長野県警は5日、長野市長野元善町の善光寺の本堂から、触れると病気が治るとして親しまれている木製の「びんずる尊者像」が盗まれたと明らかにした。県警は窃盗事件として捜査。木像は盗難から約3時間後の午前11時ごろ、約60キロ離れた松本市内で見つかり、窃盗の疑いで、熊本県御船町の職業不詳・森本晋太郎容疑者(34)を逮捕した。
捜査関係者によると、寺関係者からの届け出を受け、所要の捜査を行ったという。不審な車の男を職務質問し、車内に木像があるのを見つけた。木像は毛布に包まれ、近くの警察署に運ばれた。破損の有無を確認している。警察は単独犯とみている。
盗まれたのは5日午前8時ごろから同8時半ごろまでの時間帯で、当番の住職が気づいた。防犯カメラに一人で運び出す様子が映っていた。寺の事務局によると、木像は高さ83センチ。正確な重さは不明だが、善光寺によると「かなり重い」という。
釈迦の弟子である十六羅漢の筆頭で「びんずるさん」と呼ばれる木像は、江戸時代の正徳3年(1713年)に本堂の外陣(げじん)に置かれた。患部と同じ箇所に触れると病が治るとされる「なで仏」として約300年間、参拝客になでられ、元の顔が分からないほどすり減っている。背中の部分などの傷みが目立つようになり、2009年に修復された。ミシュランの名所ガイドの3つ星(善光寺自体は2つ星)にも選ばれている。毎年1月6日の夜には、本堂を引き回す「びんずる廻し」という行事も行われる。
林明晋寺務総長は、「大変、信仰を集めているものですので、悲しい思いをしております」と率直な思いを口にし、木像が盗まれた時の状況について「長時間、周囲を観察していて、人員が手薄になるところを狙って一人で抱えて持って行ったようです」と説明した。
今後に関しては「これを教訓に警備や防犯体制を見直したい」とし、「触って治す信仰のあるものなので、今後も普通に触ることができるようにご安置したい」と話した。
◆善光寺 長野市長野元善町にある無宗派の単立仏教寺院。644年に創建され、十数度の大火に遭ったが、全国の信徒によって復興されてきた。本堂は、江戸時代中期を代表する仏教建築として、1953年に国宝に指定された。絶対秘仏である御本尊「一光三尊(いっこうさんぞん)阿弥陀如来」の御身代わり「前立本尊」を本堂に迎える7年に一度の「御開帳」には多くの人々が訪れる。「牛に引かれて善光寺参り」の逸話も有名。