東海大学の非常勤講師8人が、無期雇用への転換を申し込んだところ、雇い止めを受けたとして同大学を訴えていた訴訟で1月30日、東京地裁は原告の請求を棄却する判決を言い渡した。
東海大学は取材に対し「本学としては、教員との間で係争になっていたことは本意ではないものの、裁判においてはこれまで本学として主張してきたことが認められたものと考えています」とコメントしている。
大学側「非常勤講師は特例の対象」と主張本訴訟の原告はいずれも、東海大学で非常勤講師として語学などの授業を担当。大学との間で契約期間1年の「有期労働契約」を締結しており、契約は毎年更新が行われていたという。
原告らは契約の通算期間が5年を超えており、2022年5月から同年10月までの間に、労働契約法18条に基づき、無期転換申込権を行使。
労働契約法18条では、契約の通算期間が5年を超えた有期雇用契約者が、無期労働契約への転換を申し込んだ場合は、使用者は当該申し込みを承諾したものとみなすと定められている。
一方、大学側は、大学の教員等の任期に関する法律(任期法)4条1項や、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(イノベ法)15条の2第1号の特例適用を主張。
これらの2つの法律では、5年の期間を10年に延長することが定められており、原告らは無期転換に必要な期間を満たしていないと反論し、原告側の申し込みを認めていなかった。
さらに、大学側は原告側に対し2022年度(2023年3月)限りの「雇い止め」を通告。これをうけ、原告側は2022年11月に地位の確認や給料の支払いを求め提訴に至った。
「任期法4条1項1号が争点に」裁判では、イノベ法の特例適用について「授業の担当のみを業務の内容とする非常勤講師には適用されない」(無期転換が認められる)とする裁判所の判断(※)が確定していることから、任期法の特例適用が争点となったという。
※ 東京高裁2022年7月6日判決(専修大学無期転換事件判決)
この日会見に出席した代理人の田渕大輔弁護士は、裁判の詳細について次のように解説する。
「裁判では、原告の非常勤講師の方々が、任期法4条1項1号で定められた『先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職』に該当するのかどうかが主な争点となりました。
この規定の解釈は、大阪の羽衣国際大学で起きた、専任教員の雇い止め事案でも争点となった部分です。
2023年の大阪高裁判決では、『特例適用の対象となるかどうかは厳格に解釈されるべき』と判断しており(大阪高裁令和5年(2023年)1月18日日判決)、われわれもこの判断などに基づく形の主張を展開していました。
しかし、昨年の最高裁判決ではこの大阪高裁判決が破棄され、無期転換には10年の通算期間が必要であるとする判断を示していました(最高裁令和6年(2024年)10月31日判決)。
ただ、この事案は専任教員について争われたものです。
専任教員は、専門分野を大学で研究し、それを教育に生かすことが期待される役職です。
今回原告となった非常勤講師の方々は、もちろんそれぞれに専門分野がありますが、 大学でそれを研究しているわけではありません。むしろ多くの方が、自分の研究分野と結びつかない授業を担当しています。
こうした実態があるにもかかわらず、今回の判決では、原告の方々が任期法4条1項1号に当てはまると判断しています」
「最高裁の判断に必要以上に引っ張られた判決」そのうえで、田渕弁護士は「判決は粗雑で、誤っている」と指摘した。
「任期法には4条1項1号以外に、4条1項2号の規定があります。2号では助教の方々を一律に適用対象としていますが、他方で非常勤講師の方々を一律に適用対象にしている規定はありません。
もし、4条1項1号の適用を認めるのであれば、4条1項1号の要件を満たしているかどうかを原告ひとりひとり、個別で判断するのが筋だと思います。
しかし、判決では一律で適用対象になるとの判断がなされました。
そして、その背景には先述した最高裁判決が影響しているとみて間違いないのではないでしょうか。
ただ、最高裁判決はあくまでも専任教員への特例適用を認めた判決にすぎません。それにもかかわらず、今回の判決は最高裁の判断に必要以上に引っ張られており、不当と言わざるをえません」
原告「当然認められると考えていた、大変残念」会見の終盤、出席した原告団長の河合紀子氏は、判決への受け止めについて以下のようにコメントした。
「私たち非常勤講師は、仕事として研究活動を命じられたこともなければ、研究室も研究費も支給されていません。単に授業を担当しているという認識で、当然無期転換が認められると思っていました。このような判決になってしまったのは大変残念です」
同じく会見に出席していた東海大学教職員組合の佐々木信吾執行委員長も、次のように述べた。
「正式にはこれから組合員、そして原告と相談して決めますが、組合の代表者としては控訴する方向で考えています。
また、ほかの大学でも同様の問題で戦っている人たちがいますから、そうした方とも連携を取りつつ任期法そのものをなくす運動も、あわせて展開していきたいと思います」