フジテレビ“CM差し止め”影響で「233億円減収」見通し…スポンサー企業「広告料金の返還請求」に“法的根拠”はある?

元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルへの対応をめぐり、フジテレビのコンプライアンスやガバナンスに批判が集まっていることなどを受け、同社は27日に10時間超におよぶ“やり直し会見”に対応したが、テレビCMを差し止めているスポンサー各社の姿勢に顕著な変化は見られなかった。
また、2月以降のCM放映をキャンセルする動きも広がっているという。
なお、週刊文春はトラブルがあった当日の会食について、昨年12月26日発売号で「X子さん(編注:被害女性)はフジ編成幹部A氏に誘われた」と報じていたが、その後の取材で「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の“延長”と認識していた」ことが判明。1月8日発売号以降の記事では、前提が後者に変わっていたことが発覚し、波紋が広がっている。
ACジャパンは広告料金を支払っていない一連の騒動とフジテレビの対応の問題が明らかになって以降、スポンサー企業は続々とCM放映の差し止めを申し入れ、今では同局で放映されるCMのほとんどが「公益社団法人 ACジャパン」のものとなっている。ここ数週、日曜夕方には国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」「サザエさん」が何社提供で放送されるかにまで注目が集まり、Xのトレンドをにぎわせる事態だ。
今回、思わぬかたちで大量のCMが放映されることになった「ACジャパン」だが、同法人のCMはフジテレビを含む会員媒体社(放送局、新聞社、出版社、インターネットなど)の協力により無料で放映・掲載されており、同法人からフジテレビへ広告料金が支払われているわけではない。
また、一般的にスポンサー企業はテレビCMの広告料金を先払いしている。そのため、表向きはACジャパンのCMが流れていたとしても、出資元がスポンサー企業であることに変わりはない。
ACジャパンのCMはあらかじめ各放送局に納められており、災害などの有事によってスポンサー企業がCM放映を自粛した場合などに、各局の判断で適宜放映することができる。これまでにも、東日本大震災や、ここ数年では新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言、安倍晋三元首相銃撃事件などにともない、ACジャパンのCMが一時的に集中して放映されたことがある。
「広告料金の返還」法的根拠は?しかし今回は、CMを放映する側であるテレビ局の不祥事によって、「その局に出稿することが企業のイメージダウンにつながる」との意図から差し止めが起きるという異例の事態だ。
一般的にこうしたケースでは、スポンサー企業がテレビ局に対し、ACジャパンのCMに差し替えた分の広告料金の返還を求めることはできるのだろうか。エンターテインメント業界の企業法務に詳しい青沼貴之弁護士は、次のように説明する。
「契約書の内容によりますが、基本的には返還を認めない旨の条項が定められているため、返還請求は困難であると想定されます。
もっとも、スポンサー企業との今後の関係性、レピュテーションリスクなどを考慮して、テレビ局が任意に返還に応じることはあり得るように思います」
また、2月以降のCM放映をキャンセルする動きも広がっており、スポンサー企業はこの先の対応をどうすべきか、頭を悩ませているだろう。仮に先々のCM契約まで結んでしまっていた場合、テレビ局側の不祥事を理由にそれを取り消すことはできるのか。
「こちらも契約書の内容によりますが、スポンサー企業がテレビ局に対して違約金を定めている場合も想定され、その場合には契約解除が困難になります。
ただし、CM差し止めによる返還請求と同様の理由により、テレビ局が任意に契約解除に応じるとともに、違約金を請求しないという対応を講じる余地もあるでしょう」(青沼弁護士)
フジテレビの清水賢治新社長は30日、報道各社の取材に応じ、スポンサーによるCM差し止めの拡大によって2025年3月期の広告収入が従来予想から233億円減の1252億円になる見通しだと発表。同日の取締役会で、差し止め分の広告料金はスポンサー側へ請求しないことが正式に決まったという。
ただ、この流れに業界からは同情の声もある。
民放他局のプロデューサーは、「スポンサーに対して、女子アナ同伴の接待(性接待ではなく、女子アナを隣に座らせてお酌をさせるような会食)は日常的に行われている。局側は、スポンサーのランクによって女子アナや接待のレベルも変えている。これまで散々“いい思い”をしてきたはずなのに、騒動になった途端、トカゲのしっぽ切りのような態度に出られるのであれば浮かばれない」と吐露した。
「なぜ出稿を続けるのか」視聴者からクレームも…なおCM差し止めをめぐっては、放映を続けている企業が「どんな接待を受けていたのか」と疑われたり、CMを見た視聴者から「なぜ出稿を続けるのか」とクレームの電話を受けたりするなど、混沌(こんとん)を極めている。
前出の民放プロデューサーも、「スポンサー企業が、視聴者や消費者から疑いの目で見られることを避けたいというのも、差し替えドミノが加速した要因では」と言う。
ただし、資金力のある大手企業ならともかく、差し止めた分の広告料金がテレビ局から返還されるか不明な状況で、中小企業が自社のCMをACジャパンのCMへ切り替えることは、簡単な決断だったとは言えないだろう。
差し止めを継続しているスポンサー企業からは、27日の記者会見にも厳しい声が相次いでおり、事態はしばらく沈静化しそうにない。