「CLE200カブリオレスポーツ」は、メルセデス・ベンツの乗用車の中で、布製の屋根が開けられるオープンカーであり、なおかつ後席にもしっかり人が座れるクルマという意味で唯一の選択肢だ。ほかに「AMG SL」もオープンになるが、屋根は鋼板製で、後席の居住性はCLEよりも低い。どうしてもメルセデスのオープンカーに乗りたいという人に、CLEカブリオレはオススメできるのか。試乗して確かめてきた。
幌の屋根でも車内は静か
CLEカブリオレの幌はブラック/グレー/レッドの3色から選べて、車体の外装色や内装色との組み合わせを楽しめる(ただし、組み合わせできない色がある)。今回の試乗車は白い外装色に赤い幌の組み合わせで、あたかも2トーンカラーのように目立ち、おしゃれだった。内装も赤を選べば、幌を開けても閉じても同様の配色となり、一貫性がある。
この幌は静粛性や遮熱性に優れる構造で、メルセデス・ベンツという高級車の乗り味を損なわない作りになっている。実際、試乗中に幌を閉じて走行している間は、あたかも通常の屋根のあるクルマに乗っているかのように静かだった。
幌の屋根でも走りはしっかり
ガソリンエンジンは排気量2.0Lの直列4気筒。少し前であれば小型車向けといった小排気量である。ただし、CLEカブリオレのエンジンは、スターター機能を備える交流発電機(ISG)としてのモーターを備えている。いわゆるマイルドハイブリッド車(MHEV)だ。エンジンと変速機の間に挟み込むようにモーターを組み入れてあり、これが発進では駆動用として働いて、発進を助けてくれる。そのため、よほどの急加速を求めるとき以外は力不足を感じないはずだ。
同じオープンカーでも、屋根が幌の場合と鋼板の場合では、一般的に乗り味が違う。屋根の素材により、屋根を閉じた際の車体剛性に差が出るからだ。要は、屋根が鋼鈑である方が、車体が一体構造となって頑丈になり、操縦安定性が増す。一方で幌の場合は、たとえ屋根を閉じても鋼板のような硬い材料ではないので、基本的には幌を開けたオープンの状態と同じ車体構造で走ることになる。そのため、操縦安定性の面で物足りなかったり、快適でなかったりする事例がある。
しかし、CLEカブリオレの試乗を通じて伝わってきたのは、鋼板製の屋根があるクーペやセダンと変わらない、自然で違和感のない乗り味だった。
CLEカブリオレは路面の凹凸に対して衝撃を減衰するダンパーを可変式とした「ダイナミック・ボディ・コントロール・サスペンション」を装備している。これも的確な走りと快適な乗り心地に一役買っているはずだ。
幌の屋根でもメルセデスらしさ満載
炎天下でのオープンは、日差しに照り付けられて、けっこう辛い。一方で曇り空の場合は、夕立の可能性もあって、走行中に幌を閉じたい場面に遭遇するかもしれない。CLEカブリオレの屋根は電動で開閉可能で、走行中でも60km/hまでなら操作できる。例えば首都高速道路はほとんどの区間が制限速度60km/なのだが、一時的に停車できる場所の少ない都市高速道路のような道路を走りながらでも、幌の開閉操作ができるのはありがたい。そうした安心感があれば、より積極的に幌を開けて走ることもできるだろう。
屋根を開閉する途中で、幌が上へ大きく立ち上がる場面がある。走行中であれば、そのときの空気抵抗はかなり大きいはずだ。それでも、幌が稼働できる丈夫な支柱に支えられている必要があり、なおかつ空気抵抗を受けながら作動させる強力なモーター機構がなければ、走りながらの開閉は容易でない。
CLEカブリオレに乗ると、走りながら20秒ほどで幌を開閉できることは当たり前のように思えてしまうかもしれない。だが、走行中の空気抵抗の影響などを考えれば、いかにメルセデス・ベンツの機能が優れているかに気づかされる。他社の例では、走行中の開閉ができるのは40km/h前後までではないかというのがメルセデス・ベンツ日本の見解だ。20km/hの差は大きい。
メルセデス・ベンツの哲学は「最善か無か」という言葉に凝縮されている。最善でなければ無いに等しいという意味だ。
世にオープンカーは他にも存在するが、運転者や乗員に我慢させるところのないCLEカブリオレの仕立てに、その哲学を思い起こさせられる。単に開閉機構のことだけでなく、幌でありながら静粛性に優れる室内環境など、オープンという特別な仕様でありながら、あくまでほかのクルマと変わらぬ使い勝手であるところに、メルセデス・ベンツであることのすごさを覚えずにはいられないのである。
御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら