裏金の温床は「政治資金パーティー」だけじゃない? 「政治資金規正法」改正も看過できない “抜け道”の問題点

2022年11月に発覚した自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる「裏金」問題は、政治資金パーティーの収入の一部を政治資金収支報告書に記載していなかったというものだった。派閥が所属議員にパーティー券の「販売ノルマ」を課し、ノルマを越えた分の「売り上げ」を議員に「キックバック」し、それを議員側が「裏金」にするなどの実態が明らかになった。
この事件を契機として、自民党では派閥が名目上「解散」し、裏金議員の「処分」も行われた。また、国会議員(現職・元職)、秘書、派閥の会計責任者の合計11人が起訴された。さらに国会では政治資金パーティーのパーティー券の購入者の公開基準額が「20万円超」から「5万円超」へと引き下げられるなどの規制政治資金規正法の「改正」も行われた。
しかし、「政治資金オンブズマン」代表として一連の裏金事件に関する調査、刑事告発等の活動を行ってきた神戸学院大学法学部の上脇博之教授(憲法学)は、「抜け穴だらけの『改革』でごまかされ、政治責任が問われることのないままうやむやになってしまう」と危機感を表明する。本連載では、政治資金規正法「改正」により解消されずに残された問題点を中心に、「政治とカネ」の問題について上脇氏が解説する。第1回は「裏金づくり」の「抜け道」となっている「政党から政治家個人への寄付」の実態を取り上げる。(全5回)
※この記事は上脇博之氏の著書『検証 政治とカネ』(岩波書店)から一部抜粋し、再構成しています。
政治資金規正法が改正されても「裏金づくり」の“抜け道”は健在裏金の温床は「政治資金パーティー」だけじゃない? 「政治資金…の画像はこちら >>
永田町の自民党本部(yu_photo/PIXTA)

政治資金パーティーだけでなく、政治資金規正法には看過できない「抜け道」がもう一つあります。それが、「政党から政治家個人への寄付」です。この手法によって、実質的な「裏金」を合法的につくることが可能になってしまっています。
政治資金規正法が収支の透明化を求めているのは、あくまでも「政治団体」に対してです。政治家が個人として誰とどんなお金のやり取りをしようと、その収支を報告する制度は、選挙運動費用収支報告書以外には一切存在しません。
なぜなら、政治資金規正法では「政治家は個人では政治活動のための財布を持たない」という前提になっているからです。
政治資金規正法21条の1は第1項で「何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く)に関して寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く)をしてはならない」と定めています。
「公職の候補者」とは、国会議員、地方議員、地方自治体の首長やその候補者のことを指します。
この条文によって、個人も企業などの団体も、寄付をできる対象は政党や政治団体に限定されていて、政治家個人の政治活動のために寄付をすることは禁止されています。
「2024年改正」で“温存”された政治資金規正法の「抜け道」ところが、この21条の2は、第2項でこんな例外規定を設けています。
「前項の規定は、政党がする寄附については、適用しない」
この項によって、寄付者が政党の場合だけは、政治家個人への寄付が許容されています。ここで言う政党とは、本部、支部の両方を含みます。
この条項を考えた人はよほどずる賢かったのだと思いますが、たった一行のこの規定が、政治資金規正法に大きな「抜け道」をつくってしまっています。
直近の政治資金規正法改正でも、この規定は削除されず、温存されています。
重要なことなので繰り返しますが、政治資金規正法が収支について収支報告書への記載を求める対象は、あくまで政治団体です。つまり、政治家個人の収支は、収支報告が制度化されていないので、収支報告書そのものがないのです。
ですから、政治家が政党からどれだけお金を受け取っても、どんなに巨額の支出をしても、市民はチェックできませんので、事実上のブラックボックスになってしまっているのです。
毎年、合計10億~20億円が「使途一切不明」この仕組みを一番巧妙に使っているのが、政治資金を一番持っている自民党です。自民党本部は「組織活動費」「政策活動費」といった名目で、近年では幹事長ら10~20人ほどの幹部に巨額のお金を寄付しています(ただし、自民党は、これは寄付ではない支出であると説明しています)。
金額は2011年以降についてまとめた一覧の通りですが、歴代の幹事長は毎年数億円を受け取っていますし、選対委員長や党総裁、経理局長などに渡されている場合もあります。また、国政選挙が行われる年には金額が多くなる傾向があるようです。
2016年から2021年まで5年以上にわたって自民党幹事長を務めた二階俊博氏は、2017年と2019年、一人で一度に10億円を上回るお金を受け取っており、幹事長が持つ権勢の大きさが推し量れます。合計すると毎年10億円から20億円もの大金が、自民党所属の国会議員たちに支払われているわけです(【図表1】参照)。

【図表1】自民党本部の「政策活動費」名目での幹事長らへの支出額と受領議員数(2011年~2022年)

これらのお金は、いったい何に使われたのでしょうか。
これだけ多額の寄付ですから、本来ならば各国会議員の指定した資金管理団体で受け取ったことにして収支報告書に記載すべきなのですが、そのような運用は行われていません。
議員個人の収支報告制度はありませんから、使途は一切不明です。個人で使ったのか、他の政治家に渡したのか、あるいは貯め込んでいるのかもわかりません。
しかも、全額を政治活動に使ったということにすれば必要経費とみなされ、所得税などの税金もかかりません。
いわば、事実上の裏金づくりが合法的にできる仕組みになってしまっているのです。
刑事告発したが…東京地検特捜部が「不起訴」にした理由実は私は、この問題をかつて東京地検特捜部に刑事告発したことがあります。
少し詳しく紹介しましょう。「株主オンブズマン」が自民党本部の「組織活動費」の支出を調査したところ、1998年に「組織活動費」約70億1387万円のうち58億5070万円を各国会議員に対し支出していました。
合計額で大口の受取人を紹介すると、加藤紘一議員に45回計9億3710万円、森喜朗議員に23回計4億1210万円、橋本龍太郎議員に11回計1億3200万円が支出されていました。しかし、それ以上の報告はなく、高額な「組織活動費」が具体的に何に使われたのかまったく不明のままでした。
1999年も、「組織活動費」約62億5641万円のうち48億470万円が各国会議員に対し支出されていたのですが、まったく同様に具体的な支出は不明でした。
そこで、「株主オンブズマン」は、2000年9月に自民党本部と「組織活動費」を受け取っていた各国会議員(294名)に対し公開質問状を出しました。
これに対し、党本部からは「組織活動費は、党役員・党所属議員に目的を定めて支給されており、政策立案及び政策普及のための情報収集・調査分析、党組織拡大のためのPR活動等の政治活動に使われています」との回答を受けましたが、国会議員からは回答がありませんでした。
これを受け、翌2001年2月に、私も告発人に参加して、当時の自民党幹事長で会計責任者だった森喜朗衆議院議員を、最終的な支出先を記載していないとして政治資金規正法違反容疑で刑事告発したのです。
しかし、東京地検特捜部は「嫌疑なし」で不起訴にしました。検察は、政治家個人と資金管理団体などの政治団体は「別人格」であると判断したのだと思います。「個人で受け取ったものを必ず資金管理団体に入れて報告しろとなると、寄付の強制になるから無理だ」ということなのでしょう。
刑事告発の結果、「寄付者」も「金額」も減ったが1998年~2004年について調査したところ、自民党本部が「組織活動費」「政策活動費」名目で幹事長ら国会議員に寄付していた金額は、前述の2011年以降よりももっと高額で、たとえば2000年は85億円もあり(【図表2】参照)、また、受領していた国会議員も前述したように同年は294名もいたのです。

【図表2】自民党の「組織活動費」「政策活動費」名目の支出(1998年~2004 年)

不起訴になったとはいえ、刑事告発したことの影響でしょうか、その後自民党本部は、寄付者を20名程度まで絞り込み、金額も減らしたのです。
とはいえ、不起訴になったことで、結果的に、欠陥のある制度が温存されることになってしまいました。
以上のような合法的な裏金づくりは自民党本部に見られるばかりではありません。都道府県支部連合会などの各支部でも、「組織活動費」や「政策活動費」のほか、単なる「活動費」名目で地方議員らに寄付をしている支部が多数あるのです。
北海道から沖縄まで、「裏金」が全国に蔓延しているといっても過言ではない状態が続いてきました。
党本部による「政治家個人への寄付」が「派閥の裏金づくり」を誘発?

神戸学院大学法学部教授 上脇博之氏(本人提供)

こうした一連の仕組みから連想されるのが、今回明るみに出た、「自民党派閥の政治資金パーティーを使った裏金づくり」です。
「キックバック」という形でしたが、政治家個人に対して、自由に使える「裏金」のようなお金を組織が配るという点では、「政策活動費」のシステムによく似ています。
推察するに、『党本部がこんなに美味しいことをやっているんだから、自分たちも派閥として集めたお金を所属議員に分配する仕組みが欲しい』と思ったのではないでしょうか。
実際、キックバックを受け取ったとして逮捕・起訴された池田佳隆元文科副大臣の事務所は捜査に対し、「政策活動費」と認識していて政治資金収支報告書への記載は不要だと思っていた、と説明したといいます。やはり、派閥が党本部と似たような仕組みで「裏金」をつくろうとしていたことが推測されます。
もともと、自民党の派閥には6月に「氷代」、12月に「餅代」と呼ばれるお金を所属議員に配る慣習があり、2024年に自民党本部が廃止を打ち出すまで続いていました。
「お中元」や「お歳暮」のような儀礼的なものと説明されることもありますが、1回に配られる額の相場は100万円から400万円と言われていて、庶民感覚からすれば過剰すぎるほどの大金です。
多くの場合、「氷代」「餅代」は裏金ではなく、政治資金収支報告書上は派閥の政治団体から各国会議員の政治団体への寄付として記載されていますが、過去には森派(後の安倍派)で不記載が指摘されて問題になったこともありました。
「合法的な裏金づくり」をやめさせるにはこのように、派閥から所属議員に「氷代」「餅代」としてお金を配る仕組みはすでに存在しているにもかかわらず、さらに「裏金」という形で金銭を求めたのが、今回明るみに出たパーティー券問題と言えるわけで、政界にはびこる腐敗の根深さを実感させられます。
自民党による前述の「合法的な裏金づくり」をやめさせるにはどうしたらよいのか。これについての答えはシンプルで、政党から政治家個人に寄付ができるという例外を認めた政治資金規正法21条の2第2項を削除する法律改正をすればいいのです。
政党から政治家個人への寄付を禁止し、政党が政治家に寄付する場合はすべてその政治家の資金管理団体に寄付して収支報告書に記載しなければならないことにすれば、少なくともお金の流れを透明化することができるはずです。