上司から「おかま」呼ばわり、メモも取れない理不尽な指導… パワハラ・セクハラ被害を受けた元従業員が生命保険会社に損害賠償を請求

生命保険会社で働いていた元従業員が同僚からハラスメント被害を受けてうつ病などを発症し、その後に会社から一方的に退職させられたとして、元従業員が会社に対し損害賠償と地位確認を請求する訴訟について、10月2日、原告側の弁護士が会見を開いた。
ハラスメント被害後、休職期間満了で退職扱いに被告は東京都千代田区に本社があるジブラルタ生命保険株式会社。
原告男性(以下A氏)は2015年より同社の従業員として勤務を開始。2016年4月から配属されたチームで、上司のS氏から「おかま」などと呼ばれるセクシュアルハラスメント(セクハラ)を受ける。また、同チームの上司のH氏から、同僚の面前で日常的に叱責されるなどのパワーハラスメント(パワハラ)も受けるようになったという。
2016年7月、セクハラとパワハラが原因でA氏は不安障害や不眠障害を発症。その後もハラスメントが継続したため症状は回復せず、2022年4月時点で、抑うつ状態・適応障害・フラッシュバック症状の診断を受けた。同年8月、A氏は傷病休暇を取得。
休職期間が満了したことから、2023年11月、会社はA氏を退職扱いとした。
今年4月19日、A氏が労働審判を申し立てる。7月19日に審判委員会より「会社側に50万円の支払義務」と審判が出されたが、同月30日にA氏が異議申し立てを行い、訴訟に移行した。
今回の訴訟は、ハラスメントが原因で発生した精神的苦痛や休業損害などに関する損害賠償、および雇用契約上の権利を有することの地位確認を請求するもの。
同性愛者呼ばわりのセクハラ、同僚の面前で叱責されるパワハラS氏は日常的にA氏を「おかま」や「バイ(バイセクシュアル)」などと呼び続けていた。
また、A氏を含む複数の同僚に宛ててS氏が送信したメール内で、A氏に関して「おかま」と表記していたほか、「ムリをせずに男子に転んでもいいです」などとA氏が同性愛者であるとほのめかす文章も記載していた。さらに、女装した男性が接客する、いわゆる「おかまバー」にA氏を連れ出したという。
A氏は「おかま」などと呼ぶことを止めてほしいと口頭で数回要望したが、S氏は聞き入れず。2017年にA氏がメールで要望した際には、「あれこれ気にしてしまうことは持ち味の一つだと思いますが、他の持ち味も含め、変えられるところは変えて行ってもいいのかもしれませんね」と、S氏はA氏に原因があるかのような返答をした。
H氏は、日常的に15分から1時間程度、周囲に響き渡るほどの大声でA氏を叱責していた。
「一度説明しているのに理解していないのは信じられない」「いつになったら理解できるようになるのか」などと非難する一方で、A氏が業務の説明を受けている最中にメモを取ろうとした際には「メモを書く時間があるくらいなら聞きなさい」と叱責する、不合理な指導を行っていたという。
2016年12月、A氏はH氏のパワハラ行為による心身の不調を訴えて、業務変更を申し出る。これにより業務上のやり取りをする機会は少なくなったが、H氏はA氏が会社内に一斉送信したメールをチェックし続け、気に入らない記載内容があった場合には制止する同僚を押しのけてA氏の席まで行き、強く叱責した。
A氏はH氏のパワハラ行為について別の上司に相談したが、受忍するよう促され、H氏に対する直接の改善指導などは行われなかった。また、社内の窓口に相談することを考えている旨を同上司に伝えたところ、「相談窓口などの第三者機関は会社とつながっており、チームリーダーへの報告を通じて今よりも状況が悪化する」として、外部に相談しないように圧力をかけられたという。
会社の配慮義務違反、使用者責任を追及原告側は「パワハラ行為は組織的に容認されており、悪質性の高いハラスメントであった」と指摘し、会社は職場環境の配慮義務を行っていたと主張。
また、S氏のセクハラ行為についても「職務に関連して行われたものであるため、雇用主である会社は不法行為の使用者責任を負う」と主張している。
原告が会社に対して請求する損害賠償の金額は、慰謝料150万円を含む約320万円。
また、A氏がハラスメントにより精神疾患を発症した責任は会社側にあるため、休職期間満了による退職扱いは無効であるとして、雇用契約上の権利について地位確認請求も行う。
訴訟と異なり、労働審判は非公開。また、審判結果の理由も詳しくは説明されない。原告代理人のB弁護士によると、A氏は事実認定について詳しく知ることを望んで、訴訟に移行することを決意したという。
訴訟の次回期日は10月3日、オンラインで開催される。
本件についてジブラルタ生命保険株式会社に問い合わせたところ、「詳しい回答は差し控えるが、訴訟については真摯に対応していく」(広報担当者)とのことだった。