【森永卓郎の本音】 貿易赤字過去最大21兆7285億円

財務省の発表で、昨年度の貿易収支が21兆7285億円の赤字となった。赤字幅は過去最大で、前年度の4倍近くにまで膨らんだ。日本経済の先行きに暗雲が立ち込めるような数字だが、いますぐ日本経済が転落するような状態ではない。サービス収支や所得収支を加えた経常収支は黒字が続いているからだ。
昨年度の経常収支はまだ発表されていないが、昨年4月から今年3月までの11か月の累計で、経常収支は7兆8980億円の黒字となっているから、黒字は揺るがないだろう。ただ、“世界の高利貸し”としての地位を継続することが難しいことは、大英帝国の転落が証明している。貿易収支を均衡させておくことは重要なのだ。
方法はいくつもある。まずは国内の製造基盤を守ることだ。日銀短観で製造業の景況感は5期連続で悪化している。原材料高が原因だ。5月からはコロナ禍で行われたゼロゼロ融資の有利子化が始まる。このまま行ったら、日本の製造基盤がますます弱ってしまう。製造業が難局を切り抜けるための支援が今すぐにでも必要なのだ。
そして、輸入面ではエネルギーと農産物の国産化を急ぐことだ。例えば、太陽光発電だ。日本の住宅の屋根は9割が空いている。屋根に設置するのであれば、メガソーラーのような環境破壊の心配はない。日本の家庭が電力を自給できるようになれば、その分だけ、化石燃料の輸入を減らすことができる。
そして、農産物の国産化も推進すべきだ。現在38%の日本の食料自給率は、1960年度には79%もあった。ほぼ国産のコメの物価上昇率がほぼゼロであることを考えれば、国産化の推進は物価高対策にもなるし、食料安全保障にもつながる。経常収支が赤字転落する前に、いますぐ手を打つべきだ。(経済アナリスト・森永卓郎)