マセラティジャパンは新型「グランカブリオ」を日本で公開した。4シータークーペの「グラントゥーリズモ」をベースとするオープンカーで、価格は3,120万円。納車開始は2024年秋の予定だ。ちなみに、グラントゥーリズモのフル電動車「フォルゴレ」の日本導入は決定しているものの、時期は未定だという。
マセラティにカブリオレは欠かせない!
マセラティは1914年、マセラティ兄弟によって創業されたので、今年で110年という長い歴史を誇るイタリアのメーカーだ。当初はレーシングカーメーカーとしてすばらしいマシンの数々を作り出し、名声を手に入れていった。そして第二次世界大戦後、マセラティはロードカーを作り始める。それが今のグラントゥーリズモの始祖、「A61500」と呼ばれるクルマだ。エンジンをはじめとするメカニズムはそれまでのレーシングマシンがベースで、ボディはピニンファリーナのデザインという、とても贅沢なグランドツアラーだった。
1950年には直列6気筒エンジンの排気量を2リッターにスープアップ。それをベースにカロッツェリアフルアが手掛けたのが、マセラティのロードカーで初のカブリオレとなった「A6G2000カブリオレ」だ。このクルマが今のグランカブリオにつながっていく。
マセラティのラインアップには常にカブリオレが存在した。今でこそ社内デザインのチェントロスティーレがデザインしているが、それまではさまざまなカロッツェリアが手掛けており、それぞれが非常に美しいスタイルをまとっていたのである。
新型グランカブリオの特徴は?
日本初公開となった新型グランカブリオは、先に発表されたクーペのグラントゥーリズモと並行して開発された。そのポイントはデザイン、性能、ラグジュアリーおよび快適性の3つだ。
まず、デザインで最も特徴的なのはクラムシェル型のボンネットだ。通常、ボンネットはボディ上面が開くため、フェンダーとボンネットを区切る線が上部に入ることになる。しかし、グラントゥーリズモとグランカブリオは、それを避けるためにサイドのフェンダー部分まで開閉するようにすることで、上面のラインを排除。大型のアルミ1枚での成型で美しさを追求した。
パワートレインはF1の技術から派生したV型6気筒ツインターボの“ネットゥーノ”エンジン。100%イタリア製だ。駆動方式は先進の4輪駆動システムで、足元にはエアサスペンションを備える。動力性能は最高出力550PS、最大トルク650Nm。これはクーペのグラントゥーリズモトロフェオと共通で、4輪駆動システムやエアサスペンションのチューニングもほぼ同様である。ちなみに最高速度は316km/hだ。
高剛性ボディと軽量化もグランカブリオの特徴。通常、クーペをベースにカブリオを作る場合はさまざまな補強が必要で、かなりの重量増になってしまう。しかし、グランカブリオの場合は、グラントゥーリズモよりもおよそ100kg重いだけで、そのほとんどはルーフの開閉機能によるものだという。つまり、ベースモデルのグラントゥーリズモでボディ剛性をしっかりと確保できているため、オープンにしてもそれほど補強をしなくて済んだことになる。
素材と音にこだわった室内空間
ラグジュアリーの部分でいえば、室内の手で触れられる部分には全て、最高品質のレザーやアルミなどの贅沢な素材が使われている。それらが全体的に調和した上質な室内空間だ。オーディオはイタリアの音の工房ともいわれる“ソナス・ファベール”が設計・製造を担当。選べるオーディオは2種類で、スタンダードは13個のスピーカーと2Dサラウンド(出力815W)、オプションのハイプレミアムオーディオは、16個のスピーカーと2D/3Dサラウンドサウンドにパワフルなアンプを組み合わせ、最大出力を1,060Wまで高めている。
最後に快適性について記すとすれば、フロントシートには乗員の首周りを温めるネックウォーマーを標準装備。日本のみ標準装備のウィンドストッパーを使用すれば、オープン時であっても室内への風の巻き込みを最小限に抑えることが可能だ。実際には後席部分にネット状のカバーと同じくネット状の風よけを設置することで車内の乱気流の発生を軽減。ただし、ウィンドストッパー使用時は後席をふさぐように設置するため乗車人数は2名に限られる。
先代のグラントゥーリズモとグランカブリオは大体8:2の販売割合で、新型でもそのくらいを想定しているようだ。ただし、いま述べた快適装備があることなどから、もしかしたらグランカブリオの台数割合は先代よりも伸びるかもしれない。
大型のクーペやカブリオレが少なくなってきている今、グラントゥーリズモとグランカブリオの存在は貴重だ。マセラティのヒストリーをしっかりと受け継いだパフォーマンスの高さ、最高品質によるエレガンス、磨きのかかった快適性を持ち合わせながら、なおかつオープンによる解放感を手に入れたのが、新型グランカブリオなのである。
内田俊一 うちだしゅんいち 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験をいかしてデザイン、マーケティングなどの視点を含めた新車記事を執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員。 この著者の記事一覧はこちら