女性活躍ってなんだろう? 第2回 管理職の『罰ゲーム化』が女性活躍を阻む!?

女性活躍推進の流れの中で、企業は自社の女性管理職の比率を上げるための施策をさまざまに検討しています。今、注目が集まっている人的資本開示の中でも、ジェンダーギャップの指標は大きな要素の一つです。しかし今、その施策の「前提条件」が変わってきていることは認識されなければいけません。それは、女性だけではなく男性からも、管理職の求心力そのものが大きな陰りを見せていることです。

今回は、パーソル総合研究所の上席主任研究員・小林 祐児が管理職の罰ゲーム化と女性活躍の関係について説明していきます。
■減り続ける管理職の数と賃金

バブル崩壊後、「組織のフラット化」という名の下に、多くの企業で管理職の削減が行われてきました。企業は昇格のためだけにポストを用意することをしなくなり、管理職を中心とした早期退職募集も不景気が来るたびに頻繁に行われてきました。また、管理職の減少とともに、マネジメントをしながら個人目標も抱えるプレイングマネジャー化も進行。外出した部下の帰りをオフィスでのんびりと待っているようなマネジャーの光景は、もはやはるか遠い昔話に。

そしてもう一つ減ってきたのは、「賃金」です。正確に言えば、一般職層と管理職層の賃金の差、つまり管理職になることによって上積みが期待できる金額が、長期的に減少してきているのです。

■働き方改革で負荷が上がる管理職

このように、人の数も賃金も減ってきたにも関わらず、現在の管理職が束ねる現場はまるで「課題のデパート」状態です。課題の代表的なものが、2015年ごろから進められた「働き方改革」です。

働き方改革の長時間労働是正によって、特に大企業の正規雇用社員の残業は減ってきています。しかし、管理職にとっては、そうした働き方改革が進んでいる企業ほど”負荷が高くなる”という傾向が見られているのです。その理由は、働き方改革の「二重の矮小化」にあります。

労働基準法が改正され、2019年4から大企業に先行して時間外労働の上限設定が導入されました。ここで働き方改革は、労働生産性の向上といった本質的な変化ではなく、多くの企業で単なる「労働時間上限設定への対応」へと矮小(わいしょう)化されてしまったのです。

多くの企業で残業の原則禁止、ノー残業デーといった「労働時間管理」タイプの施策が行われてきました。例えば、最近のパーソル総合研究所の調査でも、「退勤管理の厳格化」は7割の企業が、「残業の原則禁止」「ノー残業デー」は4割以上の企業が実施しており、労働時間を制限する施策の実施率が高くなっています。

そしてもう一つの矮小化は、企業が行う働き方改革が、職場全体ではなく、労働時間管理の対象である「一般メンバー層」を対象としてしまう点です。多くの企業で、メンバーを早く帰らせる分、管理職が仕事を引き取らなければならなくなりました。

法改正という「外圧への対応」という発想は、働き方改革の本質を見失わせ、「労働基準の上限」と「メンバー層」に二重に矮小化されることで、管理職の負荷を逆に上げてしまうことになったのです。

■「管理職頼み」の企業、「昇進離れ」の若者

これだけではありません。昨今の労働法制への対応や新しい組織課題は、決まりきったように現場の中間管理職の負荷として蓄積されていきます。

例えば、パワハラ防止法、ダイバーシティ対応、部下のメンタルヘルスやキャリア支援など、課題の多くが「現場のマネジメント能力」頼みで、マネジャー研修ばかり増えていく様子が多くの企業で見られます。

たしかに上司のマネジメントが重要であることは間違いありませんし、時代に合わせたマネジメントの変化は必要です。しかし、それらがすでに余裕のない中間管理職にさらに降り掛かる負荷となってしまっては、元のもくあみです。

これらのトレンドをまとめると、以下のような表にまとめられます。「管理職の罰ゲーム化」は、このような中期トレンドと長期トレンドが折り重なった、重層的な現象と言えるでしょう。

こうした管理職の負荷が上がっても、それについてくる就業者がいればまだいいのですが、実際は逆の傾向です。日本生産性本部による新入社員を対象とした調査データを平成最後の10年間で比べてみても、会社での出世について「どうでもいい」と答える割合が男女ともに上昇しています。

管理職に限らず、企業に生活を縛られることを避けようとする傾向は、そのほかのさまざまなデータでも示されています。つまり、管理職の「罰ゲーム化」は、ただ負荷が上がってきただけではなく、そうした負荷を避けようとする意識の上昇と並行して起こっているということです。

■ライフイベントで高くなる「女性活躍」のハードル

こうした管理職の「罰ゲーム化」の状況は、男女に限らずに起こっている現象です。しかし、それでも男性よりも「女性」の活躍推進により大きなハードルとなってしまいます。一体なぜなのでしょうか。

それは、「結婚」というライフイベントをきっかけとして、「男性」はそうした負荷を背負う覚悟を強め、女性は「家庭時間を確保する」という意識を強くするからです。ライフステージごとの重視点のデータで男女のギャップを見れば、育児期間における「給与」と「勤務時間」の重視度で男女差が最も大きくなります(※)。

※20-30代の子どもがいる従業員に対して、4つのライフステージにおける重視点を確認。各ライフステージで重視するもの上位3位率(%)

つまり、未婚の期間は働く意識があまり男女で変わらなくても、結婚後には男性は「お金」重視に、女性は「時間」と「休み」重視へ大きくシフト・チェンジするのです。ここにおいて、管理職への男女の意欲の差が大きくなってしまいます。同じように上がった管理職負荷も、「女性」側にとってはより高いハードルとなってしまうのです。

■「自分でなんでもやろうとしない」ことが必要に

こうした状況への処方箋はなんでしょうか。

まず企業は、働き方改革の在り方をアップデートするべきです。メンバーは早く帰り、その分管理職ばかりに負荷がかかるような「改革」では、管理職になりたがる女性は現れません。

パーソル総合研究所の調査によれば、女性の意欲を上げていたのは、時間あたり成果での評価、残業減少のための研修など、残業の根本原因へとアプローチしていくための「組織開発的」な残業対策でした。しかし、先ほどのグラフにもある通り、そうした施策の実施率はまだまだ低いものです。

働き方改革に限らず、そもそもの管理職の役割を改めて見直すべきでしょう。「なんでもかんでも現場管理職任せ」の発想をやめなければ、その企業の管理職は、とりわけ女性にとって魅力的でないものになり続けます。それは次世代のリーダー育成にとっても大きな課題です。

また、個人にとっては、管理職になったからと言って、「なんでも自分でやらなくては」という意識を持たないことが大切です。右腕となるようなサブリーダーや、自分よりも社歴の長いベテラン社員、さらに自分より上の上司など、「頼れる」「任せられる」ネットワークをいかに構築するかが大切になります。

求められることにただ従うだけでは、いつの間にか負担は大きくなっているものです。「自分で仕事を抱え込まない」管理職の在り方は、働く個人にとっても、日本のこれからのリーダー像にとっても、大切な指針となるでしょう。

パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林 祐児 ぱーそるそうごうけんきゅうじょ こばやしゆうじ 上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。 この著者の記事一覧はこちら