全長50m 超なが~いトラック「ロード・トレイン」運転してみた 果たして曲がれるのコレ…?

日本の約20倍もの広さがあるオーストラリアで物流を担っているのが「ロード・トレイン」です。全長50m超の特大トレーラーを運転することができたので、その様子をリポートします。
世界第6位の国土面積を持つオーストラリアは、日本と比べて約20倍もの広さがありながら、内陸部の大部分が砂漠や乾燥した草地であることから、鉄道は沿岸部のごく限られた場所にしか敷設されていません。
そのような荒野地帯で多用されているのが、「ロード・トレイン」と呼ばれるモンスター級のトレーラーです。オーストラリアの内陸部に点在する町や集落は、道路が唯一の交通インフラになっていることが多いため、それら遠隔地では、この全長50mにもなる「ロード・トレイン」が物資輸送の要を担っています。
全長50m 超なが~いトラック「ロード・トレイン」運転してみ…の画像はこちら >>ライアン氏が以前乗っていたケンワース社のボンネットタイプのトラクター。デザインやマニュアルシフトは個人的に好きだと言っていたが、現在はボルボの車両を使っているという(布留川 司撮影)。
今回、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は、オーストラリアで「ロード・トレイン」を運転することができました。そこで「ロード・トレイン」を走らせた感想とともに、ドライバーから聞いたリアルな声をお伝えします。
筆者を迎え入れてくれたのは、北部準州(ノーザンテリトリー)の州都ダーウィンにある「ロード・トレイン」のドライビングスクール「クーラウル・トレーニング&アセッシング」(KULLARU TRAINING & ASSESSING、以下クーラウル社)です。ここでは業務ドライバーの育成以外にも、一般観光客向けに「ロード・トレイン」の同乗や運転を体験させる観光アクティビティー「ロード・トレイン・エクスペリエンス」も提供しており、そこでインストラクターとして働くライアン氏に話を聞きました。

「ロード・トレイン」の体験運転は公道ではなく、ダーウィン郊外の空き地で行われます。クーラウル社からその場所までは、ライアン氏が「ロード・トレイン」を運転し、筆者は助手席に乗って現役ドライバーのドライビングテクニックを観察することにしました。
町中での「ロード・トレイン」の走行は、ひとことで言えば「ゆっくり」です。ライアン氏が言うには「どんな動作をするにしてもゆっくり慎重に行うのが基本」だそう。その理由は「車体が大きいから事故が起きれば大惨事になるし、そのときは自分だけでなく多くの人を巻き込むことになるから」とのことでした。
コーナリングなどは意外とスムーズに曲がります。その理由は各セミトレーラーの接続部分に設けられた「カプラー」と呼ばれる連結器にあります。これが指の関節のように車体を曲げることで、回転半径を想像以上に小さくしているのです。
加えて、オーストラリアの道路では交差点がラウンドアバウト(環状交差点)になっているため、右左折でもタイトな旋回の必要がないのも大きいと言えるでしょう。ただ、それでも大きなロード・トレインの場合は、ラウンドアバウト内の2つある車線双方を跨いで通行する必要がありました。
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車体が長いため、Uターンすると車体の最後尾が真横に来る。蛇が自分の尻尾を見るときはこのような感覚なのだろうか?(布留川 司撮影)。
ただ、都市部を出ると直線の道が基本となるため、そこでは最高速度100km/hにまでスピードを上げるといいます。場合によっては「ロード・トレイン」が強力な風圧を生じさせるため、対向車はそれに煽られないように注意する必要があるそうです。

体験運転は幹線道路脇にある未舗装地で行いました。もともとは、第2次世界大戦中にオーストラリア軍が戦闘機の滑走路として整備した場所で、今は数百メートル続く直線のダートロードとなっています。ここで直線走行とUターンを繰り返しました。
結論から言えば、運転自体は非常に簡単でした。ハンドルを握ったのは、ボルボ製のFH16トラクター(トレーラー・ヘッド)でしたが、優秀なオートマチック・トランスミッション(全自動変速機)が装備されており、重量物を牽引した状態でも発進と加速は非常にスムーズ。Uターン時でもパワステが効いているのでハンドリングも軽かったです。
ただ、これは「ロード・トレイン」に限らず、最近の大型トラックにおいて共通したことで、車体の性能が向上し運転自体は優しくなっています。ライアン氏も、過去にはケンワース社のマニュアル・トランスミッション(手動変速)のトラックに乗っていたそうですが、「あれこそ“本当のトラック”という感じがして今でも大好きだけど、仕事で乗るなら圧倒的に楽なこのボルボになるね」と言っていました。
しかし、簡単なのはあくまでも操作だけです。「ロード・トレイン」という巨大な車両を、他の車や障害物がある一般道で安全に運行させるには、相応の経験と技術が必須となります。筆者が体験運転で旋回しているときも、後方の牽引するセミトレーラーが気になって、サイドミラーでそればかりを見ていることをライアン氏に指摘されたほど。「ここでは問題ないけど、公道だったら前も見ないとね」と釘を刺されました。

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今回の取材に協力してくれたクーラウル社のライアン氏。体験運転以外にも教習学校の教官も務めている(布留川 司撮影)。
安全な環境だったからこそ、筆者は自由に運転することができましたが、あのような巨大車両を一般道で安全に走らせる自信は、最後まで持つことはできませんでした。
筆者が「ロード・トレイン」の存在を初めて知ったのは、数十年前のテレビ番組がきっかけです。インターネットがない時代は、海外の文化やカルチャーを紹介する番組が数多くあり、そのなかでオーストラリアを代表する存在として、この大型トレーラーが取り上げられていました。
「大きい乗りもの」というのは、それだけで人を引きつける不思議な魅力があります。筆者もそのような理由で「ロード・トレイン」に興味を持つことになった経緯があるため、その実物に今回、触れて運転できたことは感慨深かったです。
なお、今回の運転では「ロード・トレイン」だからこそといえる出来事がひとつありました。それは、Uターンしたときに、自分の車両の最後尾が後ろではなく運転席の真横に来ていたことです。3両のセミトレーラーを牽引しているので、急旋回すればこのような形になってしまうワケですが、蛇がとぐろを巻くようにセミトレーラーが連なり、それが自分のアクセル操作に合わせて動く様は「何か巨大な物を動かしている」という妙な快感を覚えたのは鮮明に覚えています。 もし、「ロード・トレイン」を実際に運転してみたいと思った方がいたら、「ロード・トレイン・エクスペリエンス」のWEBサイトを参照してみることをオススメします。