なぜ日本にセダンを入れるのか? BYDに聞く「シール」導入の狙い

中国の電気自動車(EV)メーカーであるBYDが日本に4ドアセダンの「シール」を導入する。シングルモーターとツインモーターの2種類でフル充電での航続可能距離は600km近くを予定。発売は2023年末頃を見込む。それにしてもなぜ、BYDは日本にセダンタイプのEVを導入するのか。日本では有名なモデルの販売終了が決まるなどセダンの存在感が低くなっている気がするのだが……。

○SUV「ATTO3」は265台を受注!

オートモビルカウンシル2023でスピーチを行ったBYDオートジャパンの東福寺厚樹さんによると、シールは「SEAL」でアザラシの意。BYDが海の生物をモチーフに展開する「海洋シリーズ」の1台だ。シールのデザインについて東福寺さんは、「アザラシが水中で魚を取るため、急旋回するようなアジャイルさ」があると紹介した。

日本にはシングルモーターの後輪駆動車とツインモーターのAWD車の2タイプを導入する方針。フル充電での航続可能距離については「スペックを詰めているところ」とのことだが、600km近くを見込んでいるという。おそらくシングルモーターが長く走れるタイプ、ツインモーターがハイパフォーマンスなタイプになるはずだ。

BYDは2023年3月に日本でSUV「ATTO3」の納車を開始。8月にはコンパクトカー「ドルフィン」(こちらも海洋シリーズ)を発売する予定だ。SUVは人気だし、コンパクトカーは日本で非常によく見かけるから導入するのも理解できるが、なぜセダンまで入れようと思ったのか。BYDオートジャパンの広報に聞いてみた。

セダン導入を決めたのは日本市場におけるEVの選択肢を増やしたいからだ。ユーザーに好みのEVを選んでもらうため、幅広いボディタイプをそろえたいとの思いから、まずはSUV、コンパクトカー、セダンを導入することに決めたという。

BYDでは日本での販売計画を練るうえで、EV購入のハードルとなっている要素を調べたそう。その中で集まったネガな意見には「価格が高い」「充電が心配」「航続距離が短い」などのほか、「ボディタイプが少ないので選択肢が限られている」というのがあった。

「BEVには乗りたいんだけど、セダンは種類が少なく、乗りたいクルマがない」。こう考える人は一定数いるはず。テスラ以外にもEVセダンはあるのだが、今のところプレミアムな輸入車ブランドばかりで、手が届かないという人もいるのではないだろうか。そんな中で、「eモビリティを、みんなのものに。」を掲げ、手の届きやすい価格設定を心掛けているというBYDのセダンが入ってくれば、得たり賢しと購入希望者が集まってくるかもしれない。

問題は中国製のクルマ(EV)になじみがない人が日本に多いということだが、BYDでは2025年末までに全国100店舗超のディーラーネットワークを構築する方針。実際にクルマを見て、触って、乗れて、不明な点があればスタッフと話ができる拠点を整備するという、「自動車販売の従来型のプロセス」(BYDオートジャパン広報)を着実に踏むことで、日本でのブランド浸透と販売体制の構築を図っていく。ちなみに、現時点ではショールームを持つ正規ディーラー3店舗、試乗や商談ができる「開店準備室」が36店舗という体制を整えているそうだ。