私も寿司職人になれますか? 養成スクールで聞いてきた

ずっと会社員でいるつもりはないし、いつかはなにかで独立したい……でも自分には何か独立できるようなスキルもないし、なにかビジネスを始める人脈もない……。

そう思っている人に選択肢の一つとして提案したいのが「寿司職人」の道だ。寿司職人といえば十数年見習いとして厳しい修業を積まなければならない……というイメージがあったがそれは昔の話。今はたった3カ月、しかもオンラインで知識と技術を身に付ける方法があるという。
○今、世界で寿司職人が争奪戦になっている!?

3月21日に開校したのは、ふじながが運営する「日本寿司リーディングアカデミー」。代表の菊地英晃氏は東京・六本木にある「江戸前鮓すし通」をはじめとする飲食事業を展開している。

菊地氏によると、近年世界で寿司人気が急上昇。海外の日本食レストランは2006年から2021年までの15年間で店舗数が6.6倍(2.4万店→15.9万店)に増加している(農林水産省「海外における日本食レストランの数」より)。その結果、寿司職人の争奪戦が世界でエスカレートしつつあるという。日本で年収300万円だった寿司職人がアメリカで年収8,000万円になった例もあるというから驚きだ。

そうなると日本の寿司屋にも影響が出る。どんなに新人の寿司職人を育てても、一人前になると引き抜かれる事態に。寿司屋にとっては「育てても育てても引き抜かれる」状況から慢性的な人材不足に陥っており、給与を払って技術を教えているというあまりにも「割に合わない」状態が続いているのだという。

また、見習いが魚をさばいてもその魚を客に提供することができず、その食材はロスとなる。さらにレシピや技術を教えても一人前になれば独立してしまうため、「どんなに頑張って寿司職人を育てても、ただ競合が増えるだけ」という危機感もあったのだそう。
○リモートで学ぶ寿司職人へのキャリアチェンジ

そんな状況を変えるべく誕生したのが「日本寿司リーディングアカデミー」だ。「仮想個別指導メソッド」と題したカリキュラムを用意し、知識と技術はほぼオンラインで完結するのが特徴だ。受講者の自宅まで魚を配送し、魚のさばき方などの技術は映像で配信。

映像では講師となる寿司職人と生徒が交互魚をさばく。交互にその様子が流れることで、映像を見ながら共に手を動かす余裕も生まれ、さらに生徒のさばく様子では「素人が間違えがちなミス」も見られるため、より1歩先のスキルを習得できる。さらに映像に加え、600ぺージ以上もあるテキストで知識も十分に学ぶことができる。

また、AR技術を活用して一流職人が実際に魚を捌く様子を目の前で体感することも可能だ。自宅で魚をさばくことで、すぐに自分のさばいた魚や握った寿司を食べることができ、食品ロスの低減にもつながる。

リアルな場での受講の方が良い……と考えがちだが、これまでの寿司職人養成学校では複数人の生徒が1人の講師につくスタイルが多く、最適な角度から包丁の入れ方を見ることが難しかったり、一度聞いただけでは「それでは実際にやってみましょう」と言われた時にはコツを忘れてしまったりして、間違ったクセがついてしまう懸念もあった。オンラインであればそうしたこともない。

また、通常教えを乞うことが不可能な最高峰の講師陣が揃っているのも魅力だ。「鮨佐がわ」(東京都港区六本木)の佐川雅温氏、「すし匠齋藤」(東京都港区赤坂)の斎藤敏雄氏など、現役で超人気店の寿司職人たちから学ぶことができるのはオンラインならでは。

コースは、本格的に寿司職人を目指したい人向け、趣味で習いたい人向けの2つ。オンライン+実店舗での指導が受けられる「仮想個別指導メソッド」寿司職人養成コースは5月8日よりスタート予定で、受講料は88万円(全60回)。オンラインのみで完結する「仮想個別指導メソッド」寿司マスターコースは3月21日よりスタートで受講料は44万円(全40回)。受講料にはレッスンで使用する基本調味料や魚介類も含まれる。さらに希望者には「鮨佐がわ」や「すし匠齋藤」などで実際に勤務しながら修業できる「インターンコース」や海外インターン制度もある。

○私でも寿司職人になれる?

