新たな終末期の迎え方として注目されるホスピス住宅とは?

近年、医療や介護の現場で重視されるようになっているのが看取りケアです。
看取りケアとは、無理な延命治療などを行わず、自然と亡くなるまでの過程をケアしながら見守ることを指します。その際、最期の場所をどこで迎えるかが、本人の希望を叶えるうえで大切なポイントになります。
多くの方は自宅で最期を迎えたいと考えています。公益財団法人日本財団が行った「人生の最期の迎え方に関する全国調査結果」によると、高齢者が人生の最期を迎えたい場所として自宅を挙げた割合は58.8%に上ります。
その一方で、がんの末期患者や指定難病の患者の終末期は苦痛などを伴うため、自宅でケアをするのが困難です。
しかし、病院などの医療機関では面会が制限されるなど、家族とともに過ごしたり、思うような最期を迎えられないケースもあります。
そこで、24時間体制で看護師などのケアを受けながら、高齢者に自宅で過ごしているかのような環境で終末期を過ごしてもらうために誕生したのが「ホスピス住宅」です。
ホスピス住宅では、治すための治療ではなく、痛みを和らげるための緩和ケアを受けながら、質の高い療養生活が送れるような工夫が施されています。いわば看取り専門の住宅ともいえるでしょう。新たな終末期の迎え方として注目されるホスピス住宅とは?の画像はこちら >>
ホスピス住宅は、医療保険や介護保険といった制度で定義されたサービスではありません。
しかし、その多くが訪問看護ステーションを併設しており、看護師や介護職などが常勤しています。そのため、公的な医療・介護サービスを提供する事業所としても機能しています。

訪問看護ステーションは、地域の在宅医とも深く連携しており、入居者や地域の高齢者を見守る役割を果たしています。
例えば、ホスピス住宅に併設された訪問看護ステーションでは、入居者だけでなく、地域の在宅医療・介護を必要とする方に公的なサービスを提供しています。
そのため、地域包括ケアを担う事業所としての側面も持ち合わせているのです。
ホスピス住宅では、多くの場合チームを組んでケアを提供しています。その中心的役割を担っているのが看護師です。直接入居者の状態を見守りながら、医師や介護職、リハビリ専門職などと連携してマネジメントを行っています。
一般的な訪問看護ステーションに近い人員配置ともいえますが、ホスピス住宅の場合は治療ではなく、看取りに特化しているため、より医療の専門的知識をもった看護師のマネジメントが重視されます。
ホスピス住宅に勤める看護師に求められるのは、緩和ケアへの深い理解です。厚生労働省によると、緩和ケアは病気による体の痛みだけでなく、心の痛みを和らげることも大切だとしています。
政府は2010年代から緩和ケアの推進を掲げて、医師や看護師といった医療関係者への研修などを実施してきました。ホスピス住宅では、こうした施策によって専門的な知識を身につけた看護師がケアの中心を担っていることが多いのです。
緩和ケアはさまざまな専門職が連携をとって、チームとしてケアを行うのが基本だとされています。緩和ケアの病棟では、看護師を「リンクナース」と呼ぶことがあります。

緩和ケアで具体的な指示を行うのは、あくまで医師です。しかし、医師が一人の患者に対して24時間体制で見守ることはできません。緩和病棟で患者をケアするのは看護師や介護スタッフ、リハビリ専門職といったケアチームです。
そこで、看護師は医師とケアチームをつなぎ、適切なマネジメントをする「架け橋」としての役割が求められているのです。
ホスピス住宅では、医師が常駐していないため、看護師が地域の医師と連携してケアチームとの架け橋になっています。

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厚生労働省が実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」の結果によれば、高齢者は人生の最期を迎える場所を考える際、「家族などの負担にならないこと」と答えた人が73.3%と最多で、「体や心の苦痛なく過ごせる」57.1%、「経済的な負担が少ないこと」55.2%と続きます。
介護施設もこのようなニーズを満たすためにサービスの拡充を図っていますが、あくまで介護サービスの提供を中心としているため、末期がんや難病を持つ方に対応できる人員や設備が不足していることがあり、入居を断らざるを得ないケースも多いのです。
一方で、看護師が中心となって、専門的な緩和ケアを提供するホスピス住宅は、家族の負担や自身の苦痛を和らげるといったニーズに応えるのに最適な施設なのです。
前述したように、緩和ケアの看護師には中心的存在として医師との連携に加えてケアチームのマネジメントが求められます。
しかし、緩和ケア病棟とホスピス住宅の大きな違いは、末期がんや難病だけでなく、認知症などの症状も併発している高齢者の受け入れが多い点です。介護施設では医療ケアが難しく、医療機関では認知症などへの対応が困難な場合が多いため、ホスピス住宅は、介護施設と医療機関での問題点を解消した新たな選択肢だといえるでしょう。
そのうえで、看護師には医療と介護両面への理解が大切です。ホスピス住宅は今後の終末期ケアのあり方を考えるヒントになるのかもしれません。