日本も“ちゃぶ台返し”される? 日英伊の次期戦闘機開発に働く“力学” 豪の新潜水艦の顛末に学べ

米英豪の安全保障の枠組みのなかで決定された豪州初の原子力潜水艦導入。実は日本の主要軍事トピックのひとつである次期戦闘機計画の未来にも重ね合わせることができるでしょう。
豪州、そして米英による安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づき、豪州が米国の原子力潜水艦を初めて導入することになりました。海洋へ軍事的な進出を目論む中国を念頭に置いていると見られ、この動きについて、日本でも好意的に受け止められている報道も散見されます。 しかし、仮に日本が豪州のこの潜水艦の輸出元に選ばれていたら、今頃は大騒ぎになっていたことでしょう。幸不幸は分からない「塞翁が馬」ともいえる事態を日本が体験したかもしれません。そしてこの豪潜水艦導入の経緯は、現在の我が国における軍事的な主要トピックのひとつ、日英伊で開発を進める次期戦闘機計画の未来にも重ね合わせることができます。
日本も“ちゃぶ台返し”される? 日英伊の次期戦闘機開発に働く…の画像はこちら >> オーストラリアが公開した新型潜水艦のイメージCG(画像:オーストラリア国防省)。
そもそも豪の新潜水艦計画は2014年、日本が初の潜水艦技術の輸出に成功するかもしれないと、大きな注目を集めました。結果として日本は破れ、2016年4月に豪州は仏と潜水艦の建造契約を締結。しかし仏の契約も米英豪の「AUKUS」にあおられて、米原潜が最終的な勝者として導入が決定されました。仏はこの流れで「ちゃぶ台返し」を食らったわけです。

ただもしも、この「ちゃぶ台返し」を日本が食らっていたら、政界も産業界も「米国に裏切られた」と大騒ぎになり、対中国へ安全保障態勢の足並みが乱れたことは容易に想像できます。こうした経緯を忘れて、好意的な反応のみで豪原潜の導入を捉えることはできません。
そして折しも、2023年3月中旬には、日英伊が次期戦闘機開発の緊密な協力を申し合わせています。
潜水艦も戦闘機も、兵器の設計は「材料力学」「熱力学」など「力学」という言葉が使われますが、政治や国際関係の世界でも様々な「力学」が働きます。明確な計算式がある機体や船体の設計に対し、政治や国際関係では、いつどのような力がどれほどの大きさで各国にかかるか予測できません。
また、兵器の国際共同開発や輸出は、価格や生産分担での雇用創出、市場のシェア争いも絡むうえに、国どうしのつながりにも影響されます。
次期戦闘機の前作機になるF-2戦闘機が生まれたのは、日本が積み上げた開発力を米国に警戒された結果、F-16の大規模改造を余儀なくされたためです。いわば「戦後の日米関係」が力学として働いた結果でした。
次期戦闘機の開発は、今後どんな「力」が働くのでしょう。豪原潜で仮に日本が「ちゃぶ台返し」をされたのなら、次期戦闘機の開発は二の舞にならないように警戒心は高まったかもしれませんが、現状の日本国内の感じようは、“対岸の火事”で終わっているように思います。「塞翁が馬」のように、政治的な「力学」によって、いつ不幸がわが身に訪れるか、今回の豪原潜の件で検証する空気は薄いようです。

Large 02
日英伊が共同開発する次期戦闘機のイメージCG(画像:防衛省)。
次期戦闘機は現在のところ、機体を英伊と、随伴する無人機の開発研究を米と行うことで棲み分けができています。しかし、開発比率や開発費、製造比率の分担と負担、装備品の選択などで、日英伊の足並みが乱れる可能性はまだ捨てきれません。米がインターオペラビリティ(相互運用性)を理由に、自国産部品の採用を機体開発でも持ち掛けてくることも考えられなくはありません。
この時、英伊との「力学」がどのように働き、開発を続けるためにどうまとめなければならないのか。日本は国際共同開発の経験をこれから積み上げ、設計者だけでなく、政財官が合わせて交渉力を高めなければなりません。豪潜水艦の事例を参考に、不幸を避ける策を研究する必要があるのではないでしょうか。