国も認めた芸術作品が「18禁アニメ」「アダルト・ビデオ」と同じ扱い? 映画の配給元が「映倫」を訴えた理由

問題作を発表し続け、1989年にエイズで亡くなった米アーティスト、ロバート・メイプルソープの長編ドキュメンタリー「メイプルソープ:その写真を見る」(フェントン・ベイリー、ランディ・バーバト監督)を巡り、映画倫理機構(映倫)の審査が不当であるとして、配給元のアップリンクが21日、映倫に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。
提起後に会見にのぞんだ原告のアップリンク浅井隆代表は、「映倫は作品を『R-18』のレイティングにするには男性ヌードにぼかしを入れろと言っています。アップリンクとしては、最高裁で表現の自由を勝ち取った写真作品および類似作品にぼかしを入れずに『R-18』のレイティングで上映させてほしいと主張しました。ぼかしを入れれば、芸術作品としての価値は100%損なわれます」と力説。映倫の審査の不当性を訴えた。
なぜ審査マークがつかないと判断されたのか浅井代表が首をかしげるのは、同作品が映倫の審査マークのつかない「区分適用外」とされた理由として、無修正の性器が写った写真集が映る場面を指摘されたことだ。この「メイプルソープ写真集」(アップリンク発行)は、同氏が2002年2月に10年にわたる法廷闘争の末、最高裁で「風俗を害すべき書籍、図画には該当しない」と認められている(最高裁平成20年(2008年)2月19日判決)。
実際に2017年3月には東京・銀座で展覧会が開催されるなど、展示公開もされている。それだけに浅井代表は、「最高裁判決により国が『風俗を害すべき書籍、図画等ではない』と認めたにも関わらず、民間団体の映倫がいまだ映画にぼかしを入れなければ審査をしないという判断は表現の自由に関して大きく後退した判断。強い憤りを感じます」と怒りを隠さない。
そのうえで「映倫に対しては、ぼかしを無修正で『R-18』とするレイティングの要求と、『審査適用外』という映倫の判断により、作品の商業映画館での上映ができないことで被った被害の賠償を請求したい」と力を込めた。
映倫の審査の仕組み映倫の審査では内容に応じ、作品が以下の4区分にレイティングされる。
・G(年齢にかかわらず誰でも鑑賞可)
・PG12(12歳以下は保護者等の助言・指導が必要)
・R15+(15歳以上が鑑賞可)
・R18+(18歳以上が鑑賞可)

今回、映倫は同作をぼかし付きの条件で「R18+」とレイティングした。だが、浅井代表は、これを不服として再審査請求(2017年10月12日)、再々審査請求(2022年2月1日)まで要請。その結果、「男性ヌードの写真15点について修正が施されない限り『区分適用外』」と判断された。
この”区分”とは、「映画館での上映は不適切」という判断で、〈児童ポルノ、わいせつな図画など非合法な素材、描写を含む作品〉〈ドラマ性、ストーリー展開などが希薄で、もっぱら著しく刺激的な性行為や残虐な暴力などの描写に終始する映像〉、いわゆる18禁アニメやアダルト・ビデオなどと同じだ。実質的に商業映画館での上映は困難となり、配給元は経済的に大きなダメージを被ることになる。
レイティングにあたり映倫は、描写の仕方やリアリズムの度合い、音楽・音響などの効果、そして時間や場所、問題描写の連続などの編集・構成を含む文脈なども含め、総合的に考慮するとしている。今回の作品では、映像内で写真集を紹介するようなシーンであり、文脈にわいせつ性はないという。
映倫審査に反対しているわけではない「2017年の展示会では、メイプルソープの作品以外の男性ヌード写真も多く展示されていました。当時から数年経ち、社会におけるわいせつと芸術の概念も変化があると思われます。
そもそも映画館は、見る人をゾーニングで限定しやすい空間でもあります。最高裁判所が認めたメイプルソープ写真の表現の自由という点において、無修正での『R‐18』レイティングをお願いします。
アップリンクは、映倫審査に反対しているわけではなく、映画を観るまで内容がわからない表現形態であるので、ガイドラインとしてのレイティングには賛成という立場です」(浅井代表)
写真集では10年をかけて“表現の自由”を勝ち取った浅井代表。映像でも、作品の芸術性を訴え、表現への「制約」に対し異を唱える。