一度で大量に運べた方が効率良いとして大型化する一方だったコンテナ船ですが、ここにきて大型化にストップがかかるようになったそう。なぜでしょうか。調べてみると「そりゃそうだ」の理由ばかりでした。
各国で“巨艦”化を競ってきたコンテナ船ですが、ここへ来て「コンテナ2万4000個の壁」にぶつかっているようです。
1990年代まで「5000TEU(TEU=全長20フィート/約6mの20フィート・コンテナ換算)」クラスが普通でしたが、今では3倍以上の「1万5000TEU」前後がメインで、なかには5倍に迫る「2万4000TEU」クラスも出現するほどです。
2024年現在の世界最大級は、2023年就航の「OOCL Spain」(香港)で、船体サイズは全長400m、全幅(ビーム)61.3m、喫水(ドラフト)16.37m。大きさは2万4188TEUを誇り、コンテナを満載した姿は「ちょっとした山」そのものです。
ところが、海運業界ではこの「2万4000TEU」あたりがほぼ限界で、今後はひと回り小さい「1万4500TEU」クラスが主流になるのでは、と囁かれています。
なぜ、そのように言われているのか、主な理由を挙げると次のようになります。
中国経済も減速気味だし… コンテナ船”巨艦化”はもう無理?「…の画像はこちら >>コンテナ船のイメージ(画像:GustavsMD)。
まずひとつ目は、港が対応できないという点です。
「2万4000TEU」超の船を造っても、現状では出入りできる港が世界中探しても数か所しかなく、そもそも貿易自体が成り立たない恐れが強いためです。
現在、“最強”の「2万4000TEU」クラスは、ほぼ例外なく世界の二大コンテナ航路、「アジア・欧州航路」(中国の上海、深センなど~スエズ運河~地中海~欧州のロッテルダム、ハンブルクなど)と、「太平洋航路」(中国~北米西海岸のロサンゼルス、シアトルなど)に投入されています。
中国の好況を追い風に、二大航路の貨物量はここ数十年間で急増しています。これにともない航路上の主要港も「2万」超クラス対応の改修を図っています。
具体例を示せば、各港とも「2万」クラスが横付けして迅速に荷物の積み下ろしができるよう、1隻当たりの岸壁の長さを400mに延長しています。また、船の全幅に合わせ、ガントリークレーンのアーム部(ガーター/横行桁)を、長さが62mにも達する超巨大マシーンに更新しています。さらに、岸壁部や港湾アプローチ用航路の水深を、20m前後まで掘り下げる工事も行っています。
なお、これらの総工費は1000億円以上に達し、投資額としてはかなり巨額です。中にはすでに「3万TEU」クラス対応済みの港もあるようですが、数か所にすぎません。仮に「3万」対応となれば、二大航路上の主要港の大半は、新たに1000億円以上の投資が必要となるため、「本当に必要なのか」という疑問が出ても不思議ではありません。
Large 240802 teu 02
コンテナ船とガントリークレーン(画像:写真AC)。
2つ目が、投資効率が悪く採算がとれないということです。
これは、ひとつ目とも重複しますが、これ以上コンテナ船を巨大にしても、投資額に見合う利益が出ないのでは、つまり「費用対効果」が悪くなるのでは、という心配です。
仮に「3万TEU」クラスを例に挙げると、サイズは「全長450m以上、全幅70m以上、喫水18~20m」と想定され、建造費は「2万4000」クラスの1.5億~2億ドル(約230億~310億円)の約3割増し、2億~2.7億ドル(約310億~420億円)と推測されます。
さらに前述のように、港湾インフラのさらなる改修にも、1000億円単位の投資が必要です。
その反面、これに見合うだけのコンテナ需要の伸びが、果たして今後も続くかと言えば、全くの未知数です。
実際、中国経済は減速傾向に入っています。コンテナ船は「満載の7割」が利益の出る最低ラインで、「2万4000」クラスなら、単純計算で約1万7000TEU以上のコンテナを集めなければなりません。
しかも大型コンテナ船は定期航路での運用が常識で、「毎週月曜日12時出航」というように、運航スケジュールは厳格で、普通は積荷がゼロでも出航しなければならない決まりです。
これが「3万TEU」ならば、採算ラインの「7割」は2万1000TEUですから、これだけのコンテナを常にかき集めなければ赤字に陥ります。
そして3つ目が、融通が利かないということです。
前述したように、「2万4000TEU」クラスでさえ、あまりの巨大さから、事実上”二大航路専用船”となっており、しかも出入りできる港も非常に限られているのが実情です。
このため、天変地異や戦乱など「イベントリスク」が発生し、二大航路の荷動きが一時的に激減したとしても、しばらくの間、”ヘルプ”として別の航路に振り向けて様子を見る、といった融通が利かないという難点があります。
最後、4つ目に挙げられるのが、スクリュー1軸ではスピード出すのがムリという点です。
コンテナ船は機関(エンジン)1基にスクリュー・プロペラ1軸の、いわゆる「1基・1軸」が普通で、「2万4000TEU」クラスでも、最高速力は20~25ノット(約37~46km/h)を発揮します。
しかし、これ以上巨体だと「1基・1軸」ではスピードが出せず、機関2基、スクリュー2軸が不可欠となるようです。
ただ機関部のコストは、建造費の約3割に達するため、1基を追加すれば建造費はかなり跳ね上がり、投資効率がかえって悪くなります。
同時に機関部は、船内レイアウト上かなりのスペースを占めるため、機関を2基積めばその分コンテナ収納スペースを犠牲にせざるを得ず、これも輸送効率悪化の一因となります。
Large 240802 teu 03
コンテナ船を巨大化したら、ガントリークレーンを始めとした港湾施設も改修が必要になる(画像:写真AC)。
これら4つの観点から、これ以上コンテナ船は大きくなり得ないと推察できるのです。ちなみに、この他にも全長400m超のコンテナ船は波浪で2つに折れないか、あるいはこの状態でコンテナを10層以上積み上げ、まるで壁のようになった船が真横から突風を受けた場合、転覆してしまうのではないか、などといった懸念もあります。
こうしたことから、近年では「2万4000TEU」クラスですら大き過ぎ、今後はパナマ運河を航行できる「ネオパナマックス」サイズ(全長366m、全幅49m、喫水15.2m、1万4500TEU以下)の船の方が、小回りも利き何かと便利では、との考え方が世界の海運業界で出始めているようです。
かつて地球上を支配した恐竜は、巨大に進化した挙句、急激な環境の変化に耐え切れず絶滅しました。ひょっとしたら、コンテナ船の”進化”は、恐竜の「過適応」とよく似た軌跡を歩んでいるのかもしれません。