創立記念として寄贈された学校の旗など、年間数件だけだという。ニュースONEのアンケートにPTAが「寄付した」と回答した少なくとも100件、1000万円以上の備品について聞くと、市教委は存在自体を把握しておらず、受け入れが適切かの判断はされていないことがわかった。PTAを「第二のサイフ」にしないためのルールは機能していないのではないか。私たちがつかんだ寄付の情報の一部を示すと…。
坪田教育長:「(市教委の認識との)このズレは遺憾なことですね。これは本当に、事実確認を急がないといけないと思いますね」Q本来は受け入れてはいけないと思ったから学校は市教委と調整しなかったのではないか坪田教育長:「うん、そうだとしたら益々、これは不適切な話になりますね」Qこれは「第二のサイフ」になっているということではないか坪田教育長:「そうですね、そうはなってはいけないと思っていますので、どうしてこういうことになったのかという、構造的なことをきちんと把握しないといけないと思いますね」市教委はニュースONEの取材を受けて2023年2月、市立の全ての学校に、寄付受け入れの手続きを正しく行うよう通知を出しているが、3月13日の時点で学校から新たな報告はないという。
坪田教育長は、「このようなことが続くことがないよう、何ができるか組織をあげて考えたい」と話し、さらに実態の調査を進めたうえで、新たなルールづくりも検討するとしている。東海テレビ「かわるPTA」で取材を続けています。pta@tw.tokai-tv.co.jpまでご意見・情報をお寄せください。2023年3月14日放送