全国労働組合連絡協議会(全労協)など複数の労働組合から構成される「雇用共同アクション」が1月27日、都内で会見。
「労働基準法の解体・ブラック企業の合法化」が進められているとして、厚生労働省の進める法改正・法整備の議論に対する意見を表明した。
厚労省研究会、報告書に14日以上の連続勤務禁止など盛り込む厚労省は1月8日「労働基準関係法制研究会報告書」を公表した。
学識経験者らによる同研究会では、昨年1月から労働基準法などの改正・法整備について、全16回の審議を実施。
労働組合の組織率低下や、テレワークの普及、デジタル化などによって、労働環境が多様化する中で、今後の労使間コミュニケーションや、労働基準のあり方が議論され、報告書にまとめられた。
報告書には14日以上の連続勤務の禁止や、家事使用人に対する、労働基準法の適用除外規定の見直しなどが盛り込まれており、雇用共同アクションによると、厚労省は今後、労働政策審議会や新たな研究会に議論の場を移して、法整備・法改正に向けた検討を進める方向だという。
「規制上回る長時間労働が可能になるおそれ」研究会での審議を受け、雇用共同アクションではこれまでに複数回にわたって意見書を提出。会見を行った27日にも、厚労省との意見交換を実施した。
会見に出席した雇用共同アクションの土井直樹氏は、報告書の内容が「労働基準法の形骸化・解体を狙ったものではないか」と訴える。
土井氏:「労働基準法は本来、労使が守るべき最低基準を定めたものです。
しかし、報告書の中身は、労使での合意を優先し、労働基準法を形骸化させ、法的基準を下回る働かせ方・働き方を可能とするものではないかと懸念しています」
特に雇用共同アクションが懸念しているのは、「デロゲーション」の容易化・拡大と労使コミュニケーションのあり方についてだ。
デロゲーションとは、「規制の逸脱」や「法規制の適用除外」を意味する。現行の労働基準法でも、時間外労働を許容する36協定の締結など、使用者側と労働者側が合意をした場合に、労働基準を下回るデロゲーションを認める仕組みがある。
土井氏:「報告書には、『事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とする仕組みとなっていることが必要』と書かれていますが、これは本来、法規制の適用除外などを意味するデロゲーションを『法定基準の調整・代替』という表現に言い換え、ごまかしているのではないでしょうか。
また、デロゲーションを行うための基盤として『実効的な労使コミュニケーションを行い得る環境が整備されていることも必要となる』との記述もあります。
確かに、労働組合が機能していない職場も増えているなかで、労使間のコミュニケーション強化は重要な課題です。
しかし、労使コミュニケーションは労組による団体交渉ではなく、話し合いや意見聴取もコミュニケーションに含まれており、これらは労使合意を成立させ得るものとは限りません。
このような労使合意とも限らないコミュニケーションで、長時間労働につながるようなデロゲーションを認め、規制の適用除外を拡大することはあってはならないと考えます。
報告書にあるようなデロゲーションの容易化や労使コミュニケーションのあり方が広まれば、たとえば普通のサラリーマンであっても、現在の36協定の規制を上回る長時間労働が認められるようになったり、あるいはこれまでは対象外であった職種でも、裁量労働制が導入されたりするおそれがあるのではないでしょうか」
「労働組合の活動、支援する制度必要」また、土井氏は労使コミュニケーションについて、労働組合への支援の必要性を訴えた。
土井氏:「報告書には、労使間のコミュニケーションについて『労働組合の活性化が望ましい』といった記述があり、労働組合の重要性が複数の箇所で指摘されています。
それにもかかわらず、どのように労働組合を活性化するのかという具体的な対策は示されませんでした。
実際、研究会の審議でも『労働組合は自主的な組織であり、あまり議論する必要はない』といった発言もあったようです。
ですが、労働組合の有用性を認識しているのであれば、まずは政府が組織率の向上を目標として掲げ、労働組合の結成や、活動を支援する制度が必要なのではないでしょうか」
「規制強化の観点で議論を」雇用共同アクション側は先述した内容のほかにも、報告書に割増賃金制度の縮小・廃止につながる議論が含まれていることなどに懸念を示しつつ、勤務間インターバル制度の義務化などを要求した。
土井氏:「政府・厚労省にはぜひ、労働者を守るための、規制強化の観点で議論を進めてほしいです。
また、労働者・労働組合の意見を取り入れていただくだけでなく、実際の議論にも労働者・労働組合を参加させるよう望みます」