2023年3月、野球のWBC(World Baseball Classic)で、見事優勝した侍ジャパン。選手たちの活躍に刺激を受けて、白球を追う高校球児たちにも熱が入ります。その傍らで、無くてはならない存在が、試合をジャッジする審判員です。
そんな名勝負に欠かせない高校野球の審判員を巡り、いま大きな問題が起きています。選手はいる、会場もあるのに、試合ができない?深刻な人材不足が起きている審判員の実情を取材しました。
選手はいるし会場もある…それなのに野球の試合が出来ない?実は…の画像はこちら >>
2023年3月12日、三重県四日市市の高校に集まった2校の野球部員たち。しかし、この日の主役は彼ら選手ではなく、約40人の審判員です。グラウンドに響き渡る「ストライク」「ボール」そして「ホームラン」の声。三重県高野連が審判員のスキルアップを目的に開いた講習会です。
(三重県高校野球連盟・堤長功審判部長)「ランナーが一塁につくので、ダブルプレーの練習をします」審判員には、際どいプレーの見極めと瞬時の判断が求められます。日本中が熱狂したWBCも、堤さんは、審判独自の目線で見ていました。
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(三重県高校野球連盟・堤長功審判部長)「注目されているのはヌートバー選手と大谷選手ぐらいかもしれませんが、『審判はどうやっているんだろう』とか『かっこいいな、一度どこかでやってみようかな』とか、そんなところばかり見ているんですよ」審判員は試合を支える陰の主役ともいえますが、深刻な現状が。
(三重県野球協議会・伊藤安常任理事)「やり手がおらんのですよ。『審判なんかよくやっているな』と言う野球経験者も多い」
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野球人口そのものが減ったこともあり、ピーク時は三重県に80人ほどいた審判員も3分の2の約50人に。審判員が減ったことで、試合運営にも問題が出ています。
(三重県高校野球連盟・栗谷佳宏理事長)「支障が実際問題、去年は出て。球場はあって両チーム試合ができるが、審判がいなくて(秋の県大会の)日程を変更した」
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試合の際は交通費と数千円の手当が出ますが、数万円する防具などは自前。さらに審判員の大半が、平日に仕事を抱えています。
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審判歴20年の三重県高校野球連盟・辻健太郎審判員もそのひとり。平日は松阪市の施設で、引きこもりや認知症など悩みを抱える人を支援する社会福祉士として働いています。そんな中でも、土日は練習試合の審判員として、年間100試合以上をこなしています。
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もともと、野球経験はなかったという辻さんは、20年前にたまたま目にした夏の甲子園に魅了されて、審判の世界に入りました。
(三重県高校野球連盟・辻健太郎審判員)「捕手の後ろで全部見渡せて、一番間近で見られるので。その一体感というか、なかなか職場では味わえない緊張や感動」日々の業務が大変な中で、高校生の青春のために頑張っています。
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そんな中、選手から審判を目指す人もいます。この春から大学生になった仲村隆ノ輔さんです。高校時代はピッチャーとして甲子園を目指していましたが、去年夏の県大会では初戦で強豪校に敗退。大学でも野球を続けるつもりでしたが、肩の故障で全力投球ができなくなりました。
(仲村隆ノ輔審判員)「他の人たちが全力で野球しているのを見て、自分はあまりできないというか、もどかしさはあります」
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どうしても野球をあきらめきれず、審判を志し、高野連の講習会に参加。2023年3月、正式に審判員になりました。人手不足のため、3日後には練習試合でデビューです。先輩審判員の指導にも熱がこもります。
(審判歴3年)「高齢の審判が増えてくるのは仕方ないですが、若い世代に審判に興味を持ってもらえるのはうれしい」
審判として試合に参加して、選手の頃に果たせなかった夢を、叶えたいという仲村さん。
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(仲村隆ノ輔審判員)「まだその土俵には立てないと思うが、数を重ねて、おいおいは甲子園へ目指せられるといいと思っています」
高校球児の全力プレーを支える審判。ここでも人手不足は深刻ですが、新たな担い手の登場に期待は高まります。CBCテレビ「チャント!」4月12日放送より