[リポート’25 久米島発]
樹齢250年以上を誇る国指定天然記念物の「五枝の松」や美しいリュウキュウマツ並木で知られる久米島町で、松くい虫の被害が深刻化している。2021年度に被害が初確認されて以降、爆発的に拡大。被害量(枯れた松の体積)は、同年度の219立方メートルから23年度には1万864立方メートルと約50倍に広がった。専門家によると枯死を引き起こす虫を根絶するのは不可能で、町は「地区によっては積極的に防除せずに松の本数を減らし、重要な松は徹底的に守る」方法で対策している。(南部報道部・新崎哲史)
松くい虫は、松を枯らす原因となる「線虫」を運ぶカミキリムシのこと。約1ミリほどの北米原産の線虫マツノザイセンチュウが松の枝葉を食べるカミキリムシに寄生し、木々を移動する。感染後は線虫が樹木内で急激に増殖し、松が水分を吸収できずに約2~3カ月で枯死する。
県内では日本復帰直後の1973年に公共事業で使用される木材に紛れて沖縄本島に侵入し、米軍基地内でまん延した。久米島では確認されていなかったが、21年度にカミキリムシの幼虫が入った木材とともに持ち込まれ、羽化とともに被害が拡大したとみられる。
被害1万6千本
久米島の被害量は24年9月には3569立方メートルに。減少したようにみえるが、町環境保全課は「感染の中心地だった島西側で多くが枯死した結果。いまは東側への感染拡大の懸念がある」としている。
感染確認から約4年でリュウキュウマツの被害本数は約1万6千本に上る見通しだ。枯れた松が倒木し、道路をふさいだり、電線が断線するなどの被害も出ているという。
感染拡大の原因として(1)過去に感染例がなく、松が多く残っている(2)初確認場所が山間地で伐採や防除など初期対応が困難(3)希少生物のクメジマボタルやキクザトサワヘビの生息地があり、薬剤の予防散布が限定的-などが挙げられる。
貴重な松を優先
町は21年に松くい虫防除対策会議を立ち上げ、重点防除のA区域を中心にB、C、D区域を設定し、区域ごとの防除方針を示した。五枝の松などは幹部分に松くい虫の侵入を予防する薬剤を注入するなどの対応を取っている。
同会議委員で琉球大学農学部の亀山統一助教は「久米島の被害状況では、九州中の造園業者を集めて駆除しても根絶できない。島にある松の密度と量を減らし、松くい虫の総数も減らして守るべき松を集中して守ることが重要だ」と指摘する。
県内への侵入確認から52年たつが抜本的解決はいまだにない松くい虫被害。亀山助教は県全体の対策として、未感染地域の八重山地方への監視強化とともに、地域住民が森や景観について自分事として考えることも必要だと指摘する。「松が枯れ、減っていくのを見るのは痛みが伴う。その後の島をどう考えていくか。松以外の樹木を植えるのか、持続可能な森と景観を一人一人が考えてほしい」と語った。久米島で松くい虫被害が深刻化 初確認から2年で被害量50倍に…の画像はこちら >>