昨年7月、東京・練馬区の路上でフィリピンパブのママを刃物で刺し殺人未遂などの罪に問われた最上守人被告(66)に、11日、東京地裁(江口和伸裁判長)で懲役12年の判決が言い渡された。
初公判は先月19日。以降、裁判員裁判で審理が進められ、同月27日の論告で検察側は懲役15年を求刑し、弁護側は懲役7年が妥当であると述べていた。
血だらけになって逃げるママを執拗に…4年ほど前から常連客としてママの店に通っていた被告人は、ある日、お気に入りのキャスト女性Aさんが他の客のにキスしているのを見て腹を立て、ママへ「Aさんを二度と店に入れないように」などのメッセージを送る。
また別の日には、ママから帰宅を促されると拳銃を模したものを口の中に入れたり、こめかみに当てたりして拒み、帰り際に看板を壊すなどの粗暴さを見せていた。
そんな中、昨年6月に被告人は「Aさんとアフターに行きたい」と申し出るも、ママに断られ逆上。ドライバーの先端が出るように握った拳をAさんの頭に振り下ろし、出血をともなうケガを負わせた。
ママとAさんは、被告人が二度と店に訪れないことを条件に警察へ届けなかったが、被告人は約2週間後に再び来店。店の外で客を見送るママに近づき、「Aはいるか」と尋ね「知らないよ」と言われると、自宅から持参した果物ナイフを取り出してママの胸や腕を次々に刺し、血だらけになって逃げるママを執拗(しつよう)に追いかけたという。
なお、ママは近くのコンビニに逃げ込み、緊急搬送・手術を経て一命を取り留めている。執刀医によれば、傷は深さ5~6センチに達するものも多かったそうだ。
留置施設でも傷害事件裁判長はママへの殺人未遂について、「非常に執拗かつ危険で悪質と言うほかない」と断罪。Aさんへの傷害についても同様であるとし、「客と従業員の関係にすぎなかったのに、自分の思い通りの対応がされないと一方的に怒りを覚えた。各犯行は身勝手と言うほかなく、動機も含めてくむべき点はなんら見当たらない」と続けた。
なお、被告人はAさんへの傷害とママに対する殺人未遂の間、営業時間外だった自宅近くの買取販売店に侵入し、スマートフォン2台(2万2858円)を窃取する事件を起こしている。さらに、ママへの殺人未遂の後に勾留された警察署内でも、同室だった男性との間で傷害事件を起こした。
被告人はこれらの罪にも問われていたが、裁判長は判決で「いずれの犯行も自己中心的で身勝手」と評価した。
裁判長「あなたのためにいろいろな人が動いてくれた」判決の主な判断要素となったのはママへの殺人未遂とAさんへの傷害だが、ふたりは公判を通して「釈放されたら何をされるかわからない」「一生刑務所から出てきてほしくない」と強い処罰感情を明らかにしていた。
裁判長は判決理由を述べた後、「被害者の処罰感情を十分にくんで判決を出したつもりだが、被害者はそれでも不十分だと思うだろうことを理解してほしい」と被告人に語りかけた。公判中、被告人は反省の言葉は述べていたものの、「被害者の立場に立ってどう感じたか」を問われた際に、答えに窮する場面があったという。
また被告人には、崩壊した家庭環境で育ち、長年にわたって暴力団に所属していた過去があり、前科も少なくないそうだ。こうした過去も踏まえてか、裁判長は被告人の目をまっすぐに見て、最後に次のように話し、閉廷した。
「これまでは自分なりの筋やルールの中で生きてきたと思うが、それはあなた独自のものであって他人に押し付けていいものではない。
(被告人は)それなりの年齢であり、これから考え方を変えることは簡単なことではないかもしれないが、ぜひ努力をしてほしい。
今回の裁判では、精神鑑定をしてくれた医師、弁護をしてくれた弁護士、更生支援計画書を作成してくれた社会福祉士など、あなたのためにいろいろな人が動いてくれた。それを忘れないで」