共通するのは踏み出す勇気…「すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア―」早花まこ著

元宝塚歌劇団雪組娘役の早花(さはな)まこさん(41)は、初の著書「すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア―」(新潮社、1650円)で、宝塚という夢の世界を生き、退団後に次の道に進む仲間たちの姿を取材した。芸能の世界で輝く道、全く違うキャリアを歩む道…。選ぶ未来はさまざまだったが、共通していたのは「踏み出す勇気」だったという。(宮路 美穂)
春が来る度、情報番組などでは宝塚音楽学校の合格発表や劇団生の初舞台など、希望に満ちたニュースが画面に躍る。ただ、始まりの日があれば、終わりの日も必ず訪れる。自らのアイデンティティーだった「タカラジェンヌ」という肩書は、退団公演を終え、日をまたいだ瞬間から「元」という冠がつく。
早花さんにとって、その先の未来は蜃気楼(しんきろう)のような概念だったからこそ、本書の執筆につながった。「宝塚を出て次に何をしようと思った時に『こうなんだろうな』とか漠然としたものはあっても、在団中に調べたり準備するのも限りがありました。その時に、先に卒業している先輩や仲のいい方にとても豊かなアドバイスを頂いた。もっといろんな方にお話を聞いたら、選択肢が増えて、実りあるお話が聞けるなと思いました」
宝塚時代は、機関誌「歌劇」のコーナー「組レポ。」を8年間にわたり執筆。「公演関係のこともあれば、マイブームを教えてとか、夏だったら暑さ対策を教えてくださいみたいなこととか。読者の方から頂いた質問を代わりにすることもありました」。稽古や本番中の雪組のリアルな姿を丁寧かつユーモラスに伝え、その筆致に定評があった早花さん。宝塚OGの第二の人生について取材し、文章にすることで答えに近づけるような気がした。

本書には、9人の元タカラジェンヌが登場する。早花さん在籍時の雪組トップスター、早霧せいなら現在もエンターテインメントの世界で活躍する面々だけでなく、九州で3児の母として子育てに邁進(まいしん)する夢乃聖夏さん(元星組、雪組男役スター)や、国際医療福祉大に進学した鳳真由さん(元花組男役スター)、ベトナムの日本語学校の教師となり、技能実習生育成支援を行っている香綾しずるさん(元雪組男役スター)らを取材。共演経験がある人もいれば、初めてじっくりと話を聞いた人もいた。
心がけたのは、書き手である自身も宝塚という“運命共同体”で過ごした目線を持つこと。「私自身も宝塚を卒業しているという点が大きいなと思いまして。私の視点が入ってこそのインタビューだなということ。引きすぎてしまったり、ただ言葉を書き写すだけでは成立しない。雰囲気とか、たたずまいとか、その方から出るものをどうしたら文章に落とし込めるかな、と」。取材の録音音源は3時間以上に上ることも。早花さんはその全てを手書きでノートに起こし、一文字一文字に向き合った。
多彩な“その後”に触れた早花さん。「みなさん共通して、やりたいと思ったことに一歩踏み出すという勇気があった方なんだろうなと思って。もちろん才能もおありの方ですが、最初はちょっと気後れしてしまうようなことでも『やってみよう』と踏み出す力が大事なんだなと」。取材を重ねる度に心は燃えた。

9人の取材で早花さんは「宝塚とはどんな場所だった?」という問いかけをしている。「愛を学んだ場所」「生活必需品」「生まれた場所、死にたい場所」「人生の基盤」…。全員答えは違った。同じ質問を今回、早花さんにしてみると「楽しい時間でしたよ」と優しく振り返ったあとに、ひと呼吸置いた。「9人の答えを聞いた後では、もう一度、『何なんだろうな』って、自分に問いかけています」
自身のセカンドキャリアについても気づきがあった。「今回本を作るにあたって、たくさんの人に支えていただいたり教えていただいて、私にとって人との出会いは必要不可欠と思い知らされました。いろんな方に自分から出会いに行き、人と関わることを大切にしたい」
今後も書くことは続けていくつもりだ。「戦争を経験した方に、いつかお話を聞くというのは今やってみたいことの一つです。時がたつにつれて、どんどん少なくなってきてしまうので…。お話を聞いて文字にするということは挑戦したい」。夢の世界を卒業しても、人生を懸けた夢を追いかけることはできる。
◆早花 まこ(さはな・まこ)1982年1月19日、東京都生まれ。41歳。2002年に88期生として宝塚に入団し、星組公演「LUCKY STAR!」で初舞台。雪組に配属され18年間在籍し、20年3月に退団。現在は新潮社の本の総合情報サイト「Book Bang」で「ザ・ブックレビュー 宝塚の本箱」を連載中。