「苦しい思い、伝える場所を…」全国で初の “認知症行方不明者”家族団体設立

今年7月、警察庁は「令和5年における行方不明者の状況」を発表。2023年に警察に届け出のあった、認知症やその疑いのある行方不明者の数は1万9039人にのぼり、統計史上過去最多となった。
こうした状況を受けて、9月20日「NPO法人いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会」の設立会見が「認知症の日」である9月21日を前に行われた。
同団体は今年8月23日に発足。認知症による長期行方不明者の家族支援を目的とした、当事者家族団体の設立は全国初だという。
「疲弊し、孤立していく」実態広めたいこの日、会見に参加した団体代表の江東愛子さんも、自身の父・坂本秀夫さんが2023年4月から行方不明になったままで、家族の抱える思いや、表に出ない課題、実態を広く知ってもらいたいという思いから団体設立に至ったと話す。
「私自身、父を見つけるために、遠回りをしながらいろいろとやってきましたが、そもそも警察や行政に何を尋ねていいのかもわからず、ただただ一生懸命に聞いて回っていました。
SNSを通じて同じ境遇の人と出会い、そうした方の話を聞いていると、自分と同じ『何をやったらいいのかわからない』『自分が抱えている苦しい思いを伝える場所がない』といった悩みを持っていると知りました。
認知症行方不明者の家族というのは、ずっとつらいままで、周りの人もなかなか声をかけづらく、ますます疲弊し、孤立していきます。
ですが、同じ境遇を持つ当事者同士で話をするだけでも心が救われることもありました。こうした自分の思いや経験、知見などを、団体を通じ伝えていければと思います」(江東さん)
当事者団体ならではの“支え合い”目指す同団体は会見で、以下の4事業を実施していくと説明。
①認知症の行方不明者に関する相談事業
②行方不明者家族に関する集い事業
③認知症行方不明者に関する行政、警察および関連機関との連携事業
④認知症に関する普及・啓発事業
江東さんは特に、②の事業を軸に進めていきたいと、次のように話した。
「当事者家族同士のネットワークを作り、抱えている問題を拾い上げ、国や行政に伝えていきたいです。
私たちは専門家ではありませんが、当事者家族の団体だからこそ、同じ目線で寄り添い、問題を共有し、支え合えると思います。
気軽にサポートを受けられる形にしていきたいと思いますし、私自身、まだ父が見つかっていないので、メンバーに支えられていきたいです」(江東さん)
家族間でも捜索に温度差「何度も衝突」会見では長期行方不明者の家族を対象に実施したアンケート調査の途中結果についても、報告が行われた。
回答を寄せた行方不明者家族の声のなかには「家族や親戚との関係が悪くなった」との声もあったという。
江東さんは自身の体験をもとに以下のように付け加えた。
「家族や親戚であっても、行方不明になった家族を探す気持ちの温度差はそれぞれです。
私も実際に、父を一生懸命に探すうえで、母から『父を探してほしいけど、私の生活も大事にしてほしい』『区切りをつけて欲しい』と言われるなど、何度も衝突してきました。
一方で『このまま、待ち続ける日々が続き、区切りを付けたくても付けられないままで、自分の人生が終わっていくのかな』と母がこぼしたこともあります。
私と同じく、母にも、つらい気持ちを話せる人がいない、相談しあえる場所が無く、そうした場所が必要だと感じたので、やはり団体の設立が必要だなと感じました」
ほかにもアンケートの回答には、行方不明者の年金受給が止まるため、金銭面で困っているという悩みや、行方不明当時の通話履歴の開示を求めても、本人でないために断られたといった声が寄せられたという。
「認知症基本法では、認知症当事者や当事者家族らの意見を聞くよう定められています。今後は団体の代表、当事者家族として、意見を発信していきたいです。
団体を立ち上げたばかりで、まだまだ多くの課題はありますが、少しずつでも変えるべきことを変え、伝えるべきことを伝えていければと思います」(江東さん)
「当事者の声集め、1人でも救われれば」会見には江東さんから相談を受け、団体や個人のバックアップを行ってきた「認知症介護研究・研修東京センター」の永田久美子氏も出席。「認知症行方不明者の問題は長年続いている」と指摘したうえで、団体設立の意義について次のように話した。
「認知症で行方不明になって、見つからないままの人が毎年200人以上いることはあまり知られていません。そして、その200人の家族ひとりひとりが長い時間、苦しんでいます。
認知症は医療や介護、福祉分野での問題として捉えられてきましたが、保険の問題や、行方不明者の所持している車の廃車問題など、想像以上に行方不明者家族の抱える問題は多岐にわたります。
また、これまでの行方不明者を防ぐための取り組みは、当事者抜きに進められがちでもありました。ですが、体験していないと分からないことがたくさんあります。当事者の声を集め、実態を知ってもらい、そして1人でも救われる家族がでてくれば、大変意義があるのではないでしょうか」(永田氏)