三重県桑名市の多度大社で馬に跨って、土の壁を駆け上がる伝統の祭り「上げ馬神事」が5月4日、4年ぶりに開催されました。 騎手を務めた19歳の男性は、父親の夢だった「上げ馬神事」挑戦を叶えようと、祭りに挑みました。 風を切り疾走する馬。向かうのは、坂の先にある高さ2メートルの土の壁です。
4日、4年ぶりに開催された多度大社の「上げ馬神事」。馬にまたがるのは、地元に住む19歳の蛭川和哉(ひるかわ・かずや)さん。ある決意を胸に神事に臨みました。
4月21日、まだ夜明け前の厩舎に和哉さんの姿はありました。和哉さん:「今はちょっと不安です。だけどそんなことたぶん言ってられない」 今回の神事で初めて馬に乗る和哉さん。約1カ月間毎日、平日は出勤前に練習してきました。
和哉さんはこの前日に落馬し、足を痛めていましたが練習はやめません。和哉さん:「気持ちが自分は弱い方なんで。マイナス思考になって(野球部の)夏の大会とかでも、自分がミスしたりして負けたことが多くて。(馬から)落ちたらどうしようみたいな、それが今までの自分。『(乗り子の)候補としてあがっているけどどう?』って言われた時に、ここで逃げたらまた一緒かなみたいな。これで自分の気持ちを変えるなら今かなみたいな」
強い決意で臨んでいました。 練習を見守るのは父親の勇樹さん(58)です。父親の勇樹さん:「馬が止まるまで心配やでね、良かった良かった。足を張って(馬を)止めたりするときに負担がかかる。ケガのない状態で坂に挑んでほしい、親心ですわね」 今回、息子が乗り子を務めることに、特別な思いを抱いていました。勇樹さん:「僕は経験はないです。(当時は)応募が多かったみたいで、乗りたかったですね。僕が和哉に託すという形で思ってますけどね」
700年の歴史を誇る上げ馬神事。以前は応募する人も多く、機会に恵まれませんでした。勇樹さん:「息子の晴れ姿を見て、坂を駆け上がって、親子で抱き合って男涙。そういうところをずっと夢に思ってますね」和哉さん:「だいぶ(父に)迷惑かけてきたので、やっと恩返しできる時が来たかなと。最初に比べたら、ちょっと自分の気持ちも変わってきたかなみたいな」 マイナス思考の自分を変え、父の夢を叶える。3日にはケガも完治し、本番に臨みます。
5月4日、大勢の観衆が200メートルほどのコースに詰めかけました。和哉さんを含む6人の乗り子が、2日間で3回ずつ壁に挑みます。
和哉さん:「今まで練習してきた成果をここで出して、皆に感謝の気持ちと同時に一緒に上がるのが目標です」 迎えた和哉さんの1回目は…失敗。
和哉さん:「ミスしてしまって、そのままあまりうまく立て直すことができず。雰囲気はつかめたので、次はいかして絶対上げたいと思います」 そして、2回目も失敗…。
父親:「この伝統ある祭りに、挑戦するという勇気が素晴らしいです。なんとか成功させて、男涙流して、一緒に泣きたいですね」
和哉さん:「恩返ししたかったですけど、まだちょっとできなかったので、申し訳ないのがむちゃくちゃ強いですね。明日は絶対、何が何でも上げたいと思います」
親子の思いと決意を胸に、和哉さんは5日午後、最後の1回に臨みます。