自衛隊の“ジープのお化け”みたいなクルマは何だ!? 「ハマー」とは違う? 最近まで非冷房車も

陸自衛隊の活動するところで、必ずといってよいほど見られる車両のひとつが「高機動車」です。アメリカ製のハンヴィーやハマーによく似た見た目をしていますが、そのスペックや性能はどの程度なのでしょうか。
豪雨災害をはじめとして地震や火山噴火、行方不明者捜索などでも災害派遣要請があれば直ちに駆け付け、警察や消防などの他機関と連携して活動する自衛隊。なかでも陸上自衛隊は海空自衛隊よりも人数が多く、また全国各地に駐屯地や分屯地を配置している関係から、その迷彩服姿とともに頼りにされることが多いといえるでしょう。 そんな陸上自衛隊の部隊がいるところに、必ずといってよいほど停まっているのが、「高機動車」です。高機動車はアメリカ製の軍用4駆「ハンヴィー」またはその民間モデルである大型SUV「ハマーH1」によく似た姿をしており、さながら「和製ハンヴィー」「ジャパニーズ・ハマー」といった感が強いですが、いったいどのような性能を持っているのでしょうか。
自衛隊の“ジープのお化け”みたいなクルマは何だ!? 「ハマー…の画像はこちら >>陸上自衛隊の高機動車。幌を外して7人が乗車している(乗りものニュース編集部撮影)。
そもそも、高機動車はトヨタが開発した純国産の4輪駆動車です。1993年から導入されているため、すでに30年以上、ほぼ同じデザインで調達されている超ロングセラー車になります。なお、外観こそ変わっていませんが、エンジンや各種装備などは細かくモデルチェンジしています。また部隊の足として酷使されることが多いことから、初期導入車はほぼ廃車になっている模様です。 乗車定員は屋根が幌の基本タイプ(人員輸送型)で10名。運転席と助手席、そして荷室に備えたベンチシートに左右4名ずつ計8名が座ります。 車体サイズは全長4.91m、全幅2.22m、全高2.35m、車体重量約2.7t。これら数値をトヨタの傑作SUV「ランドクルーザー」(300系)と比較すると、同車は全長がおよそ4.97m、全幅が約1.98m、全高が1.925mで、車重が2.5t前後なので、幅と高さ、そして車重は上回っているといえるでしょう。 しかし、日本国内での取り回しを考慮して足回りには4WS(四輪操舵)が標準装備されているため、最小旋回半径は約4.6mと車体の割には極めて小回りが利きます。 また、悪路走破性を向上させるために、タイヤの空気圧を運転席から自動で変更可能なタイヤ空気圧調整装置を装備するほか、タイヤ自体はパンクしても一定距離は走り続けることが可能なランフラットタイヤが採用されています。
高機動車は、自衛隊が使用することを想定して、悪路走破性を含めた機動性は極めて優秀です。実際、水深80cmでも走行できるほか、50cmの高さがある障害物や幅75cmの溝も越え、左右43度までの傾き、60%以上の傾斜地でも登坂可能といったスペックを誇ります。
また堅牢性に優れた造りになっているのも特徴で、たとえばエンジンに水が入らない限り動ける構造であることから、車内を水洗いできたりもするとか。ちなみに、シート表皮はビニールで、ハンドルはウレタン巻きです。
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幌付きの高機動車。後ろに牽引しているのは120mm迫撃砲。重迫撃砲を牽引できるよう所要の艤装が施されているため、「重迫牽引車」と呼ばれるタイプになる(乗りものニュース編集部撮影)。
その一方、快適性とは程遠い構造であるのも確かで、たとえばつい最近までクーラー(冷房)がありませんでした。ヒーター(暖房)はエンジンの排熱を使うため備えていたものの、クーラーはコンプレッサーなどの機器類が必要なため設置されておらず、軽装甲機動車をはじめとして装甲戦闘車両でもクーラーが標準装備されるなか、数少ない「非冷房車」でした。
とはいえ、2~3年前から導入されている車体にはさすがにクーラーが標準装備されるようになっています。
ちなみに、初期に導入された車体ではドアに鍵穴がなかったため、広報やイベント協力などで一般の駐車場や広場にクルマを停めてもドアをロックすることができなかったそうです。そういった点など、当初は必要ないと削られた装備も、後日現場の意見がフィードバックされて改良が加えられているといえるでしょう。
高機動車は屋根が幌なので取り外せます。サイドドアも工具などを使えば脱着可能で、フロントガラスは「ジープ」などと同じく前に倒すことができます。このようにして車高を下げることで、大型輸送ヘリコプターCH-47「チヌーク」の機内へと収容することも可能です。
CH-47「チヌーク」では機外に吊下げて運ぶこともできるほか、航空自衛隊の輸送機からパラシュートによる空中投下も行えます。このように極めて空輸性に優れているのも高機動車の特徴です。
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電子戦用のアンテナ搭載シェルターを搭載した高機動車。いわゆるピックアップトラック型で、屋根は幌ではなくハードトップ仕様である(乗りものニュース編集部撮影)。
高機動車は前出の基本タイプ以外に、車体後部を荷台にした、いわゆるピックアップトラック型もあります。このタイプは、車体後部に各種ミサイルランチャーやレーダー装置、通信装置、発煙機などを搭載し、トラックみたいに使えるようにしたものです。
このピックアップトラック型のバリエーションの多さが、高機動車の汎用性の高さと普及率の高さを体現しているといえるのかもしれません。
なお、ハンヴィー(軍用)とハマー(民用)のように、トヨタも一時期、高機動車の民間仕様といえる「メガクルーザー」を市販していました。しかし、車体価格1000万円の割に車内は質素だったことから、購入者のほとんどは官公庁もしくは法人だったようで、そういったこともあってか「メガクルーザー」の製造は2000年代初頭で終了しています。
前述したように、すでに登場から30年以上経つ高機動車はこれまでに約3000両が生産されました。さまざまなタイプが全国の駐屯地に配備され、いろいろな部隊で使用されています。だからこそ、自衛隊の代名詞的存在ともいえるまでになったともいえるのかもしれません。