81歳妻を殺害、夫に「懲役8年」有罪判決 “要介護状態”ではなかったが…将来に強い不安 「ささいな口論」が引き金に

昨年12月、東京・練馬区の自宅で当時81歳の妻の首を絞めて殺害した罪に問われていた吉田春男被告(87歳)に20日、東京地裁で懲役8年の有罪判決が言い渡された。
公訴事実に争いはなく、量刑を争点に12日から裁判員裁判で審理が進められており、17日の論告で検察側は懲役12年を求刑。一方、弁護側は自首の成立などを理由に懲役5年が相当だと主張していた。
入浴せず、昼夜逆転生活…“生活態度”めぐり日常的に口論妻は要介護認定を受けていなかったものの、かねてより足腰が弱っており、一昨年11月頃の転倒事故をきっかけに外出の機会が激減するようになった。
事故以後は、あまり入浴をしなくなり、昼夜逆転を送って深夜に大音量でテレビを見るなど、徐々に“人間らしい生活”をしなくなったという。そして昨年夏ごろから、生活態度をめぐり被告人と妻は日常的に口論するようになっていた。
このような日々の中、被告人が親しくしていた甥(おい)が亡くなる出来事があった。血縁上の関係は甥にあたるものの、被告人とは11歳しか変わらず、同じ町内に居住し話も合う存在だったことから、被告人は大きなショックを受ける。
安眠できず、食欲もなくなり、一時は体重が14kgほど落ちるなど目に見えて憔悴(しょうすい)。同居していた長男は「父はうつ病では」と疑い、病院に連れて行くことも検討していたという。
そして事件は、ささいな口論をきっかけに起こる。
当日、先に昼食を済ませた被告人は妻に「早く昼ご飯を食べたほうがいいんじゃないか」と注意した。すると妻は「まだ遅くないんだ」と反論。その後もみ合いになり、倒れ込んだ妻の首を絞めて殺害。首を絞めている間、妻は苦しそうにしていたが、被告人は妻が動かなくなるまで絞め続けたという。
なお長男は翌月に介護退職を控えており、「なぜあと少し待てなかったのか。正常な状態でやったとは思えない」と無念さをにじませていた。
裁判長「殺意は強固」20日の判決言い渡しで、野村賢裁判長は被告人の行動について「足腰が弱くなってきた妻の介護をいずれ息子たちがすることになってもできないと考え、口論をきっかけとして、この際いっそのこと将来の不安を解消しようと殺害した」と述べ、量刑の理由を以下のように補足した。
「妻は介護を要する状態になっていたわけではないのに、将来に不安を抱いたという身勝手な動機に基づいた短絡的な犯行」
「突発的だが、抵抗する被害者が動かなくなるまで首を絞め続けており、殺意は強固」
「ささいな口論をきっかけに長年生活をともにしてきた被告人から突然命を奪われた妻の無念さは察するにあまりある」
なお被告人は妻の殺害後、自ら119番通報。救急隊員とともに警察がやってくるのを自宅で待ち、その間に身元が分かりやすいよう、居間のテーブルに自身と妻のマイナンバーカードや、「妻を殺害致しました。」と書いたメモなどを準備していた。弁護人が情状酌量を求めたのは、こうした行為も理由となっている。
しかし、裁判長は「自首しており、一貫して犯行を認めて反省を述べているが、被害者の無念に思いをいたしたり、殺害を後悔している様子が見られない」と指摘。被告人に前科がないことを踏まえ、検察官の求刑(懲役12年)まではいかないものの、弁護人の主張する求刑(懲役5年)には相当しないとして、懲役8年としたと説明した。
被告人の行動は決して正しかったとは言えず、結果も重大だ。しかし、家族が介護を必要とする“少し手前”の状態になれば、誰もが言いようのない不安を覚えるのではないだろうか。高齢化が進む今、被告人一家に起きたことは、多くの人にとって“他人事”ではないはずだ。