415キロ山岳レースTJAR4連覇、伝説のランナー望月将悟さん…山々の素晴らしさ伝える活動も

富山湾から日本アルプスを縦走して駿河湾に至る415キロの山岳レース、トランスジャパンアルプスレース(TJAR)で4連覇した伝説の山岳ランナー、望月将悟さん(45)は静岡市消防局消防司令で、山岳救助隊の副隊長も兼ねている。第一線のレースには一区切りをつけたが、今も人命救助のためのトレーニングは欠かさない。そしてこれまでの経験で知った山々の素晴らしさを伝えるための活動も始めた。(甲斐 毅彦)
新芽が香る茶畑を登ると、右手には太平洋が見えた。左手には南アルプスへと続く竜爪山(1051メートル)。望月さんのランニングコースの一部だ。
「眺めもいいし、いつ来ても気持ちよく走れます。静岡は恵まれていますね」
井川地区で生まれ育った。少年時代は実家で栽培しているワサビやシイタケを摘んでは竹かごに入れ、父が待つトラックの荷台へ降ろすと、また空のかごを持って登る。こんな毎日だった。
「手伝いが家の日常でしたね。助かったぞと父に言われると嬉しかった。でも自分の生活の場が南アルプスにつながっているとは知りませんでしたね」
消防局に入ってから本格的な登山を始め、出会ったのがTJAR。富山湾から北、中央、南アルプスの3000メートル級の山々を経て故郷へと至るレースは魅力的だった。精鋭でも脱落者が続出し、日本一過酷と言われるレースだが、初出場の10年に大会新記録(当時)の5日5時間22分で優勝。16年には史上初の4連覇を達成した。22年(4位)までに6度出場し「やりきった」という実感がある。だが、人命救助の戦いは続く。南アルプスから遭難者を背負って降ろしたことも今まで何度もあるという。

「聖平小屋から大雨の中で降ろしたこともあった。これはきつかったですね。でも、絶対背負って降ろすぞ、という気持ちになる。レースの体験で極限状態に置かれた時に、自分がどういう気持ちでいられるかが分かる。これは仕事でも役立っています」
最近は少年向けのトレラン教室や登山教室などでの啓発活動も始めた。来年は南アルプスがユネスコのエコパークに登録されて10周年。出番は増えそうだ。
「恩返し的な活動ができれば。手つかずの自然が多い南アルプスにはワクワク感がある。登るだけに限らず、その良さを伝えていきたいと思います」
◆望月 将悟(もちづき・しょうご)1977年9月13日、静岡市井川地区(現葵区)生まれ。45歳。静岡工高卒業後、清水市消防本部に入り、本格的な登山を始める。2000年に国体の山岳縦走競技の県代表に選出。山岳救助隊員となった03年頃からトレイルランニング大会に出場。隔年開催のTJARで10年から16年まで4連覇(18年は無補給で挑戦し7位で完走)。15年には40ポンド(約18キロ)の荷物を背負ったフルマラソンで世界記録(3時間6分16秒)を樹立。169センチ、65キロ。