中央線「昭和グルメ」を巡る 第179回 吉祥寺通り沿いにある老舗のうどん屋さん「三州うどん」(三鷹)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、吉祥寺のうどん屋さん「三州うどん」をご紹介。

吉祥寺駅を南北に貫く「吉祥寺通り」をひたすら南へ。すなわち吉祥寺駅を背にそのまま進むと、やがて「三鷹市狐久保」交差点のやや手前左側に、堂々とした佇まいのお店が現れます。

それが、今回のお目当てである「三州うどん」。

吉祥寺から歩いたら10分以上あるので、なかなかの距離ではあります。でも散歩がてら、景色を楽しみながらゆっくり歩いてみるのもひとつの手かもしれませんね。それが面倒なら、吉祥寺駅前からバスに乗り、「下連雀」というバス停を降りればすぐ目の前です。

吉祥寺駅と三鷹駅、そしてこのお店を線で結ぶと、やや三鷹に寄った三角形になるような感じ。吉祥寺駅からバスが出ているとはいえ住所は三鷹市ですし、いずれにしても便利なロケーションではないかもしれません。

でも非常に存在感のある建物であるだけに、吉祥寺、三鷹近辺の居住者には知られているお店でもあります。

店内に足を踏み入れるとすぐ目の前に大きなテーブル席が、その左側と手前右側に座敷席があります。

さらに右側の中央部分には4人がけのテーブル席がいくつも並んでいて、その奥が厨房。

ところで、このお店にはちょっとした歴史があるんですよ。

三河国長篠城(現在の愛知県新庄市長篠)をめぐり、甲斐の武田勝頼の軍勢と織田信長・徳川家康連合軍が戦ったのは天正3年のこと。その際、家康が食べたのが、長篠に古くから伝わる「三州うどん」だったのだというのです。

だから厨房の手前に、「豪傑うどん」「戦陣そば」などものものしい文字が書かれたのれんが並んでいるわけですね。

いずれにしても、ここでいただけるうどんは、そんな伝統を踏襲したものだということ。とはいえ、必要以上に古くからのしきたりに縛られているわけではなさそうです。

メニューに「現代風にアレンジ」と書かれているとことから推測できるように、より食べやすくなっているのです。

しかもラインナップを確認してみれば、うどん、そばと並んでカレーライスやラーメン、はてはハンバーグ定食なども用意されています。

つまり基本的には、”地域に根差したうどん屋さん”としての在り方を大切にしているのでしょう。

なるほど、14時近くになっても客足が途絶えないのも充分に理解できます。

ちなみにこの日、ここにお邪魔しようと思ったのは、ちょっと暑い日だったから。要するに冷たいうどんをいただきたかったわけで、数あるメニューのなかからシンプルな「ざるうどん」をチョイスしたのでした。

待っている間に店内を見渡すと、まず気がつくのは客層の広さです。近隣に勤めているのであろうサラリーマンからお年寄り、大学生風の子たちまでとても広範。伝統があるとはいえ気軽に利用しやすい雰囲気ではあるので、人気の高さがわかる気がします。

店内ではラジオの演歌番組が流れていて、店内を軽やかに動いているおばあさんが厨房に向かって「いい歌が流れてるよ」なんて話しているのが聞こえます。そんなゆるさも、またいい感じ。

ほどなく届いたざるうどんは、当然のことながら非常にシンプル。そうそう、無駄なものはない、こういうやつを求めていたんですよ。

三河のうどんは、ほどよくコシがあり、ちょうどいい硬さ。ツルツルと喉越しも心地よく、とても食べやすい。

僕は基本的に、武蔵野うどんのようにハードなうどんが好みではあるのですが、これはこれでしっかり満足できます。

だから、これにしてよかったなと感じたのですけれど、でも、ちょっと気になったこともあったんですよね。

あとから入ってきたお客さんが、席につくと同時になんの迷いもなく「カレーライス」と頼んでいたんですよ。で、たまたま近くに座ったその人の目の前に現れたカレーライスが、非常においしそうだったんですよねー。

いままで、この店でカレーを食べようと思ったことはなかったのだけれど、もしかしたら人気メニューのひとつなのかも。慣れた様子で食べ進める姿をはた目に、「次は、カレーライスもありかもな」と感じたのでした。

●三州うどん
住所: 東京都三鷹市下連雀1-9-21
営業時間: 11:00~20:00
定休日: 土曜

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら