NTT西日本、未来共創プログラム「Future-Build」の報告会を開催 – 事業性検証に移るアイデアが決定

NTT西日本は3月28日、2022年8月より開始した未来共創プログラム「Future-Build For Well-being society(フューチャービルドフォーウェルビーイングソサイエティ)」(Future-Build)の成果報告会を「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」で実施した。

NTT西日本がオープンイノベーションによる社会課題解決や未来社会の創造に取り組む本プログラム。成果報告会では採択企業による各プロジェクトの実証実験結果などの発表が行われ、審査によってネクストステージ(事業性検証のフェーズ)へ移るプロジェクトが決定した。
○ウェルビーイングな社会を実現する事業を共創

Future-BuildはNTT西日本のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」(大阪府大阪市)において、スタートアップ、企業、研究機関等のパートナーとの共創によりWell-Beingな未来社会を実現するプログラム。成果報告会の開会にあたって、NTT西日本の技術革新部長 白波瀬章氏は次のように挨拶した。

「本プログラムの大きな背景となったのが時代の変化です。昨今、コロナ禍で働き方も大きく変化し、最近ではAIのChatGPT等が非常に大きな勢いで人々に変化をもたらそうとしています。変化の時代における大きな社会的課題、NTT西日本1社だけでは解決できない問題に取り組み、未来を創造するといった思いのもとで本プログラムを始めました。たくさんの方に参加いただけたことに敬意と感謝を申し上げます」

昨春、NTT西日本が開設したQUINTBRIDGEは、現在1万人以上の会員を有している。ウェルビーイングを実感できる社会の実現を掲げたFuture-Buildでは、その繋がりによってNTT西日本×パートナー企業による新事業のアイデアを募集。

100件以上の応募の中から、昨年9月に4領域(健康・生活・経済・環境)6テーマ、10社の採択企業を決定し、2022年11月から2023年3月にかけ、実証実験を行ってきた。

審査により「ネクストステージ(事業性検証のフェーズ)へ移るプロジェクト」「更なるコンセプトの深堀り・技術再検証が必要なプロジェクト」「検討終了のプロジェクト」が決まる今回の報告会。

審査員は審査委員長・白羽瀬氏をはじめとするNTT西日本の社内審査員で構成され、合同会社Miraiseの岩田真一氏、リバネスの吉田一寛氏、taliki・talikiファンドの中村多伽氏が外部審査員を、NTT西日本の森林正彰社長が特別審査員を務めた。

採択企業との共創による各プロジェクトのタイトルと審査結果は以下の通り。

【ネクストステージ(事業性検証のフェーズ)へ移るプロジェクト】
「地球環境に配慮した次世代型農業支援サービス」(NTTコムウェア株式会社・宇野真太郎、NTT西日本・駒寿浩)
「ARを活用した「まちの賑わい」の創出」(株式会社ビーブリッジ・野崎良博、NTT西日本・藤森敬基)

【更なるコンセプトの深堀り・技術再検証が必要なプロジェクト】

「安価な設備の故障予知診断システムの開発」(広島商船高等専門学校・加藤由幹、NTT西日本・仲出雄樹、藤原利華)
「自然関連情報見える化サービス」株式会社イノカ・高倉葉太、NTT西日本・豊嶋絵美)

【検討終了のプロジェクト】
「糖尿病予防・フレイル予防ヘルスコーチサービス」(株式会社スポルツ・渡辺武友、528株式会社・今林知柔、jesse、Being・小林眞咲惠、株式会社Enjoydream Holdings・小林義樹、NTT西日本・戸田伸一、赤松祐樹)
「リアルタイムな遠隔操作によるマルチタスクロボットオペレーションの実現」(アダワープジャパン株式会社・安谷屋樹、NTT西日本・仲出雄樹、太田敦志)

○事業性検証フェーズに移る2プロジェクトの骨子

審査の結果、ネクストステージ(事業性検証のフェーズ)へ移るプロジェクトとなった「地球環境に配慮した次世代型農業支援サービス」をプレゼンしたのは、NTT西日本の駒寿浩氏。

「近年は未来の農業として化学肥料や農薬に頼らない、自然に優しい環境配慮型の農業を広めていく必要性が高まってきています。昨年、みどりの食料システム法が施行され、ようやく国もオーガニック市場の拡大に向けて動き始めた段階ですが、国内で有機農業が普及しない主な理由には、技術と販路がないことが挙げられます」(駒氏)

こうした課題の解決を目指し、駒氏が注目したのがジャパンバイオファームの小祝政明氏が開発したBLOF(ブロフ)理論と、それに基づいてNTTコムウェアが提供する営農支援クラウドサービス「BLOFware.Doctor(ブロフウェアドクター)」だ。

