「送料無料はなぜ実現できるか」を経済学的に考察 そこには4つのからくりが…

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「いやいや、無料で食べられるランチなんて存在しないよ!」
これは経済にまつわる有名な教訓です。
無料で食べられるランチ、すなわち「フリーランチ」とはもともとは19世紀末のアメリカの酒場で提供されていたサービスです。当時、真昼間にお酒を一杯注文すれば豪華なランチがタダで出てくるのが西部の酒場の一般的な慣習でした。
登場した当初はおつまみ程度の軽いものだったそうですが、だんだんと内容が豪華になり最盛時にはビュッフェスタイルの食事がビール一杯で食べ放題だったという記録もあります。
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なぜこのように豪華な食事がタダなのか? 当時の経済学者が調べた結果、そのような酒場はお酒の価格をフリーランチのない酒場よりも高く設定していて、しかも塩辛い料理を食べる客の大半が一杯のお酒ではのどが渇いて何杯も飲み物を注文していて、それで元がとれていたという話です。
ここから、
「フリーランチなど存在はしない」
という経済の格言が生まれました。一見、タダに見えるサービスが存在するのですが、それは皆、どこかで元を取ることで成立しているという話です。
さて、現代のネット社会では「フリーランチ」に代わる無料サービスがたくさん存在します。今回の記事ではその無料サービスのひとつである「送料無料」について解説したいと思います。
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送料無料といいますが実際は配達する人のコストがかかっています。小さな宅配荷物でも、どんなに安く運んだとしても業者側は400円程度コストがかかります。では業者側はどうやってそのコストを回収するのでしょうか? 4つ方法があります。
ひとつは「3,900円以上なら送料無料」のように一定以上の金額にすること。3,900円の商品の粗利はだいたい1,200円ぐらいになりますから400円の配達コストがかかってもなんとか吸収できそうです。
ふたつめはメール便のように「ついでに配達する」ことでさらにコストを下げる方法です。メール便はダイレクトメールを宅配するための配送網で、配達エリアの近所に住んでいる人をアルバイトとして使うことでコストをさらに下げています。
これならば追加の荷物も150円程度のコストで運べます。1個なら収支トントンですが一緒に配達するダイレクトメールで利益があがっているので大丈夫というのが配送業者の考えでしょう。
3つめはフリーランチと同じで「他で儲ける」方法です。アマゾンプライムに入会するとアマゾンからの配達が無料になりますが、アマゾンは年会費の4,900円だけではそのコストは回収できません。しかしアマゾンプライムに入る人は習慣として何でもアマゾンで買うようになるため年間で莫大な金額の買い物をしてくれる。結局アマゾンから見れば儲かっているのです。

さて、この話にはもうひとつオチがあります。4番目の方法は「下請けの配送業者をいじめてコストを負担させる」です。その結果何が起きるかは経済学でわかっています。配達などのエッセンシャルワーカーの給料が低く抑えられてしまうのです。
そのような社会では消費が増えません。景気が悪い状態が長年続くようになります。すると下請け業者だけでなくそれを使っている社会全体で給与水準が下がってしまいます。儲からないから給料が上げられないようになるのです。
つまり「配送無料が広がれば広がるほど、景気が悪くなる」という形でわたしたちはフリーランチの費用を負担することになるわけです。やはり「配送無料」など存在しないのですね。

Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。
今週は、「ネットショッピングの『送料無料』」について、そのメカニズムの解説でした。