「ロボット戦闘車」はまだ夢か? 海空に比べ兵器無人化進まぬ陸上 その理由と最新事情

ドローンなど、いわゆる無人兵器の実戦投入が進む昨今、海や空に比べ、陸上でのそれはまだあまり耳にしません。最新兵器が集った「DSEI Japan」でも、前回に比べなんだか下火だったとか。その理由と最新の開発状況について解説します。
2023年3月15日から17日にかけ、防衛・セキュリティ総合展示会である「DSEI Japan」が、千葉県の幕張メッセで開催されました。日本で同展示会が開催されたのは2019年11月に続いて2回目です。
「ロボット戦闘車」はまだ夢か? 海空に比べ兵器無人化進まぬ陸…の画像はこちら >>幕張メッセで開催された「DSEI Japan 2023」。65か国以上から250以上の出展者が集った(撮影:月刊PANZER編集部)。
今回の出展の傾向は、前回とは違う印象でした。目立ったのが長射程ミサイル「スタンドオフ兵器」です。昨年末に日本政府から出された、反撃能力を保有するという方針を受けたものでしょう。
そうしたなか、無人プラットフォーム関係が多いのは相変わらずなものの、前回と比べると無人航空機いわゆるドローンや無人海洋艇に比べて、無人地上車がすっかり鳴りを潜めていた印象です。
ロシアによるウクライナ侵攻においても、空ではドローンが偵察監視活動から攻撃まで盛んに使われています。地上ではロボット戦闘車が出てきてもよさそうですが、戦場ではもちろん展示会でもその気配がありません。ロボット戦闘車は簡単ではないのです。

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シリアで実戦に使われたロシア軍のロボット戦闘車「ウラン9」(画像:ロシア国防省)。
ロシアは「ウラン9」というロボット戦闘車をシリア内戦(2011年~)に持ち込んだことがあります。危険な市街戦で人間の代わりに先兵となることが期待されたものの、電波障害や不具合などの面倒を兵士が近くで見てやらなければならず、兵士のサポートどころか「お荷物」となり実用化には尚早と評価されました。
また、進行中のウクライナ侵攻において、西側製戦車に対抗する「レオパルト・ハンター」と称した、対戦車ミサイル搭載のロボット戦闘車「マーカー」を、ロシアがウクライナの前線に配備するというニュースもありました。しかし「マーカー」はもともと、基地など定点警備用のプラットフォームで、複雑な戦場で「お荷物」にならず戦闘に関与できるかは疑問です。
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アメリカ陸軍が公表している大、中、小型ロボット戦闘車の、3つのカテゴリーのイメージ図(アメリカ陸軍資料を月刊PANZER編集部にて加工)。
アメリカでは次世代戦闘車(NGCV)のいちアイテムとして、「ロボット・コンバット・ビーグル(RCV)」が開発されています。既存装甲車を使った無人戦闘車ソフトウェアの実証試験が進められており、小型のRCV-Lと中型のRCV-Mのプロトタイプが制作されていて、2023年中には「使い物」になるか否かを判定することになっています。

これらロボット戦闘車の技術は、かなりの部分が市販車の自動運転技術ともリンクしています。そして、人間にとっては飛行機を操縦するより自動車を運転する方が簡単である一方、ロボットにとっては平時の市街地だろうと戦場の荒れ地だろうと、地上を動き回る方が難しいものなのです。
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遅ればせながら日本でも本格導入が始まったドローン。航空自衛隊偵察航空隊編成完結式で展示されたRQ-4(撮影:月刊PANZER編集部)。
ロボット車の成否は、周囲状況を検知するセンサーと、制御を司るAI(人工知能)の性能に依ります。
市販車の自動運転の技術は、条件が整った一部地域に限られるものの完全自動運転を実現していますし、市販されている限定的な自動運転をすでに経験されている人もいることでしょう。しかし、完全に信頼できるという人は少ないのではないでしょうか。
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アメリカ陸軍がロボット戦闘車のソフトウェア開発のテストベットにしているM113装甲車。前部と天井にカメラが多く取り付けられている。(画像:アメリカ陸軍)。
ステアリングや速度制御のタイミングが人間の感覚と違い、不快や不安を感じることもあるでしょう。「片側2車線の道路で前を走るクルマを追い越す」という、人間のドライバーが何気なくやっていることでも、これを自動化するのはとても難しく、周囲の状況や他車の動きを読んで判断して制御するのは、人間の経験や感覚に依っているところが大きいのです。ロボット車にとって地上は、処理しなければならない情報量が多すぎます。

その問題を解決するには、AIに膨大な機械学習(ML)をさせなければなりません。能力を上げるのに学習させ、経験を積ませなければならないのは、人間と同じです。
ロボット車の場合、AIが学習するデータは、地面の状態、天気や昼夜の変化、周囲の人間や他の車両の動き、障害物の認識、信号や標識の読み取り等々、膨大になります。実車による実環境のテストを完全に省略することはできませんが、時間もコストもかかりすぎます。条件設定によって学習に数百時間かかることもあれば、窪地にハマって行動不能になり数分で終わってしまうこともあります。
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ロボット戦闘車と歩兵の作戦行動実証試験。実車と部隊が実際に行動してみるとバーチャル空間では分からない問題も明らかになる(画像:アメリカ陸軍)。
その機械学習を合理化するのが、「全領域モデリングシミュレーション(ADAMS)」と称される技術です。いわば、バーチャル空間の試験場にて膨大な条件設定をした膨大なシナリオを生成しロボット車(のAI)のテストを繰り返す、というものです。オープンアーキテクチャなので、必要に応じてソフトウェアを組み替えて、市販車の市街地走行から戦闘車の戦場での作戦行動まで幅広く学習させることができ、実際に自動車メーカーでも導入されています。アメリカ軍から戦場環境データの提供も受けているそうです。
ロボット車の開発進歩とともに、ロボット車開発のためのバーチャル試験場の開発も進歩しています。この手の開発状況は、実車プロトタイプがテストを重ねて洗練されていく過程として、リアルに形になって目に見えるものではありません。ロボット戦闘車の姿形はまだ見えてきませんが、ある日突然、完成形が登場するかもしれません。
バーチャル空間でロボット戦闘車が完成するなら、いっそ戦争もバーチャルのままで収まらないかと考えるのは、ゲームに毒された者の夢想でしょうか。