「BLOF理論は非常にイノベーティブで画期的なサービスですが、(現行のサービスには)製品設計の部分が少し難しいといった課題もあります。そこで有機農業を目指す若手農家さん向けに栽培・出荷・販売までパッケージングした新サービスを、ジャパンバイオファーム様、NTTコムウェア様とともに考えてきました」(駒氏)

実証実験では新規就農者など4名の協力のもと、実際に有機栽培のための土づくりをデジタルで実現する「BLOFware.Doctor」を実践。ほうれん草を栽培したという。

「有機農業は難しいと言われるなか、初めてでもBLOFの全工程を実施でき、収量も良く病害虫もない有機栽培を行えました。やはり、製品設計上の難しさという課題は残るものの、『やさいバス』で集荷し、販売サイトに掲載したところ、市場価格の110%で完売しました」(駒氏)

駒氏は有機のマーケットの年成長率は10%前後で推移し、2050年には約1兆円を超えるマーケットになるとも紹介した。

「NTT西日本が新サービスを生産者に提供し、栽培・出荷して仲卸を通してスーパー小売店、生協に供給。販売手数料をいただくビジネスモデルを考えています。土づくりに関しては月額無料にすることで間口を広げ、出荷・販売でマネタイズする戦略です。市場開拓は有機を目指す自治体と連携し、アジア・モンスーン地域の持続的な食料システムの実現にも貢献できるようなサービス展開を考えています」(駒氏)

一方、「ARを活用した『まちの賑わい』の創出」はNTT西日本の藤森敬基氏が発表を行った。

「今年、日本の出生数が80万人を下回るような人口減を踏まえると、その土地に住む人だけではなく外から人を呼び込み、接点をつくることで関係人口を増発させることが、より大切になっています」(藤森氏)

まちの賑わい創出で重要な要素となる観光業は政府の支援や円安の影響もあり、急速な回復傾向にある一方、オーバーツーリズムの問題などの問題も依然としてあると解説する。

「観光客を点で増やすのではなく面で広げていくことが大切になっているなかで、観光・まちづくりにおける大きな課題のひとつとして、地域に眠っている資産を十二分に活用できていないことなどがあります」(藤森氏)

物理的にリアルなコンテンツを展開するよりも、時間やコストを抑えやすいデジタルコンテンツの長所。それを最大限に発揮できるAR技術を用い、魅力的な街の創出を目指すというのが本プロジェクトのコンセプトだという。

共創パートナーであるビーブリッジは、2015年の創業期からXR領域での研究開発・事業を展開。今年、福岡で開催される世界水泳に世界初のAR /VR技術を提供することが決定している。

「今回は街に馴染むARを目指し、空間にマッピングする技術やユーザーの位置を推定しながらコンテンツを表示させる技術など、”リアルメタバース”の技術を使っています。また、コンテンツも差し替えられる配信の仕組みで、大量のデータを高速で通信できる技術などを掛け合わせたAR技術です」(ビーブリッジ・野崎良博氏)

藤森氏は実証実験の結果を報告。多言語表示が可能で、人流やまちの利活用の状況を見える化できると述べ、売上げの源泉には広告事業を軸とする構想を語った。

「ビーブリッジ様と我々で街の魅力創出事業を行い、京阪様をはじめとする街づくり事業の皆様とタッグを組み、観光客・地域住民を巻き込んでいきたいと思います。10万人規模の都市を対象に今回のシステム導入を進め、一般的な屋外広告の試算をもとに16.1億円の広告市場をまず狙っていきたいと考えています」(藤森氏)
○「さすが100件の中から選ばれたプロジェクト」

外部審査員を務めた中村氏は、「審査の議論を私なりに咀嚼して解釈すると、プロダクトやサービスの良し悪しではないというところがすごく特徴的で、そこは起業家の皆さんにまずわかってほしいなと思います」とメッセージを送り、その上で審査のポイントを次のように振り返っていた。

「プロジェクトとしての拡張性、活用や価値にレバレッジが利かせられるかといった話が議論では出ていて。大企業とのオープンイノベーションでは、いかに多元的なデータやリソースを活用してシナジーが出せるかが重視されるという、私の学びをシェアさせていただきます。ぜひみなさん次に活かしていただければ。私自身も勉強になりましたし、とても楽しい時間でした」(中村氏)

閉会の挨拶として森林社長も「今回、前に進む/進まないはあるんですが、NTT西日本として見たときにどうかという審査なので、少し観点を変えたり、パートナーを変えたりしたら化けそうな良いものがたくさんあったと思います。すべて良かったです。さすが100件の中から選ばれたプロジェクトだと思いました。ここで肩を落とす必要は全くないので、『何くそ』と思ってください(笑)」とコメント。

続けて、「今回、選ばれた2つのプロジェクトについては私自身も応援し、なんとかものにしたいと思っています。これからも皆さんと一緒にパートナーとして共創していきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします」と意気込みを語っていた。

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら