大人に相談した子どもの約6割「相談しなければよかった」 若者支援の“現実”に立ち向かう男の奮闘

東京のトー横、大阪のグリ下、福岡の警固。コロナ禍以降、繁華街に”居場所のない子どもたち”が集まるようになり、地名を冠して〇〇キッズ、〇〇界隈と呼ばれるようになった。報道では「パパ活」「OD」「リスカ」など、センセーショナルな部分ばかりが注目され、背景にある問題や支援の実態は、世間に十分に理解されているとは言い難い。
公的支援が広がる一方で、大人に相談した子どものうち約60%が「相談しなければよかった」と感じているという。彼らが抱えている問題の本質、支援者の悩み、そして本当に必要とされている支援とはなにか。福岡市の警固公園を中心に若者支援を続ける『SFD21JAPAN』の小野本道治さんに話を聞いた。
「親の再婚」きっかけに心のバランスが崩れる子どもたちまず、子どもたちが抱えている悩みについて「さまざまだが、その背景には共通する原因がいくつかある」と小野本さんは指摘する。
「貧困」「虐待」「ネグレクト」といった、分かりやすい負の要因だけでなく、親子関係のすれ違いなど、統計などからは表面化しにくい事情も影響しているという。
「多いのは”家庭環境の変化”。特に親の再婚がきっかけで心のバランスが崩れ、家庭に居場所がないと感じてしまう子が多いです。たとえ再婚相手が良い人であっても、子どもにとっては別の問題。自分の親が”異性”として振る舞う姿を見てしまうと、気持ちが追い付かず、不安定になってしまうことがあります」(小野本さん、以下同)
再婚後に弟や妹が生まれたことで、心が壊れてしまう子どももいるそうだ。
「最初は可愛がったり、世話をしようと頑張ったりするんですよ。でも、積み重なった我慢や疎外感から、呪(のろ)われたかのようにだんだん心がつぶれていく。そういう子は気が利いているし、お手伝いもちゃんとできます。でも、本人の中で何かがうまくいかなくなってしまうようです」
過度な「干渉」「期待」が子どもを追い詰める親による「過干渉」も、子どもにとっては生きづらさの一因となるという。
過剰な心配から親が子どもの行動を制限したり、管理しようとすると、子どもは自由を奪われたように感じる。さらに、親の干渉があるからこそ、「問題を相談できない」と悩む子も多いそうだ。
「子どもからいじめを打ち明けられ、学校や相手の家に怒鳴り込みにいく親もいます。親心から出た行動としては正しく見えるかもしれませんが、子どもの気持ちとしては『大事(おおごと)にしたくない。ただ話を聞いてほしかっただけ』と思っていたケースも多いです。
いじめに限らず、友人間のささいなトラブルでも、親のフィルターを通して話がどんどん大きくなってしまう。こういうことがあると、子どもは親に相談しなくなるんです」
また、教育熱心な家庭では、子どもが心身のバランスを崩しやすい。その要因は大きく分けてふたつある。ひとつは、親の期待や管理が過剰になり、子どもが精神的に追い詰められるケース。これは近年、「教育虐待」として注目を浴びている。
もうひとつは、子ども自身が成績の伸び悩みに直面し、挫折を味わうケースだ。
「小学校の頃は神童のように成績が良かったけど、受験して私立中学に入ったら『中の下』になってしまったというような”私立中学崩れ”とも呼ばれる現象です。塾も同じで、優秀な子が集まる環境では神童が”普通”になる。もともと頭が良いのに、劣等感を抱えてしまいます」
親の期待に応えようと無理を重ね、疲れ果てる子もいれば、周囲と比べて「自分はダメだ」と思い込む子もいる。どちらも精神的な負担が大きく、不登校や自信喪失につながりやすい。
さらに、両親の共働きが理由で子どもが不登校になるケースも少なくないという。
「共働きの家庭では、食事代だけが渡され、子どもが好きなものを買って一人で食事をすることが多い。その結果、食事、入浴、睡眠のリズムが崩れ、夜ふかしが習慣化。朝起きられず、学校に行く気力を失ってしまいます。特に夕食の時間が不規則な子どもほど、不登校になりやすいと感じています」
ただし、「両親の働き方は、現代社会ではどうしようもない部分もあります」と小野本さんは深く息をつく。
「だからこそ、地域や学校も含めたサポートが必要です」
大人に相談した子どもの約60%が「相談しなければよかった」本来であれば、居場所もなく孤独を抱えた子どもたちにとって、支援団体は頼れる存在のはずだ。しかし実際には、「相談しなければよかった」と後悔する子も少なくない。
「警固公園に来る子たち200人以上にアンケートを採ったところ、過去に支援団体などの大人に相談した子のうち約60%が『相談しなければよかった』『死にたいと思ったことがある』と答えています。
多くの子は、ただ大人に話を聞いてほしかっただけ。それなのに大人が解決しようと動き、自分の望まない方向に事態が進んでしまった。『相談したせいで状況が悪くなった』と感じて、後悔するようです」
たとえば、親から性被害を受けた子がいた場合、支援者としては当然、児童相談所や警察に通報する。しかし子ども目線では、それが必ずしも「救い」とは限らない。
施設に保護されることで友達と会えなくなり、両親は離婚。残された親は悲しみに暮れ、生活も厳しくなる――。そうした変化に直面し、「信じてしゃべったのに裏切られた」と感じてしまう子もいるそうだ。
「本当は最終的に『相談してよかった』と思われるまで関わっていかないといけないのに、支援者のサポートが多くの場合、『相談しなければよかった』の段階で止まっています。
児童相談所や警察につないだあと、支援者が子どもと継続して会えているか。たとえ『お前が家族をバラバラにしたんだ』とののしられても、面会を拒否されても、めげずにコンタクトを取り続けられるか。そこが一番大事だと思います」
浮き彫りになるコロナ禍の影響支援者と子どものすれ違いが発生する背景には、関係構築の難しさがある。
「居場所のない子や非行少年たちとのコミュニケーションは年々難しくなっています。特に大きく変わったのはコロナ禍以降です。あの3年間で学校教育が止まってしまったんじゃないかと思うほど、子どもたちのコミュニケーションの形が変わりました」
非常事態宣言が始まった2020年に中学や高校に入学した「フルコロナ世代」は、人と関わる機会が少ないまま成長してきた。その影響は支援の現場でも顕著だという。
「警戒心の有無には個人差がありますが、だいたい会話が15分と続かないで途切れてしまう。僕たちのコミュニケーションが下手なんだと言われたらそれまでですが、特徴的なのは、グループトークができないこと。1対1なら自然に話せても、3人以上での会話になると、しゃべれなくなる子が多いです」
また、若い支援者の中にもグループ面談を苦手とする人は多く、支援側のコミュニケーション力と意識が問われている。
「多くの支援団体を見ていると、支援者と子どもたちの間に『対象者とスタッフ』という大きな壁があるように感じます。僕たちSFD21JAPANは、『ここに来たら僕たちの仲間。仲間が困っているから公的支援につなぐんだ』という気持ちでやっている。
そのファミリー感があると、子どもたちも信用してくれて、『何かやったらあの人を悲しませるからダメだ』という感覚が芽生えてきます。線引きをしすぎると、『何をやっても悲しむ人がいない』という状況になり、問題が繰り返されるだけです」
一部の支援団体や公的窓口は、夜間や土日の電話対応を行っていない。この対応の限界が、「子どもたちと信頼関係を築く上で障壁になっている」と感じた小野本さんは、24時間態勢で電話相談を受け付けている。
「周りからは『きつくないですか?』と聞かれます。でも、行政が対応していない時間帯や曜日に電話を切っていたら、その間に何が起こるか分かりません。月曜の朝に何十件も着信や『死にたい、助けて』というメッセージが入っているほうが、僕にはよっぽどきついです」
〇〇キッズブームの先で必要とされるもの小野本さんは昨年から、自身の地元である福岡市西区で新たな”居場所づくり”に力を入れている。警固公園での支援活動を通じ、「公園内だけで問題を解決しようとしても、本当の支援とは言えない」と悟ったからだ。
「公園に集まる子たちの地元や親のもとに問題を持ち帰り、一緒に解決しなければいけないと気づきました。警固公園も、夜になれば支援団体が撤収してしまうので、子どもたちは取り残される。だからこそ、子どもたちが住んでいる地域に支援の場を作らないといけないんです」
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SFD21JAPANが福岡市西区で定期開催しているドッグカフェ・cafe WAN for all

