VC大手「ジャフコ」に出資企業4社“人権尊重”要請 元女性社員へのセクハラ・雇い止め問題「法的責任の否定」を受け

今年10月、累計で1000社以上の上場企業を輩出してきた老舗ベンチャーキャピタル・ジャフコでの、女性社員へのセクハラ・雇い止め問題が週刊文春電子版により報じられ、女性側が同月に会見。複数のメディアが報じるなど、話題となっていた。
ベンチャーキャピタル(VC)とは、ベンチャー企業への出資を行い、企業の成長によって利益を上げる投資会社や投資ファンドのこと。
女性側の代理人は11月、ジャフコが運営するファンドへの出資企業、7社に申し入れを実施。過半数からジャフコに対応を求める旨の回答があったとして、12月13日に都内で会見を開き、「こうした社会的批判をしっかりと受け止め、対応してほしい」と改めて訴えた。
加害社員は謝罪も、ジャフコ側は法的責任・雇い止め否定これまでの会見等によると、女性は入社後間もないころから、同じプロジェクトで働く男性社員AとBから夜中に何度も電話をかけられるなどしており、会社の忘年会の際には両名から襲い掛かられ、マフラーで首を絞められたうえに胸を触られたという。
ジャフコ側は女性からの申告を受け、AとBに対し出勤停止と減給の処分を下したが、女性への被害は止まらなかった。
A、Bがプロジェクトを去ったこともあり、過重労働が続いた女性。さらには、執行役員から退職勧奨を受けたという。
その際、執行役員は女性に対し、人格を否定するような発言を繰り返したうえ、賃金をそれまでの半分とする契約を提示したとのこと。
女性は最終的に契約内容を受け入れたものの、急性ストレス性胃炎を発症し、路上で倒れ休職。そのまま契約は終了となり、雇い止めにあったという。
女性から相談を受けた代理人は、A、Bに民事調停を申し立て、ジャフコに対しても安全配慮義務違反に基づく損害賠償や地位確認を求め交渉を実施。A、Bはセクハラ行為を認め謝罪し、賠償金の支払いにも応じた。
しかし、会社側は代理人弁護士を通じ、法的責任を否定。女性社員との契約を終了したことと、A、Bによるセクハラ行為は関係がなく、雇い止めではないと主張している。
出資企業7社に、ジャフコへの要請を申し入れ女性側の代理人によると、現在もジャフコ側から女性本人への連絡や謝罪はないという。
そこで、代理人は11月20日、ジャフコが運営するファンドの出資者である企業7社に対して申入書を送付。女性への賠償と謝罪を行うよう、ジャフコに対話・要請を実施することを求めた。
申し入れは、2011年に国連人権理事会で策定された「ビジネスと人権に関する指導原則」で定められている「企業の社会的責任」に基づくもので、具体的な内容は以下の3点。
①本件セクハラ事件について、被害者への謝罪と賠償を含む救済措置を図ること
②ジャフコが投資する起業家及びジャフコが雇用する労働者に対するセクハラが起きないような環境を作ること
③ジャフコにおいて、セクハラ事件が起こったときにセカンド・ハラスメントの発生や被害拡大を防ぎ、被害の回復がなされるような仕組みや機関の設置、ハラスメント加害者データベースなどによって再発防止策が講じられるようなシステムの構築に取り組むこと
過半数がジャフコ側に要請「歓迎すべき」代理人の指宿(いぶすき)昭一弁護士によると、7社中6社から文書にて回答があり、残りの1社からも口頭でコメントがあったという。
「7社中、政府系の日本政策投資銀行を含む2社からは『回答を差し控える』との返事がありました。また、1社は電話で『何かを申し述べる立場ではない』とコメントしています。
もしかしたら回答はしないものの、実は要請している、ということもあり得るかもしれませんが、政府系の銀行が回答を控えたというのは残念ですし、態度に疑問を感じます。
しかし、4社からは『人権を尊重した事業活動の推進を申し入れた』『可能な限り早期かつ円満な解決が図れることを望む』といった、ジャフコに対する要請を実施した旨の回答がありました。
7社中4社、つまり過半数からこうした回答が返ってきたことは、私の予想を良い意味で超えるもので、歓迎すべきだと思います。
やはり、人権侵害の当該企業でなくても、投資やサプライチェーンなどの形で自らが影響を及ぼしている範囲の中で、そうした人権問題が起こった場合には対応しなければならない、という風潮が企業側で広まりつつあると感じました。
また、対応しなかった場合に、そのことが報じられたり、SNSで拡散されたりすることによるレピュテーションリスクも、企業にとって大きな問題となっているのだと思います。
ジャフコもこのことを受け止め、セクハラ加害者を雇用し、またそれを止められなかった企業の立場として謝罪、賠償してほしいです。退職勧奨と賃金の減額、そして雇い止めといったセカンドハラスメントについても、被害女性へ適切な対応をしていただきたいと思います」(指宿弁護士)
代理人の髙橋済弁護士も「日本社会・日本人の意識がかなり変わっているのを感じた」として、次のようにコメントした。
「7社の中には『何か申し述べる立場ではない』という、ある種の“伝統的”な回答をする会社もありましたが、それでも4社がジャフコに対する要請を出してくれたのは、『ビジネスと人権』の考え方が浸透しはじめているからではないでしょうか」(髙橋弁護士)
「ジャフコによる誠実な対応を待ちたい」なお、会見では参加した記者から「女性側から、ジャフコに対して訴訟を起こすことは考えていないのか」と聞かれる場面もあった。
この質問に対し、指宿弁護士は以下のように回答。慎重な姿勢を示した。
「被害者は今もなお、働くことはできておらず、精神的なダメージも引きずっています。
訴訟にはお金も時間もかかるうえに、セクハラや退職勧奨の立証ができなければ、裁判に勝てないというリスクもあります。
そういう人が『訴訟を起こさなければ救済されない』のはおかしいのではないか、というのがわれわれの考え方です。
場合によっては、最終的に訴訟を起こすしかないかもしれませんが、現時点ではジャフコが誠実に対応するのを待ちたいと思います」(指宿弁護士)