“(新型コロナの感染状況は)全国的に下げ止まり、増加の地域も多く見られる”
4月5日に厚生労働省で行われた専門家会合は、現在の感染状況をこう分析した。東京都などの大都市部では、若者を中心に感染が広がっており、今後感染者が増加する可能性もあるという。
そんななか気がかりなのが、新型コロナの「5類」移行だ。
政府は5月8日から、新型コロナの感染症法上の位置づけを現在の2類相当から季節性インフルエンザと同じ5類に移行することを決定。これに伴い、発熱外来の数を現在の約4.2万件から最大6.4万件に増やすと豪語している。
しかし、現実は異なるようだ。
「私どもの団体に加盟している医療機関にヒアリングしたところ、5類移行によって発熱外来が増える可能性は低いことが予想されています」
そう危機感を募らせるのは、全国保険医団体連合会次長の前谷かおるさん。こう続ける。
「今後、都会で増える可能性は少ないでしょう。というのも、都会は“ビル診”といって、ビルの一角で開業しているクリニックが多いため、発熱外来を設置するとほかのテナントから苦情が来るようです。また、院内が狭くて動線が分けられず、ほかの患者さんに感染のリスクが生じる恐れもあります」
動線を分けられず発熱外来を設置できないのは、ビルに限った話ではない。
「5類を見据え、今年2月から発熱外来を設置した」と話す章平クリニック(神奈川県)の院長・湯浅章平さんは、こう説明する。
「今まで発熱外来を設置できなかったのは、院内で適切に動線を分けられなかったからです。高齢患者さんを感染から守ることに気を使った結果でした。2月からはクリニックの駐車場スペースで診察しているので、患者さんにはご不便をおかけしています」
発熱外来の設置可否は、建物のつくりによって左右されてしまうため、簡単には増やせないのだ。
■10万人当たり発熱外来数が最も少ない千葉、最も多い鳥取
さらに、今後は全国的に「増えるどころか減る可能性もある」と、前谷さんは警鐘を鳴らす。
「5類移行後は、これまで保健所が担っていた入院調整も医療機関が行うことになります。業務はかなり増えるので、本来なら診療報酬を上げていただきたいところですが、実際はそうなっていません。
さまざまな公費負担がなくなるため、検査キットや防護服、マスクなどを購入するにしても医療機関の持ち出しになってしまいます」
持ちこたえられないクリニックは発熱外来をやめてしまう可能性があるのだ。
今後増えるどころか減りかねない発熱外来。実は人口あたりの外来数は、都道府県によって最大約4倍もの差がある。本誌は各県の発熱外来の設置数と人口から算出した10万人当たりの「発熱外来数ランキング」を作成した。発熱外来が少ない県は千葉県(16.24件)、沖縄県(19.89件)、埼玉県(22.04件)と続く。反対に、設置数がもっとも多いのが鳥取県(57.56件)。つまり、住んでいる地域によって「命が左右されかねない」というわけだ。
なぜ、ここまで開きが生じるのか。医療制度研究会の副理事、本田宏さんは、こう指摘する。
「医師の数は“西高東低”で西に多い傾向があります。発熱外来数が3番目に少ない埼玉は、人口10万人あたりの医師数がもっとも少なく、千葉もワースト4位。医師が少ないため、発熱外来を設置する余裕がない可能性があります」
千葉県の健康福祉課に発熱外来の数が少ない理由を問い合わせると、「千葉県は47都道府県のなかでも最下位に近いほど医療機関の数が少ない」のだという。
これまで波が来るごとに“医療崩壊”が起こっていたが、5類移行後に第9波がやってきたらどうなるのか。
「これまでも、受診できる医療機関を探すのに苦労しましたが、今後ますます、そうしたケースが増えると思います」(前谷さん)
■入院もしづらくなる可能性が大
となると、早期診断・早期治療が遅れ、とくにリスクが高い高齢者を中心に重症化する人も増えていくことが想定される。
「大きな波が来たら、正直、医療機関は持ちこたえられない。政府は、さまざまな対応を医療機関任せにして、国民に対しては〈自分で検査キットを購入して備えてください〉、陽性の場合は〈自宅で寝てなさい〉と。3年もたってこうした対応しかできないのは、非常に問題だと思います」(前谷さん)
コロナ禍になってから、いち早く発熱外来を設置した中村診療所の院長、中村洋一さんも「今後は、地域で入院できるコロナ病床も減ってしまうのでは」と危惧する。
「5類移行後はコロナ患者専用の病棟を確床する補助金が減るので、今までのようにコロナ患者と一般患者の病室を分けることがむずかしくなります。
そうなると感染対策が十分にできないので、もともとリスクの高い高齢者が多く入院している地域の中小病院は、怖くて引き受けられないでしょう。クラスターが起きたら死者が続出しかねないからです」
第8波では、過去最多の死者が出たが、今後さらに多くの人が犠牲になるおそれがあるのだ。
「感染対策をしっかりしていただくことと、普段からコロナ受診可能な、かかりつけ医を見つけておいてください」(前谷さん)
今回「発熱外来数ランキング」で上位にランクインした地域に住む人は、特に注意が必要だ。