全国的に巻き爪ケアなどのフットケア専門店を経営する「在宅医療マッサージ株式会社」が、介護施設職員を対象にアンケート調査を実施(2022年12月実施、1,004人回答)。その結果に現在改めて注目が集まっています。
調査結果によると、「介護施設でフットケアは重要だと思うか」の問いに「とてもそう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計が89.6%。介護現場においてフットケアが重視されている傾向が見て取れます。
また、「勤務先の介護施設で足のトラブルに悩む利用者はどれくらいいるか」の質問に対して、「1~3割未満」が38.0%、「3~5割未満」が31.0%、「5~7割未満」が13.3%、「1割未満」が11.3%。全体としてみると1~5割ほどで、施設によってばらつきがあるのが実情です。
しかし「1割未満」との回答は1割程度にとどまっているので、ほとんどの介護施設において、足に問題を抱えている入居者が一定数いると考えられます。
フットケアとは、足の指や裏にできたタコ、ウオノメ、巻き込み爪、分厚くなった爪などの足のトラブルを、改善・予防するために行うケアのことです。具体的なケアの施術としては、皮膚が厚くなった箇所を除去すること、適切な爪切りを行うことなどが該当します。
介護施設で重要となるフットケア 利用者の足のトラブルの実情と…の画像はこちら >>
介護施設におけるフットケアのポイントとしては、大きく分けて「観察すること」「清潔に保つこと」「観察する・清潔にする、を続けること」の3点を挙げられます。
年齢を問わず、足底は毛包構造を持たないので毛が生えません。そして、汗腺が発達するという特徴を持ち、通常の皮膚よりも厚く硬くなる傾向があります。
さらに、加齢によって皮膚細胞の入れ替わり(ターンオーバー)が遅くなり、皮膚の角質が乾燥しやすくなります。そのため、高齢者ほど皮膚の表面が硬化しやすく、足のトラブルが生じやすくなるわけです。
しかも高齢者の場合、神経細胞が減少し、知覚が鈍化していくのが一般的。状態が悪化するまで放置されやすい傾向にあります。また、筋力・体力の低下により活動性が低下し、足にむくみが生じやすいです。動脈硬化によって血流以上、高血糖による神経障害などが生じていることも多く、その場合も足にトラブルを抱えやすくなります。
先の「在宅医療マッサージ」の調査結果によると、介護施設の入居者が直面している「具体的な足のトラブル・悩みの内容」としては、「巻き爪」(43.8%)「むくみ」(39.3%)「血行不良」(27.9%)などが回答として多く見られました。
高齢になると、加齢によるバランス感覚の低下、視力の低下、足の筋力低下などにより、転倒による怪我のリスクが自然と高まります。
そうした中で、もし足先にトラブルを抱えていると、足を思うように動かせず、体のバランスを少しでも崩すとそのまま転倒してしまう恐れがあります。ただでさえ高い怪我のリスクが、足にトラブルがあることでより高くなるわけです。
しかし日常的にフットケアを行うことで、足のトラブルによる転倒リスクを減らせます。転倒により大腿骨の骨折などの事態が生じると、そのまま要介護状態になる可能性が高いです。フットケアは介護予防にもつながると言えます。
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また、足にトラブルがないことで、歩行・外出意欲が高まります。体を動かす機会が増え、寝たきり予防、健康増進につながります。
さらに体重を支えて重心の変化に順応できる足の状態を維持することは、自分の足でトイレにいける能力の確保にも直結。自力でトイレに行けることは、自分への自信にもつながります。
フットケアを行ったとしても、普段の足に関する生活習慣が悪い場合、しばらくするとまた再発する恐れがあります。
例えば靴の履き方、靴の選び方、足の保温状況などが悪いと、足のトラブルが生じやすいです。また、高齢者が自分で入浴や爪切りをしている場合は、その方法が適切かどうかを見直すことも重要です。
フットケアをめぐっては、医療行為なのかそうでないのかが「グレーゾーン」となっていることもあり、以前は介護施設で積極的に取り組めない一面もありました。
しかし2017年に経済産業省が、いわゆるフットケアは医師以外の職種が行うことが可能との見解を提示。その後介護施設で積極的に導入されるようになっています。
そんな中で現在、介護業界においてフットケアを行うための専門的知識を得られる資格に注目が集まっています。看護師資格を持つ場合は、看護師だけが取得できる「皮膚・排泄ケア認定看護師」資格が取得可能。フットケアのみを専門的に学習するわけではありませんが、フットケアに力を入れている施設・病院では、この資格を取得していると活躍できます。
介護職の場合は、一般社団法人 日本フットケア・足病医学会が認定する「フットケア指導士」が有名。学習カリキュラムの中には、足・爪のケアはもちろん、リンパ浮腫や下肢循環不全への対処法など、足に関する幅広いケア手法を学べます。
ただし、フットケア指導士は受験資格として医師や看護師、理学療法士、介護福祉士、薬剤師、作業療法士、栄養士などのいずれかの国家資格を有し、かつ3年以上の実務経験が必要。介護職の場合、介護福祉士などの資格を取得している人が対象です。フットケアを介護施設で行うなら、こうした資格を取得しておくと担当できるケアの幅が広がるでしょう。
今回は介護施設におけるフットケアについて考えてきました。施設利用者が快適・健康に生活する上でフットケアは不可欠。介護職にとって、抑えておきたい重要なケアの知識・スキルの1つと言えます。