しかし、地域に”居場所”を作る難しさも痛感しているという。
「警固公園でフリースペースを開けば、必ず子どもたちが来て賑(にぎ)わいます。もともと人が集まる場所でやっているから、どんな団体でも成功する。でも公園外のエリアで『この地域の子どもたちのために』と居場所を開いても、まず地域と保護者の理解を得られにくくなかなか成功しません」
「不良が集まるのではないか」といった偏見から町内会などの反対にあったり、「近所から問題のある子だという目で見られる」と利用をためらう保護者も多い。しかし、いわゆる「〇〇キッズブーム」の終焉の先で必要とされるのは、地域での不登校支援なのだと小野本さんは訴える。
「ブームはいずれ終わり、彼らはいつか繁華街に集まらなくなる。そして、また違った形で居場所のない子たちのコミュニティーが作られるはず。その時、最終的に必要とされるのは”不登校支援”です。キッズたちに共通しているのは、”学校に行けないこと”ですから。つまり支援団体の活動も、不登校支援に回帰していくと思います」
しかし現状では「不登校支援はそれほど活発ではない」と小野本さんは言葉を続ける。
「『無理に学校に行かなくていい』と、不登校を認める世の中になってきましたが、まだ課題がある。たとえば行かない代わりに、どう過ごすのか? そのフォローが少ないと感じています。ステップルームと呼ばれる、学校内での不登校支援教室の制度はありますが、そこにすら行けない子もいる。学校内だけでなく、各地域に民間の居場所を作り、官民で連携を組むことが大切です」

cafe WAN for allの様子。WANプロジェクトと題し、カフェ以外にも保護犬を活用した居場所づくりをしている。

居場所のない子どもたちは、時代ごとに集まる場所や形を変えてきた。しかし、根本にある問題は変わらない。今の〇〇キッズブームが終わったとき、それでも支援の手を差し伸べる大人がどれだけ残るのか。小野本さんは最後にこう語った。
「トー横や警固に集まる子たちのファッションが、昔の不良のようにリーゼントと特攻服だったら、ここまで注目されず、支援者にも見て見ぬふりをされていたはずです。今は見た目がおしゃれで怖くないから、支援者も声をかけやすい。マスコミだってそうでしょう。
でも実際は、見た目や集まり方など形が変わっても、子どもたちの中身や、抱えている問題の本質は変わっていません。支援者はもちろん、報道機関にも、報道を見た人たちにも、子どもたちを取り巻く問題について一緒に考えてほしい。継続的に見守っていってほしいです」