受講料は決して簡単に決断できる金額ではない。ましてや、せっかく時間とお金をかけても「本当に寿司職人として稼げるのか」が気になる人も多いだろう。菊地氏によると、寿司職人を目指す年齢は早ければ早いほど良いが40歳前半くらいまでであれば十分に可能だと言う。それ以上になると見習いを受け入れてくれる店が少なくなってしまうこともあり、不可能ではないが難しいのだそうだ。

「女性は体温が高いから寿司を握ってもマズくなる」という話を聞いたことがあるが、まったくそんなことはないという。むしろシャリは温かいまま握れる方が良いし、素早く寿司を握り魚に触れる時間を短くすることができれば性別は全く関係ないのだ。

寿司職人に向いているのは「コツコツと同じことができる人」。さらに食べるのが好きで、おもてなしをするのが好きな人だとなお良いという。

寿司職人になって海外進出を目指すとしたらどんな国が候補になるのか。腕があればドバイがおすすめ、寿司がまだあまり浸透していない国の高級店も狙い目なのだそう。「有名店で働いた実績があれば、物価の高い国では年収1,000万円は当たり前の世界」(菊地氏)とのことで、日本寿司リーディングアカデミーでも有名店でのインターンが用意されている。
○デビュー2カ月の職人さんによるお寿司を実食!

今回、「鮨 佐がわ」にて、佐川雅温氏の握った寿司と、日本寿司リーディングアカデミーで学び、寿司職人デビュー2カ月目の後藤理央氏の握った寿司を食べ比べることができた。鮨 佐がわといえば入会金100万円・月会費3万円を支払った会員100名しか食べることができない会員制の高級寿司店……どれだけ実力に差があるのだろうか?

元バーテンダーの後藤理央氏(26歳)は寿司を学んでまだ2か月。鮨 佐がわで佐川氏に指導を受けているところだ。なんと客に自分が握った寿司を提供するのは今日が初めてだという。

まずはマグロの赤身。右が後藤氏の握ったもので、左が佐川氏が握ったものだ。

後藤氏が握ったものも決して素人っぽくはなく、カウンターで食べるお寿司として出てきても遜色はない。だが口にしてみると、佐川氏の握ったものの方がネタとしゃりの一体感があるように感じた。しゃり・わさび・醤油・そして切り方(薄さ)など、どれも細かすぎる違いではあるが、その細かな違いが分岐点となって全体的に感じる味へと影響を与えているのだろう。続いて食べたクエも同じように感じた。比べてしまうとやはり佐川氏の方が一流であることがわかる。しかし、寿司を学んで2カ月だということを忘れてはいけない。むしろその短期間で佐川氏の寿司とこうして並べることができるだけですごいのだ。

佐川氏は15歳で寿司の世界に飛び込み、長年修業を積んだ身。「飯炊き3年」「握り8年」などと言われ決まった長い年数修業しなくてはならないという慣習があった時代だ。しかし佐川氏は「つらいことを全部経験する必要はありません。短期間で覚えることができるのは良いことだと思います。むしろ自分のお店を構えてからが本当のスタートラインです。ここで学んだことをきっかけとして自分なりのやり方を見つけてほしいですね」と語った。

まずは自分の吸収力を信じ、最短ルートで寿司について学び、その後は可能性を信じて海外で寿司職人として羽ばたく……本気で独立したいと考え、そして決断ができたなら、あなたにも寿司職人になる未来が待っているかもしれない。

松本果歩 まつもとかほ 恋愛・就職・食レポ記事を数多く執筆し、社長インタビューから芸能取材までジャンル問わず興味の赴くままに執筆するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり、店長を務めた経験あり。Twitter: @KA_HO_MA この著者の記事一覧はこちら