国産ミニバンの強敵? フランスからやってきたMPV3台が魅力的だった

家族でのお出かけに最適な乗り物といえばミニバンだ。300~400万円で手が届く国産モデルとしては「ノア/ヴォクシー」「セレナ」「ステップワゴン」と選択肢がそろっているが、出先での「ミニバンかぶり」が嫌ならフランス製MPVを選ぶという手もある。

○ミニバンユーザーにフランス車が刺さる?

クルマの世界ではSUVの大ブームが続いているが、家族で買い物やレジャーに出かける際に便利なのはやっぱりミニバンだ。300万~400万円台で手が届く国産モデルではトヨタ自動車「ノア/ヴォクシー」、日産自動車「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」が3強。各社が工夫を凝らした国産ミニバンは装備の充実ぶりが圧巻で、おもてなしの心にあふれたクルマたちだ。

しかし、国産ミニバンで出かけてみて気が付くのは、愛車と同じ顔をしたボディカラー白or黒のクルマがたくさん走っているという現実。人とは違うクルマに乗りたいけど、ミニバンの便利さは譲りたくない……。そんなユーザーに新たな選択肢としてオススメしたいのが、オシャレの国フランスからやってきた3台の「MPV」(マルチ・パーパス・ビークル)だ。昨年から今年にかけて日本に上陸したルノー「カングー」、シトロエン「ベルランゴ ロング」、プジョー「リフター ロング」である。
○ルノー「カングー」が新型に! 使い勝手は?

フランスでは郵便車としても採用されている「LCV」(ライトコマーシャルビークル=小型商用車)の乗用車バージョンで、日本でも大人気となっているのがルノー「カングー」だ。左右のスライドドアと観音開きのリアドアを装備した“ゆるキャラ”スタイルが独自の雰囲気を放っている。

2023年2月にはフルモデルチェンジした新型カングーが日本にやってきた。2002年の初代から数えて3代目となる新型は、ルノー、日産、三菱自動車工業のアライアンスによる「CMF-C/D」プラットフォームを採用。大きくなったボディ(全長4,490mm、全幅1,860mm、全高1,810mm)とともに、アダプティブクルーズコントロールとレーンセンタリングアシストを組み合わせた「ハイウェイ&トラフィックジャムアシスト」や日本導入モデル初採用の「エマージェンシーレーンキープアシスト」(車線中央維持支援)、「ブラインドスポットインターベンション」(後側方車両検知警報)など、先代まででは考えられなかった多彩な先進運転支援システムを装備しているのが特徴だ。

エクステリアについては「少し真面目で立派になりすぎた」との意見もあるが、人気の「ジョンアグリュム」(イエロー)カラーにブラックの樹脂バンパー、ダブルバックドア(開けた時に屋根代わりになるアクセサリーもあるそう)、鉄チンホイールを組み合わせた日本専用の「クレアティフ」グレードを選べば、往年のカングーらしさを楽しむことができる。ボディ同色バンパーとアルミホイールの「インテンス」グレードを選べば、カングーが集まる場でも逆に目立てるかも?

ラゲッジ容量は通常で775L。リアシートを折りたたむと2,800Lという巨大な空間が出現する。荷室の形状は凸凹なしのほぼ真四角。国産モデルでは見かけない形だが、カングーは商用モデルがベースだから荷物が積みやすく作ってあるのだ。そのほかの収納スペースもたっぷりで、さすがという他ない。

パワートレインは1.3L直列4気筒直噴ガソリンターボと1.5リッター直4直噴ディーゼルターボの2種類。いずれも低速トルクがたっぷりで、高速巡航に入るとエンジンは1,700回転前後の最大トルク域をキープし、車内は一気に静かになる。矢のように走る直進性の高さも特徴で、その走行感覚は日本車ではちょっと味わえないところだ。

価格はクレアティフのガソリンが395万円、ディーゼルが419万円。とにかく手に入れれば、あのカングージャンボリーに参加できる(先着順?)という最大の特典がついてくる。

○「ベルランゴ ロング」でミニバン界の個性派になろう

ベルランゴはシトロエンの販売台数の半数を占める人気のMPVだ。このクルマに先ごろ、カングーには設定のない3列7人乗りのロングボディバージョン「ベルランゴ ロング」が追加となった。3列シートの国産ミニバンとガチンコのライバルになりうるクルマである。

標準型を365mm延長したボディは全長4,770mm、全幅1,850mm、全高1,870mm。オラオラ系の国産モデルや少し真面目になったカングーの顔つきとは異なり、ベルランゴ ロングの顔は大きなダブルシェブロンのグリルを持つファニーな表情で、刺さる人には間違いなく刺さる。相手を威圧するのではなく、笑顔で道を譲ってもらうタイプだ。

左右のスライドドアはちょっと重めの手動式。リアドゲートはカングーと違って垂直に開く。このあたりは、スイッチひとつの電動開閉式ドアを装備する国産モデルに差をつけられている感じだが、ベルランゴのオーナーなら「手で開け閉めしたほうが早いし、小さな荷物はガラスハッチから出し入れすれば事足りるのさ」と意に介していないはずだ。

ダイヤル式のシフトセレクターを持つインテリアは、はっきりいって豪華ではない。ただ、ちょっとした差し色の使い方なんかがオシャレで、国産モデルにはないセンスが感じられる。径の細いドリンクホルダーは使い勝手が悪そうだが、喉が渇いたらカフェによればいいという彼の地のライフスタイルを体現していると受け止めれば気分は悪くない。

3列目のシートは簡単に取り外せる。3列目を外した状態で2列目を折り畳めば、2,693Lの四角い空間が出現する。ただし、外した椅子は一脚18kg前後と1人で抱えるにはけっこう重いし、狭い都会のマンション暮らしにとっては置き場所に困るという難点もある。

1.5L直4ディーゼルと8速ATの組み合わせは大柄なボディに対して全く過不足なく、パドルシフトを使えば思いのほか活発な運動能力を見せてくれる。ロングホイールベースとコンベンショナルなサスによる滑らかな乗り味もすばらしく、高速での静かな巡航性能はカングー同様フランス車らしい美点で、遠くへ出かけたくなる。価格は400万円台半ばで国産ミニバンよりわずかにお高いが、オシャレなデザインと個性への対価だと思えばお釣りがくるほどだ。
○プジョー「リフター ロング」はSUVテイストあり

プジョー「リフター ロング」はベルランゴ ロングの兄弟車。短い“セイバー”をヘッドライト内に配した顔つきと、小径ステアリング越しにメーターを見る「i-コックピット」がプジョー車であることを明確に主張していて、シックなカラーのインテリアも相まってベルランゴとの違いを見せつける。

「スノー」「サンド」「マッド」など、異なる路面状況に対応する「アドバンスドグリップコントロール」を搭載しているのはこちらだけ。一回り大きなサイズのタイヤと硬くなった足回り、20mm上がった最低地上高などにより、ベルランゴよりもSUVテイストが強まっている。

走りはリフターの方が骨太な印象。国産ミニバンでは三菱「デリカD:5」あたりと似た感じかもしれない(リフターはFF、デリカは4WDという違いはある)。価格はベルランゴ ロングとほぼ一緒だ。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら