「事実上の門前払い」羽田新ルート裁判で住民らの“訴訟の資格”を全否定する中間判決

9月20日、東京都心部の人口密集地や川崎市のコンビナート上空を羽田空港の離着陸機が通る「新飛行ルート」は危険が大きいとして、ルート設定や運用の取消を求めた訴訟において、東京地裁は「訴訟要件は認められない」との中間判決を出した。
2020年から都心・コンビナート上空の飛行が開始1970年11月、石油コンビナート上空を航空機が飛ぶことに危険を感じた川崎市からの要望により、東京航空局は東京国際空港(羽田空港)に飛行制限を通知した(「東空航第710号」通知)。以後、羽田空港では海側からの離着陸しか認められていなかった。
しかし、2019年12月、東京航空局は「東空航第710号」の取消を東京国際空港に通知する(「東空保第16号」通知)。2020年3月から、国土交通省が設定した新飛行ルートの運用が開始。都心の住宅密集地や川崎市のコンビナートの上空を、飛行機や大型旅客機が低空で飛ぶようになった。
本訴訟は、墜落事故や落下物事故のリスクに不安を抱き、また航空機騒音による被害を受けている、東京都および川崎市在住の住民ら29名が提起したもの。
処分性も原告適格も認められず本訴訟の主な争点は「処分性」と「原告適格」。
処分性とは「取消訴訟の対象となる行政行為といえるか否か」の問題。原告側は、国土交通省による新飛行ルートの設定行為、および東京航空局による「東空保第16号」通知は処分性を持つと主張している。
原告適格とは「取消訴訟を提起できる資格を有するか否か」の問題。原告側は、住民は現に航空機騒音の被害を受けており、また航空機の墜落や落下物により被害を受ける危険性もあるために原告適格を有する、と主張。
中間判決では、地裁は新飛行ルートの設定行為は「飛行計画の承認や指示により具体化されるものであり、対象の特定性を欠いているため、その効果は一般的・抽象的なものである」として、処分性を認めなかった。
「東空保第16号」通知についても「内部的行為に過ぎない」として、処分性を認めず。
さらに、環境基本法や航空機騒音防止法の規定からすれば音量が「62Ldenデシベル」以上であれば原告適格を有するが、本件の住民らが何デジベルの騒音にさらされているかは証拠によっても不明であるとして、騒音に関する原告適格も認めなかった。
墜落・落下物の危険性についても「実際に墜落や落下などが起こる蓋然(がいぜん)性は高くなく、『極めて危険』といえるほどではないため、原告適格を認めるに足りる特段の事情はない」と裁判所は判断した。
川崎市民は航空制限を求める「権利」を持つか原告側の鳥海準弁護士は中間判決について「事実上の門前払いだ」と表現した。
「訴えの内容について実質的な審理もされずに、却下された。おそらく、控訴することになる」(鳥海弁護士)
また、鳥海弁護士は、「東空航第710号」が通知されて以降の約40年間を通じて「飛行機がコンビナート上空を飛ばないこと」に関して川崎市民が持つ法的利益・法的地位は実質上の「権利」にまで昇華されていたと語り、裁判所が「(権利ではなく)事実上の期待に過ぎない」と判断した点を批判した。
原告の一員で「羽田問題訴訟の会」代表の須永知男さんは中間判決について「覚悟の上のことだ。仮に原告側に有利な判決が出た場合にも、国側が控訴していただろう」と語り、控訴への意気込みを示した。
「国交省の官僚は、国会議員や住民に『墜落の可能性はゼロではない』と繰り返し説明してきた。これほどに不条理な政策はない」(須永さん)