町に根差し子ども支援 100年医院承継「世界より良く」 白子の医師 森徳郎さん(37) 【千葉県誕生150年 ミライのちば人】

白子町で108年続く大多和医院を2021年9月に承継し、子ども向けのイベント開催など医療にとどまらない活動を展開する若き院長。「世界をより良くする」ために-。へき地や海外での勤務を経て、人口約1万人の小さな町でミライに向けてこぎ出した。
札幌市出身の総合内科専門医。17年から認定NPO法人「ジャパンハート」の海外事業に参加し、帰国後は新型コロナのクラスター支援に携わった。
事業が軌道に乗り、コロナ禍で従来のルーティンが変わる中、将来を考える時間ができた。子どもたちの命を救いたいが、「どんなに良い医者になっても助けられない人がいる」。医師としての限界も感じていた。「自分一人では無理。みんなでやらないといけない。僕は僕として組織を作って世界を変えていく」と思うようになった。
へき地勤務の経験から、自らの価値を高められるのは地域医療だと考え、後継者を探していた大多和医院と巡り会った。8500平方メートルの敷地に850平方メートルの建物があり、広さを生かせる点も魅力だった。
それまで千葉との縁は海水浴に訪れた程度。転勤族で地元と呼べる場所はなかったが、移り住んだ白子の良さに触れるうち、“地元”のために何かしたいという思いが芽生えた。
昨年4月ごろに社会事業を立ち上げ、「子育てしやすい地域になれば、人が増えるのでは」と子ども向けの催しを企画。7月にヒマワリの種植え、9月にものづくり体験などのサマースクール、今年3月にはスポーツイベントを開いた。

今、準備しているのは学習支援だ。医院の空きスペースで元教員が宿題などを教える予定で、夏までには始めたいと意気込む。
医師や看護師ら医療部門のスタッフ約30人に加え、教育ベンチャーに携わる知人らと一緒に取り組む。その拠点である診療所は、さまざまな人や仲間が乗る「ボートみたいなイメージ」だという。
2月には町と連携協定を結んだ。「今必要だと思ったことを柔軟にやれる存在になりたい。うまくいったことを町が大きくやってくれたら良い」。医療を中心に、その周辺にある地域課題の解決に挑む。
◇もり とくろう 1985年7月22日生まれ。北里大医学部卒。2010年から横須賀市立うわまち病院で研修を積む傍ら、東北、沖縄などの医療過疎地に勤務。ジャパンハートでは、カンボジアやミャンマー、ラオスで活動した。愛犬のスプートニクは、医院の看板犬的な存在になっている。