コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻に端を発した物価高。その傾向は今も続き、2023年1月の消費者物価指数は4.2%の上昇率を示しました。
これは、第2次オイルショックの影響が続いていた1981年9月以来、41年4ヵ月ぶりの水準だといいます。
特に電気代やガス代は前年同月比で20~30%の上昇率を示し、ハンバーガーなども値上げに踏み切るなど、物価高は生活にダイレクトに響いています。
直近の2023年2月の上昇率は3.3%と抑制傾向にあるように思われますが、政府による電気料金とガス料金の負担軽減対策によって鈍化しただけで、電力会社は値上げを申請しているため、再び上昇する可能性は否めません。
日本の物価は今、高止まりの状態にあるといえるでしょう。
こうした状況を受け、政府は2022年度予算の予備費から新型コロナウイルス対策と合わせ2兆円超の物価高対策を打ち出しました。
エネルギー高に7,000億円を盛り込み、低所得世帯には一律で3万円を給付。さらに、低所得世帯の子どもには1人あたり5万円を給付する案を検討しています。
今後も継続的に支援策を打ち出す方針で、今後の対策にも注目が集まっています。
介護サービスのなかで、物価高の影響をダイレクトに受けるのではないかと危惧されているのが訪問系サービスです。
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というのも、訪問系サービスは利用者宅へ訪問する際に車両を使用することも多く、ガソリンなどにかかる経費が増大するためです。
ガソリン価格は2021年に急激に上昇し、一時期よりも落ち着いたものの、2023年3月29日時点でのレギュラーガソリン平均価格は168円と高止まりの状況が続いています。
なかでも、訪問介護はもともと経営状況が芳しくありません。独立行政法人福祉医療機構の調査によれば、全体の40.1%の事業所が赤字となっています。
そのうえ、近年の介護報酬改定により人件費も上昇しており、一人当たりの人件費は2018年度に約330万円だったものが、2021年度には約364万円にまで上昇。運営にかかるコストは上昇の一途をたどっています。
この調査はガソリンの急騰が始まる以前の調査のため、来年度には経費率が上昇すると見込まれており、赤字施設の割合がさらに増加する可能性が指摘されています。
介護事業者はサービスの提供価格が公的に定められているため、経費が増大したからといって、一般企業のように値上げをすることができません。
実際、物流事業ではガソリン価格の高止まりなどの影響で、すでに10%ほどの値上げを予定していますが、介護事業者はこうした対策をとることができません。
そこで、自民党は政府へ介護現場への追加対策を提言。これまでも全国介護事業者連盟や全国老人福祉施設協議会などの団体が陳情を寄せていましたが、今回はこれが実現するかたちとなりました。
まだ、具体的な支援策は固まっていませんが、政府は今月中にも支援の大枠を決める方針で、既存の交付金の延長・拡充なども含めて検討していく考えを示しました。
現在、各自治体でも介護事業者に対して、支援金を給付しています。
たとえば、東京都では、2023年3月末まで通所系・訪問系サービスの事業所について、車両1台あたり月額2,200円の支援を行っていました。
今後も継続されるかどうかは未定ですが、物価高が高止まりを続けている以上、介護業界から求められるのは必至です。
こうした支援事業は各市町村単位でも行っており、東京都八王子市では1事業所あたり5万円の支援を実施しています。
都道府県と市町村それぞれの支援策を活用すれば、高まる経費の抑制には一定の効果が期待されます。
ただ、全国介護事業者連盟は「自治体ごとに温度差があり、対策がきめ細かく行き届いていない」という実態を訴えています。
つまり、支援金にも地域格差が生じており、全国一律で救済できるような制度が求められているのです。
今後、自治体による支援策にも政府のテコ入れがされるかどうか注視する必要があるでしょう。
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基本的なことではありますが、事業経営で利益を増やすためには「売上を上げる」か「経費を抑える」しかありません。
ただ、先述したように介護事業者は、サービスの提供価格が決まっているので、質が高いからといって利用料金をむやみに上げることができず、利益を拡大する手段が限られています。
そのため、介護施設では、すでにさまざまなコストカット対策が取られています。よく見られるのは以下のような対策です。
こうした対策は決してムダとはいえないものの、効果が限定的で経営全体で見れば微々たるものでもあります。
実はこうしたコストカットよりも、経営改善に効果が高いといわれているのが、生産性の向上です。
従業員一人当たりの生産性が高まれば、人材不足を補うことにもなり、サービスの質が向上して利用者を呼び込む原動力にもなります。
そこにICTを上手に活用して、業務を効率化すると、長い目でみれば大幅なコストダウンにつながるとされています。
コストが膨らむ今こそ、目先の利益だけでなく、より大局を見て持続可能性を探ることが大切ではないでしょうか。