メルセデスが最量販SUV「GLC」を刷新! 見た目はほぼ同じ、中身は?

メルセデス・ベンツが中核SUVの「GLC」を刷新した。2015年の発売後、初のフルモデルチェンジとなる。GLCはここ最近のメルセデス製SUVで最も売れている車種で、これまでに世界で累計260万台を販売してきたとのこと。売れ筋SUVは今回、どう変わったのか。一足早く試乗してきた。

○見た目も実は変わっていた!

写真で見る新型GLCは、一見したところ初代とあまり変わらない姿に思えた。だが実車と対面すると、車体全体が滑らかな曲線に包まれ、フロントグリルには電気自動車(EV)の「EQC」に通じる印象もあって、洗練された造形になっていた。車体全長は5cm伸びたというが、車幅は初代と同じ1,890mmで、わずかとはいえ1.9mを超えないところに扱いやすさが残されている。

「Sクラス」「EQS」「EQE」といった高級車種と同様、ハンドル操作に対して後輪も切れる4輪操舵(リア・アクスルステアリング)を搭載しているのもGLCの特徴。約60km/h以下では前輪と逆向きに後輪が切れて小回りが利くので、取り回しに優れる。絶対的な車体寸法は変えられないものの、自然な感触で操作できるメルセデスの4輪操舵はクルマをより身近に感じさせるはずだ。

○ディーゼルなのにEVみたい?

今回は新型GLCの「220d 4MATIC」に試乗した。2.0Lのディーゼルターボエンジンにモーター機能付き発電機(ISG)を組み合わせたマイルドハイブリッド車(MHEV)だ。

室内に乗り込むと、SUVというより「Eクラス」や「Sクラス」のような上級車種の趣で、外観同様に洗練された内装が快かった。未舗装路も走行可能な車高の高い4輪駆動車というより、背は高いが上級な乗用車に乗っているような印象だ。

走り出してからの感覚も同様であった。ドイツ車というと全体的には黒っぽい内装で、壮観な印象をもたらすことが多いが、新型GLCは上質な空間に親しみを感じた。

ディーゼルターボエンジンは、始動したあともディーゼルならではの振動や騒音をあまり実感させない。車外にいてもあまりディーゼルらしさを感じないし、車内にいればディーゼルかどうか気付かないほどであった。

そうした快適さをもたらす要因のひとつが、ISGを使ったマイルドハイブリッド化である。停車してアイドリングストップしたあと、再発進する際のエンジン始動では、エンジンがブルンとゆすられる様子がない。発進は穏やかだ。

ディーゼルエンジンは燃費がいいし、アクセル操作に対する加速も応答が早いので、楽に運転できる。しかし一方で、どこかで商用車に通じる実用エンジンといった様子を伝えてくることがある。ところが新型GLCは、動力源が何であるかを意識させない快適さが保たれている。また、一生懸命にクルマを加速させているという辛さもない。モーター駆動のEVを走らせているような雰囲気さえある。

メルセデス・ベンツはSクラス向けに新開発した直列6気筒ガソリンエンジンで、モーター、ターボチャージャー、スーパーチャージャーを装備することにより、あたかもモーター駆動であるかのような運転感覚を実現した。そうした意図が、新型GLCのディーゼルターボエンジン+ISGでも感じられたのである。

走行中の乗り心地も、上級で質のよい味わいがあった。

世界で唯一の速度無制限区間があるアウトバーンを疾走するため、がっしりとした車体剛性と硬めの乗り心地で高性能を担保するのがドイツ車全般の特徴だ。今回の新型GLCも、速度を増すごとにいっそう安定性を増し、微動だにしない高速性能の高さを体感できたが、同時にまた、しなやかな乗り心地とディーゼルエンジンを思わせない静粛性により、EクラスやSクラスに通じる上級さも味わうことができた。

メルセデス・ベンツの象徴はSクラスだ。次世代の象徴としてEVのEQSがある。一方で、今は多くの消費者がSUVを志向する時代でもある。新型GLCは、顧客の志向に沿う高級車のあるべき姿を提案しているように感じられた。それほど新型GLCの満足度は高い。

後席の快適さは、メルセデス・ベンツの魅力のひとつだ。どの車格でもメルセデス・ベンツの後席で失望させられることはなく、壮快な走りのAMGでさえ、後席の快適さは保たれている。新型GLCも後席の空間的なゆとりは十分。ただ、本革の座席の硬さがまだ残っているせいか、やや落ち着かない座り心地でもあった。革が馴染めば、よりよい印象をもたらすかもしれない。

○運転支援もメルセデス品質、だけどARナビは微妙…

昨今のドイツ車では、カーナビゲーションにAR(拡張現実)を採用することが流行っているようだ。メルセデス・ベンツはもちろん、BMWも熱心である。だが、その使い方はまだ道半ばではないかという気がする。

例えば交差点などに近づくと、ナビの地図画面が周囲の景色を映した映像に切り替わるのだが、運転者が知りたいのは周囲の景色ではなく、どの車線でどの方向へ進路をとればよいかということであり、カメラ画像によって進路の指示が消えてしまったのでは意味がない。ヘッドアップディスプレイ(HUD)で進路は示されているかもしれないが、それまでナビの地図を頼りにしていたのに、カメラ画像に切り替わったらHUDに目を移さなければならないのは二度手間で、認知・判断・操作の手順に遅れが生じる。そればかりか、気持ちも不安になる。

駐車が苦手な人をサポートする駐車支援の機能や走行中の前車追従型クルーズコントロール(ACC)には、さすがはメルセデス・ベンツという的確さや信頼性がある。一方で最新のARは、何のために、どのように利用すればいいかがまだ明確ではないのではないか。ドイツと日本という交通環境の違いもあるだろう。それでも、運転者が安心し、メルセデス・ベンツを信頼し続ける気持ちを盛り立てる機能への進化が求められる。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら