EV普及のカギはマンション充電にあり?ユビ電COOに聞く

日本で電気自動車(EV)がなかなか普及しないのはなぜなんだろう? その理由といえば充電インフラの不足、充電に時間がかかる、航続距離の不安、購入価格が高いなどいろいろ挙げられているが、いってみれば「タマゴが先か、ニワトリが先か」の因果論ではないが、「EVが先か、インフラが先か」という話になっている。ところがEVの充電サービス「WeCharge」を運営しているユビ電では、「インフラが先だ」と明確な答えを出しているのだという。同社の白石辰郎COOに話を聞いた。

EV購入希望者の多くは都会でマンション暮らし?

白石COOに話を聞いたのは、東京・八王子みなみ野駅近くにある築24年目の大規模マンション「グレーシアパーク八王子みなみ野」の駐車場。ここでは、274区画ある住民の駐車場すべてに、200Vのシンプルなコンセントで充電できる「WeCharge」を導入することが決定している。設置完了は2025年1月の予定だ。この日はEV購入を考えている住民に対して、 近所のディーラーがEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の試乗車を用意し、乗り心地を体験してもらう試乗会が開催されていた。

まずは、ユビ電の白石COOにEVを取り巻く日本の現状を聞いてみた。

同氏によると、EV購入検討者については高所得者=都市居住者が多く、EV購入が比較的容易となる年収600万円以上の世帯は関東、特に東京23区に多いという。当然ながら、そうした都市居住者の多くは集合住宅住まいであり、例えば東京都なら70%、福岡市なら77.7%がそうした状況にある。

日産自動車の調べによれば、そうした都市居住者の76.8%がEVの購入を検討したことがあるのだが、そのうち88.6%は自宅に充電設備がないので諦めているそうだ。つまり、充電設備のない集合住宅に住んでいることが、EV購入(普及)のボトルネックになっているとの分析だ。

一方で、EV所有者の多く(約96%)は充電設備付きの一戸建てに住んでいる。自宅で充電できさえすれば、意外なことに、最初に挙げたEV普及を阻むさまざまな要因、例えば外での充電インフラ不足や充電に費やす時間、航続距離などは、あまり問題にならないのだとか。というもの、EV所有者の走行平均距離は平日で19km、休日で28km(日本自動車工業会調べ)であり、この程度なら、例えば3kWh、200Vコンセントを使えば1~2時間で充電できるため、自宅充電で全く差し支えないからだ。

さらに具体例として、埼玉県草加市在住でEV(テスラのモデル3)を所有するユビ電の社員さんの走行データ(2023年11月)の分析結果を教えてくれた。その月は頻繁な都心部の走行、アクアラインを使った千葉県木更津市への往復、横浜方面に向かったドライブが主で、総走行距離は1,762kmに到達。総充電量は367kWhだったのだが、出先でテスラ自慢の急速充電器「スーパーチャージャー」を使う機会は1度もなく、全て自宅充電で賄えたという。400km~500kmもの航続距離を持つ最新のEVを実際に所有してみると、出先での電欠を心配することはほとんどないのだそうだ。

ユビ電を導入するメリットは?

WeChargeを導入するメリットは、専用のスマホアプリを利用して使用者だけに課金される受益者負担である(居住者の公平性が保てる)点、集合住宅に適した統合管理を行うことによって充電ピークが分散できる点、ランニングコストがかからない点、設備投資や維持管理の補助金申請などについて業者がサポートと代行を行ってくれる点などたくさんある。利用するマンションの管理組合にとっても、大変都合がいい仕組みだ。

今回の八王子の例だと導入費用は約1.2億円で、補助金申請が通ればその8割程度が賄えるとのこと。また、東京都では来年の2025年から、新築マンションに対して一定規模のEV充電器の設置が条例で義務化されることになっていて、近い将来は、EV充電器が生活に欠かせないインフラになりそうな情勢だ。資産価値という観点で考えても、中古マンションにこうした設備があるのとないのとでは、将来的に大きな差がついてくるに違いない。

ユビ電が「インフラが先」と考える理由のひとつとしては、EVがなかった都心部の駐車場にWeChargeを設置したところ、2年間で利用者(駐車するクルマ)の8割がEVかPHEVに入れ替わったという事例を紹介してくれた。利用者からは「自宅充電なら寝ている間に(電気を)満タンにできるので、ガソリンスタンドの場所や営業時間を気にしながら給油に行く必要がなくなった」「起きたら100%はやっぱり最高」との声が聞こえてくるという。

EVは(乗り方によってはPHEVも)自宅充電さえできれば、当たり前だがガソリンスタンドに行く必要がない。これはICE(エンジン車)にはない根源的な価値だ。クルマそのものとして見ても、EVは加速性能や静粛性が抜群。ということは、充電設備を備えた一戸建てのような環境をマンションに与えてやれば、EV普及率は一気に上がるはずというのがユビ電の答えであり、それを解決するのが我々の仕事だと白石COOは考えているという。

国のグリーン成長戦略では、2035年までに電動車100%(ハイブリッドも含め)という目標が掲げられている。集合住宅については、最大20万口の充電設備を設置していくという流れがある。EVの普及については「踊り場」に差し掛かっていると言われる昨今だが、インフラが充実していけば普及率は再び伸びていくはずだ。今後の進展を見守りたい。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら