共産党“カジュアル除名”訴訟、元党員側が意見陳述「裁判所に踏み込んだ判断を」

作家・漫画評論家の神谷貴行氏が、自身を除籍・解雇した共産党と同党の福岡県委員会に対し、地位の確認と損害賠償を求めている裁判で20日、第1回口頭弁論が東京地裁で開かれた。
「『結社の自由があるから』と許してしまってよいのか」神谷氏は1988年に共産党に入党。2006年からは同党の職員として勤務しつつ、共産党福岡市議団の事務局長などを歴任し、2018年には共産党の推薦候補として、福岡市長選にも立候補していた。
そんな神谷氏だが、2023年2月に同じく元共産党員の松竹信幸氏が、自身の出版した書籍が原因で党から除名処分を受けたことを受け、福岡県委員会の総会で、松竹氏の処分見直しを提案。
これが否決されたことから、神谷氏は自身のブログ記事で総会の内容を公開し、決定に従うことをあわせて記載した。
しかし、県委員会はこの記事の内容が、党規約に違反していると断定し、記事の削除を繰り返し要求。
その間、神谷氏を「重大な規約違反を行った撹乱(かくらん)者の松竹氏の同調者」とする報告が党内の会議で連続して行われたという。
これらの動きに対し、神谷氏は、「公式に規約違反と認定された場合には、記事を削除する」と表明しつつ、自己批判の強要をやめることなどを訴えていたが、県委員会は2024年8月に神谷氏の除籍を決定。除籍処分に連動する形で、党職員としての仕事も解雇となったという。
この一連の流れについて、この日会見を開いた代理人の平裕介弁護士は「国の政策に関わる政党がこのようなことをやってよいのか」と訴えた。
「除名とは本来、重たい手続きを経て規約違反をしっかりと認定し、そのうえで党籍をはく奪するものです。
それをあえてせず、しかも神谷氏の場合は、規約違反が認定されることもなく、本来は別の趣旨で使われるべき除籍(※)という処分を使用した、“カジュアル除名”という措置がとられました。
たしかに、政党には結社の自由があります。
しかし、先述した程度の、非常に抑制的な表現の自由を行使しただけの人から、地位や給料、職業といったすべてを奪うようなことまでも、『結社の自由があるから』と許してしまってよいのでしょうか」(平弁護士)
※党規約11条は除籍要件について「党員の資格(18歳以上の日本国民で、党の綱領と規約を認める人(4条))を明白に失った党員、あるいはいちじるしく反社会的な行為によって、党への信頼をそこなった党員」と規定している
パワハラ被害も争点「暴力こそなかったが…」裁判では、上述した除籍と解雇に加えて、パワハラによる被害も争点となっている。
ブログの公開後、県委員会側は、神谷氏が党規約に違反する行為におよんだとして調査を開始。代理人らによると、このとき、神谷氏1人に対して県委員会側は5人、11人と複数人で記事の削除や自己批判を行うよう求めてきたという。
これらの調査について、平弁護士は「党の規約では、自己批判の強要は禁じられている」と主張。
「暴力こそありませんでしたが、パワハラの要件を満たすような調査が行われていたと言わざるを得ません。神谷さんは追い込まれ、2度の休職を余儀なくされました」(平弁護士)
「調査で党が脅しの“常套句”使用」今回の口頭弁論では、平弁護士と神谷氏による意見陳述が行われたという。
神谷氏は「この裁判は、3つのことを問題視したものだ」として、次のようにコメントした。
「まず1点目は、自分にとって生活の糧であり、誇りでもある地位や仕事が一気に奪われたことです。
2点目は、5対1や11対1で行われた調査についてです。
平弁護士も指摘したとおり、党の規約では、党と意見が違ったとしても、自分の意見を持ったまま、その意見を保留・留保しても問題ないと記されています(党規約5条5号参照)。
それにもかかわらず、調査では繰り返し自己批判するよう強要され、『自己批判をしなければ、党員としての資格を問われる』と、言われました。
この言葉は過去に、とある『赤旗』の記者に対してなげかけられたものとまったく同じで、党内では“常套句”となっています。その記者は、後に私と同じように党から排除されていますから、同じ言葉が使われることは私からすれば脅しです。
それが調査の場で出てくるというのは、パワハラではないのでしょうか。
そして3点目は、除籍と除名の違いについてです。党内では、私が規約違反をしたから除籍されてしまったと理解している人が多くいます。
しかし、除籍はもともと、党費の未納など共産党員になる資格がない場合に、それを消すという機械的な処分です。
誰かが規約に違反した場合、本来はさまざまな手続きを経て除名処分が決められるべきであるのにもかかわらず、今回、共産党側はそれを回避し、簡単な方法で私を組織から追い出したという点も、裁判官の皆さんには理解してほしいと思います」
「自浄作用が働いていない可能性、裁判所は踏み込んだ判断を」また、この日会見に出席した代理人の松尾浩順弁護士は、提訴後に共産党側から提出のあった答弁書について、解説した。
「答弁書では、共産党と県委員会の双方が、請求の第1項については却下、それ以外については棄却することを求めています。
却下というのは、そもそも内容の審議に入らず、門前払いにするという意味です。
われわれが請求した第1項は、神谷氏が党員たる地位にあることを確認するというものです。それを党と県委員会の双方が却下するべきだと答弁していますから、おそらく『党員かどうかは裁判所が判断するな』といった内容の反論文が、今後提示されるのではないでしょうか。
今回の訴訟にあたって、私自身も初めて、除名ではなく除籍という形で共産党を追い出された人がこれまでにもたくさんいたことを知りました。これが横行しているのであれば、もはや組織内の自浄作用が機能していないということになります。
これまで、政党内部には自浄作用があり、司法がわざわざ入らなくてもよい、という判断がなされてきたかと思います(※)。しかし、それが働いていないのであれば、裁判所に踏み込んだ判断をしていただきたいです」
※最高裁昭和63年12月20日判決(共産党袴田事件判決)参照
次回期日は3か月後「とにかく遅い」なお、次回期日は4月24日の予定。
「とにかく裁判の進むスピードが遅く、牛歩戦術が取られているのではないかとも思ってしまいます。
共産党側は、実質答弁を3月末に出すということですが、われわれが提訴したのは11月ですから、年内は仕方ないとしても、1月の早い時期には実質答弁が出される、というのが普通のスケジュール感です。
夏に行われる予定の参院選など、さまざまな事情があるのだとは思いますが、本件では1人の労働者が職を失っている状況になっています。
そうした人を守ると自称してきた政党がこのような態度をとるというのは、問題があるのではないでしょうか」(平弁護士)