時間もコストもかけて「あきたこまち」使用 秋田の「湖畔の杜ビール」…みちのく地ビール巡り

岩手県在住の知人から「ここはうまい」と薦められ、秋田の「湖畔の杜ビール」を訪れた。まず、ロケーションが抜群だ。醸造所を併設したレストラン「ORAE」の大きな窓の外には、一面に田沢湖の絶景が広がっている。
醸造責任者の関口久美子さんはかつて発酵食品の会社に勤務しており、大豆が納豆になるという食物の劇的な変化に魅了された。同じ発酵でも全く異なるビールに魅力を感じ、同僚3人と1999年に会社を立ち上げた。当初の借金は3億2000万円。それでも「若気の至りですね。やれる気しかしなかったんです」と笑顔で振り返った。
「農業を基軸にして秋田のいいものを伝えたい」という思いで、あきたこまちを使ったビールを発売。釜は2つ使うのが一般的だが「米を甘くしたい」と、雑味が残らないよう米専用の糖化釜を加え3つの釜で仕上げる。「時間もコストもかかりますが、こだわっています」。年4回メニューを変えるレストランでは、契約農家からの野菜を出すなど地産地消に努めている。
いよいよ試飲。自慢の3杯がテーブルに並んだ。最初に飲んだ「天恵」はスッキリ爽やかな味わい。米のまろやかさとマッチしている。フルーティーな「天空」は名前のごとく青空のような清涼感。そして最後の「天涯(てんや)」は衝撃的だった。甘みと苦みが同時に押し寄せ、コクがあるのにくどくなく一気に飲み干せる。「ビール好きの方は天涯が一番気に入りますよ」と関口さん。おっしゃる通りです。

年に1度、月の満ち欠けに従って醸造したビールが今月中旬に完成し、数量限定でネット販売も行う予定だ。「新月から仕込み始めると酵母がすごく元気なんですよ」。これほどうまいビールの、さらに上があるのか。幻の味が、とても気になる。
(岩崎 敦)
◆湖畔の杜ビール 低温で長く発酵させるラガーの一種であるピルスナーが中心。住所は秋田県仙北市田沢湖田沢字春山37の5。JR田沢湖駅からバス「公園入口」で下車し徒歩10分。レストランでは結婚式も挙げられる。ビールは伊勢丹、東武、京王など都内のデパートでも販売している。