ばぁば6人、ピザも元気もおまちどお!平均年齢78歳のおばあちゃんたちが始めた「BaBaピザ」

「トッピング用のピーマンやベーコンは、これで足りるかな?」「最近はミックスピザの注文も多いから、もっと刻んでおこうか」「あいよー!」
九十九里浜の中央に位置する千葉県山武市の蓮沼地区。浜に向かって広がる畑の前に、「BaBaピザ」という小さな店がある。
働くのは73歳から86歳までの女性たち6人。平均年齢78歳の、その店名のとおり、おばあちゃんたちが運営するピザ店だ。
営業は金・土・日曜の3日間だけ。地元で取れたハマグリやイワシ、海の水で育てた蓮沼特産の海水ねぎなどの具材を使う地産地消もウリで、平均で日に50枚ほどのピザが売れるという人気店。
3月半ばの金曜日の朝8時過ぎ。厨房では、11時の開店を前に、仕込みの真っただ中。
おそろいのえんじ色のキャップにエプロン姿で、横一列に並び、けっして作業の手は休めず、マスク越しの会話が続く。
「こないだ、骨密度を測ってもらったら、60代だってさ」「骨を丈夫に保つには、歩くことがいちばんだってよ」「うちらは、この店の中を始終歩き回ってるから平気だべ」
スタッフ6人全員が店主というコンセプトだけあって、常に和気あいあいとした雰囲気。それもあって今日は、みなさんには、いつも呼び合っている名前でご登場いただくこととなった。
ミエコさん(77)生地作り担当タカコさん(73)生地延ばし担当ヤスエさん(73)ソース担当トキさん(86)トッピング担当キョウコさん(85)焼き担当マツエさん(75)接客担当

この6人の「リレーによる」ピザ作りもまた、同店のウリの一つだ。
やがて11時のオープンを迎えると同時に、今日最初の注文が入る。キョウコさんが伝票を、大きな声で読み上げる。
「ハマグリピザ(1300円)とイワシピザ(1000円)、オーダー入りましたあ」
店の人気メニューのツートップの座は、不動のようだ。やがて店内に、チーズの焦げる香ばしいにおいが漂い始める。
「おまちどおさま」「わあ、おいしそう」
お客の笑顔に、スタッフたちもまた笑顔になる。
■店を始めてから4年間、誰一人大病知らず。腹にためず、好き勝手に言い合っているから
気づけば、ランチの時間帯も終わり、すでに午後1時半過ぎ。
「さあ、手の空いた人から、まかないにしようか」
キョウコさんの言葉を合図に、控室の長テーブルに、海水ねぎとワカメのヌタなどの昼食が並んだ。ご飯は、食べやすいおにぎりになっていた。まかない担当のタカコさんとトキさんがピザを作りながら準備していたものだ。
ようやく腰掛けることができて、ホッとひと息つく様子。よく考えれば、朝の8時から約6時間も立ちっぱなしだったことになるが、
「私は、ピザ屋の前は25年間、介護職に就いてました。肉体的にもしんどい職場でもありました。でも今、こうやって元気に働けるのは、その介護の現場で培った体力と経験があるから。だから、人生、頑張って続ければ、いつか必ず何かの役に立つんですね。
最近は、いい仲間に出会えて、この町にお嫁に来てよかったと、つくづく思うんです」

とミエコさんが言えば、ヤスエさんも、
「ここは全員がおばあさんとはいっても、73歳で最年少の私と、80代半ばのトキさんやキョウコさんとは、ひと回りも年が離れてます。その大先輩の姿を見ていて、健康に明るく生きる秘訣を学んでます。
大切なのは、自立していることと食生活。ここは、このとおりまかないも野菜中心で、手作りしたものをみんなでいただく。これ以上の健康法はないでしょう」
孫3人、ひ孫7人という最高齢86歳のトキさんは、今も“二足のわらじ”で働き続けている。
「週末をここで働いて、その間の平日の2日間、地元の病院でお掃除のアルバイト。その病院では、38歳の孫が受付をしてるんですよ。
健康法? 特にないわ(笑)。ただ、子供のころから九十九里の浜で潮水をたっぷり浴びながら遊んだことで鍛えられたのかね。
みんな、私が元気だって言うけど、よくよく考えたら、この店を始めてからの4年間、誰一人として大病して休んでいない。だって、このピザ屋には病気のもとといわれるストレスがないもの。やっぱり、腹にためずに、好き勝手に言いたいことを言い合ってるのがいいんだわ」
■ピザ店を営むことが元気の秘訣 100歳まで働くのも夢じゃない
全員が口をそろえて、「金・土・日が生活の核になっている」と話した。タカコさんは言う。
「この3日間を元気で店に出るために、みんな、ふだんから自己管理して生活してます。各自の分担も決まっている流れ作業だから、誰か一人が欠けてもダメなんです。ここでは、6人みんなが、必要とされている人なんです」

まかないを食べながら話している間も、テークアウトの注文が入ったりして、中座を余儀なくされる。接客担当のマツエさんが最後に席についたときには、2時を回っていた。
「私は蓮沼の役場で定年まで勤め上げました。退職したあと、家で腰が痛い、肩が痛いと嘆いてるより、みんなでワイワイ言いながら働けるのが、元気のもと。
あと、元役場の職員としては、地元の野菜や魚介を使っていて、地域のために少しでも恩返しをできているのも、やりがいにつながってます」
最後のお客さんを送り出したのは、閉店時間の午後3時を15分ほど過ぎたころだった。
「お疲れさまでした」
最後もみんなで声をかけ合い、着替え終わると、また自然に中央のテーブルに腰掛けて、午後のお茶の会となる。
「今日は、後半は、ちょっとヒマだったかね」「まあ、金曜はこんなもんだよ」
ようやく、くつろいだ6人の様子も撮影させてもらっていると、また記者たちにも声がかかる。
「ほら、あんたたちも、朝からの取材で疲れたでしょう。一緒にお茶飲もう」
テーブルを見れば、記者とカメラマンの分のお茶が、ホワホワと湯気を立てている。先ほどのまかないのときも、われわれの分のおにぎりまで用意されていた。この素朴で温かなもてなしの気持ちこそ、BaBaピザの隠し味なのだ。そんな感慨にふけっていると、最年長のトキさんが、
「まっ、写真もしっかり撮っておいてよ。今度取材に来たときは、私はいないかもしれないから」
すると、いっせいにほかの5人が声を上げた。
「そう言いながら、トキさんが100歳までいちばん元気に働いてるんだよ」
またまた小さなピザ店の店内に、気取らない笑い声がはじけた。
【後編】平均78歳のおばあちゃんが経営する「BaBaピザ」代表・キョウコさんが語る波乱万丈の半生へ続く